第69話 プロアマトーナメント⑥

 三日目を終えて俺は単独首位をキープしている。

 黛さんが申し訳なさそうな感じで今日も、ハンカチとウエアを百枚ずつ持ってきてサインを頼まれた。


 何だか黛さんが俺に頼みごとをしてくるときの格好が、やたらバストを強調している服に着替えて来てるような気がするのは気のせいだろうか?


 俺のホテルの部屋に遊びに来てた、遊真と綾子先生が「あのマネージャーさん? って凄く恰好がエロくない?」って言ってた。


 綾子先生は「松尾君はああいう恰好の女の人が好みなんですか?」と聞いてきて少し焦ったぜ。

 確かに巨乳は大好きだけどね!


 それはさておき、この二人が部屋に来ているのは遊真が『COLOR RANGERS』の活動を手伝いたいって言う意思表示を、今日のラウンド中に先生に相談したからで、先生は「そう……知っちゃったのね」と返事をしてあくまでも決定は俺に委ねる判断をしたそうだ。


「なぁ遊真、斗真さんはなんて言ってた? 」

「ああ、父さんは『安易な気持ちで取り組む事だけはするなよ、実際に命懸けの仕事になるようなこともある。親としては反対したいが男としては賛成だから、やると決めたなら頑張れ』

と、言ってくれた」


「そうか……認めてるんだな遊真を」


 まぁチート無しの状態でさえ、全国模試で十位に入るような頭脳と、部活もしてないのに運動能力も凄く高い遊真は、これでダンジョン内活動でもすれば、十分に役に立つ存在にはなるだろうしな。


「でもさ、まさか綾子先生が『COLOR RANGERS』のメンバーで『サクラレンジャー』の中の人だって事実はびっくりしたよ」


 その言葉に、綾子先生は表情を真っ赤にさせてうつむいた。


「あの格好だけは慣れないわ。全身タイツって肌にピッタリ張り付くじゃない? 下着のラインなんかも丸わかりだから、ショーツはTバッグじゃないとだめだし、ブラジャーもラインが出ないようなのを探して大変なの」と、必要のない情報を暴露してくれて、今度は遊真が赤面した。


「俺が何とか、羞恥心を感じないