焚き火

ガキの頃、焚き火のにおいが好きだったのを思い出した。正月飾りをお焚き上げするときか、じいちゃんが畑を焼くときにしか嗅げなかったにおいだ。燃しているうちはあまり煙を吸い込まないようにしていたけれど、あとで服の繊維に染み込んだにおいを肺に回すと、ぱりぱりと軽やかで、焦げ臭さと共になぜか懐かしい気分になる。何年ぶりかわからない焚き火だけれど、今日はそのにおいは嗅げそうになかった。

 ジップロックの中には乾燥剤と共に紙の筒がぎっしりと並べられて入っている。黄土色とドブの腐った緑色を混ぜたようなその色は、簡易に掘った穴の中に放り込まれて一斉に紅く光ると、すぐに灰色に変わっていった。

「ねえガチ臭えんだけど。あー、クソ。ほんとに大丈夫なのこれ」

 二重につけた不織布マスクの下から瑠夏のこもった声が聞こえた。さすがに布を二枚も隔てているからか、言葉の音ひとつひとつの角がとれて、輪郭がにじんでぼやけ、何を言っているのか耳を澄ませていないと、その酒で焼けた声はハッパの燃える音に容易にかき消された。

「じゃあなんかこれ以外あんの? ねーべよ」

「埋めりゃいいじゃん」

「だからさ、ベルが中央の手押し刺してからマジでポリうっせえつってんべな。埋めてたバカなんて掘り起こされて全員もう拘置所だしよ。今のうち燃しちゃわねえと絶対バレんだろ」

 毛先の痛んだ金髪の間から瑠夏は俺を少しの間睨んでいたが、ケホッケホッと膝に手をついて数回咳き込むと、舌打ちをして残りの草を放り込み始めた。

 俺はこのにおいが嫌で、草のプッシャーなんてしているくせ、リキッドのTHCOですらやらなかった。都会でやってバレるやつは大抵異臭騒ぎのせいだ。例えるなら、てろてろに溶けた菜っぱを煮詰めたような、吐き気を催す青臭い煙が鼻を捻じ曲げる。

 「ふ」と打ち込むだけで、予測変換にはブロッコリーの絵文字が出てくる。ネットで客を集めるときの隠語だ。それを見るたび、ブロッコリーが臭いとか言って残してた優馬ん家のガキが脳裏によぎった。我慢しろ。こんなのに比べれば、ずっとマシだ。何万で仕入れたのかもう覚えていない草の筒を火の中にくべる。少なくとも利益がゼロなのだけは確かだ。クソがよ。瑠夏の声がした。横を見ると、パキりながら夜中SHEINで買っていた、色素がバグった毒ガエルみたいな柄のワンピースが目に入った。俺は糸のほつれまくったGAPのパーカーを着ていた。どうせ服がお釈迦になるのなんてわかっていたから、俺たちは一番いらない服で来ていた。だけど、思っていたよりにおいは強烈だった。もう身体の中にまで染みついていそうで、簡単に洗い落とせそうにはなかった。

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