第71話 ハワイでマラソン大会だぜ【後編】
ホノルルマラソンは朝の五時にまだ薄暗い中をスタートして、安定のケニア選手達が先頭を快調に飛ばしてる様だ。
ペースメーカーの選手が残る三十キロメートル地点までは、俺は遅れすぎない程度のペースで走ろうと決めていた。
でもホノルルマラソンって本当にハワイなの? って思うほどに日本人だらけなんだよね。
今回も三万人の総出場者に対して、日本人が一万八千人と半分以上だったよ。
俺は綾子先生と遊真にペースを合わせて走りたいし、期待されても困るんだけど……テレビカメラは先頭グループで走ってるわけでも招待ゼッケンで走ってる訳でも無い、俺にピッタリと二台のバイクを並走させている。
お祭りイベントだから俺は時々手を振って、愛想を振りまいてるぜ!
でもちょっと事態がおかしな事になって来てる。
予想ゴールタイムのランクでスタート位置は大体決まっていて、俺達は恐らく綾子先生が三時間くらいで走れるかな? と予想したので、女子招待選手達よりは大分後ろからスタートしたんだけど、現在十キロメートル地点で、招待ゼッケンをつけた女子選手を何人か追い抜いてしまってる。
俺は当然としても、綾子先生とか遊真は公式記録は何もないしいきなりフルマラソンでトップグループで走られちゃっても悪目立ちしちゃうだけに成ると思い、一応確認してみた。
「先生目立っちゃっても大丈夫なの?」
「あんまり良くないかも知れないけど、三月になれば翔君のマネージャー業務に専念だし、先生としての思い出作りでやれるとこまでやってみようと思います」
と、返事が返って来た。
遊真も綾子先生も全然息が乱れてないし、「それじゃぁきつくなったらいつでも言ってね。三十キロメートル地点でペースメーカーの選手が外れるまでは、先生たちのペースに合わせて走るからね!」
「ありがとうございます。でも無理に合わせなくても優勝狙ってもいいんですよ?」
と、言ってくれたけど、今回は思い出作り優先だから三十キロメートルから先の流れで狙えれば程度でいいや。
遊真は「もう少しペース上げないか?」と、かなり余裕の表情で言ってるけど「マラソン本気で取り組むんじゃ無かったら、辞めといたほうが良いかもしれないぞ? 後が大変だからな」と、一応釘はさしておいた。
それでも「気持ちいいし、行けるとこまでやってみたい!」と言ったので「綾子先生にもう少しいけますか?」と確認すると頷いたから、三人で少しペースを上げた。
二十キロメートル地点では、女子選手の先頭集団に追いついた。
この辺りからきっとテレビで騒がしくなってるだろうな? と、思う。
だって、付いて来てるテレビカメラの数が五台になってるし……
そして三十キロメートル地点では、綾子先生が女子トップに躍り出ていた。
先頭まではだいぶ距離があるけど、ここから先は俺も一気にペースを上げる事にする。
綾子先生は、さすがに離れちゃったけど、遊真は根性で付いて来る。
そして三十五キロメートル地点では先頭集団の最後尾に追いついた、テレビ局の並走するバイクのスタッフが現在十二位と書いたホワイトボードを見せて来た。
後七キロメートルか行けそうかな?
「遊真ここからはちょっとマジで行く」と、言い残しスパートをかけた。
流石に遊真もついては来れずに、少しずつ引き離した。
そして四十キロメートル地点でケニアの選手達を次々に捉えて、残り五百メートルで先頭に追い付いた。
そして、ゴール地点では二着に三百メートル差をつけてのゴールとなった。
タイム的には二時間六分台でそんなに凄くは無かったけど、それでも大会記録だったみたいだ。
しかし、それより驚いたのは全体の四番目で飛び込んで来たのは、何と遊真だった。
タイムも二時間十分台で、日本人二
綾子先生が、女子の先頭で走り切っちゃった。
ゴールタイムも二時間三十分切りで、ホノルルマラソンの女子では十分に早いタイムだった。
更にびっくりは続いた。
香織とアンナも二時間五十分辺りでゴールして来た。
女子中学生の初マラソンのサブ3達成なんて記録では残ってない筈だよね……
(サブ3とはフルマラソンで三時間を切るタイムを出すことを言います)
テレビ局的には大盛り上がりで、俺は賞金出るのとか知らなかったから、優勝賞金と大会記録で五万五千ドル、綾子先生も四万ドルの賞金が出ると言われて困ったから「難民の保護活動に寄付します!」と、綾子先生と二人で、テレビの前で発表しちゃった。
それもまた、凄い盛り上がったけど遊真と香織とアンナの三人も賞金圏内だったので、全員仲良く寄付を発表してた。
「付き合わせちゃってごめんね……」
そして、テレビ局の用意してくれたハワイアンディナーを全員で楽しんで、盛り上がったぜ。
こうしてホノルルマラソンは無事に終了したけど、綾子先生や遊真に対しての陸連の反応が心配だぜ。
さぁ来週はボクシングだな。
◇◆◇◆
無事にホノルルで優勝をして帰国した俺は、賞金は寄付して帰ったんだけど、戻ったら今泉さんから連絡があって、今回もシャツとパンツとサングラスとバイザーをちゃんと着用して走ったので、メーカーからのボーナスが百万ドル出ていた。
これは寄付させちゃった皆にプレゼント買わないとな……
それよりも、今回は綾子先生はレベルが上がってるからそう不思議な結果では無いんだけど、香織とアンナが問題だ。
明らかにタイムがおかしい。
俺の側にいる事が多いから、魔素をある程度は取り込んでいってるとしか思えない。
これって駄目な気がするんだけどどうなのかな?
俺は少し斗真さんに相談してみる事にした。
「斗真さん、今大丈夫ですか?」
「翔君どうしたんだい?」
「今回のホノルルで、遊真は実際俺達と行動始めたから、身体能力が上がってるのも理解できるんですけど、側にいる事が多いだけの香織とアンナまで、信じられないようなタイムで走ってしまったから、これって状況的にどうするのが良いのかなと思って、連絡しました」
「ああ、その事か。それは以前に翔君にも言ったけど、出来る事は出来るでいいんじゃないかなと思うよ。明らかにルールで禁止された、ドーピングをやってるとかそういう話では無いんだし、気にしなくていいさ、現実に魔素やレベルの存在が広まってしまったらその時に考えればいいだけの事だよ」
「ありがとうございます。斗真さんにそう言ってもらえるとなんだか安心しました」
「そう言えば翔君、中央アフリカの国から凄く感謝されてるよ。『ホープランド』の開発の余波で、日本の建設機械の導入などが進んで、先方の国も一気に建築技術が向上したと喜んでもらってる。日本からも合同ベンチャーで向こうの国に参加することが決まって、ここで実績が積めれば、中国に後れを取ってるアフリカの開発問題で、日本が再び表舞台に立てそうだからね。それで向こうの外交筋から『ホープランド』の面積を取り敢えず三倍の規模に広げてくれる約束を貰った。日本としては施設関係や運営費の補助は出来ないけど、活動を応援する公式コメントだけは出せるから、他の国も追随してくれるところが出てくれると思う。特に難民を押し付けてしまいたい、ヨーロッパの国々なんかは応援コメントだけで問題がある程度解決するなら喜んで応援すると思うよ」
「そうなんですね、ありがとうございます。俺達の場合は後ろ盾があると思って貰える事が一番重要ですから、バチカンとだけ仲良くすると、多数派のイスラム圏の人々の救済に、中々乗り出せない背景があったから助かります」
「そう言えば、チェルノブイリ、ローマ、兵馬俑、済州島の四か所はその後どうなんだい? 」
「それが少し問題が起こりました。チェルノブイリから高ランクの魔族が逃げ出して、歌舞伎町でホストやってて、人間の吸血鬼化をしていました」
「なんだって? それはどうなったんだい? 」
「発見が早く、被害も少なかったので被害者の記憶操作で対処しましたが、他にも逃げ出した魔族が居ないという保証もありませんので超常現象の様な事件がもし起こったら、早めに情報提供をお願いします」
「解った。その場合は『カラーレンジャーズ』が出てきて対処するのかい?」
「当然そうなりますねね」
「なぁ翔君、遊真もあの格好するのかい? 」
「そうですね、色は金色です」
「また派手な色だな。絶対に身バレだけは気を付けるようにしてくれよ、遊真だとばれたら俺も羞恥心的に耐えられないから」
「あの格好そんなにひどいですか?」
「それもかなりだ」
「台詞が遊真と同じですよ……」
「親子だからな」
◇◆◇◆
斗真さんと話してから、国内の拠点に行ってTBと遊んでたら、香奈がやって来た。
「ねぇ翔、この間のシルヴァだけだと思う? 」
「どうだろうな、無いとは言えないよな。それよりもそろそろ本格的にイルアーダとの繋がりの部分を対処しなければならないと思う」
「香奈もそろそろ成長スキルはマックスまで上げれそうだろ? 流石に異世界経験組以外は向こうに乗り込むのは厳しいと思うから頼むぞ」
「そうだね、向こうに戻っちゃうとヤリマンスキーも当てにできないしね」
「あいつが一番解らないんだよな。ただの間抜けなエルフってだけじゃないと思うんだが、何も証拠が無いし、まぁ俺はこの世界を守る為になら今更何が起きても、何とかして見せるさ。この世界から離れてた十四年のお陰でこの世界が大好きだって良く解ったし、帰って来てからの一年ちょっとで、色々楽しい思い出も作れたから思い残すことも無いぜ」
「へー翔って、結構暑苦しい考え方するんだね。でも私も魔王の経験のお陰で平和なこの国や、家族の大切さは解ったつもりだよ。付き合って上げるけど、後の人生は責任持ちなさいよね」
「まぁそれはその時考える」
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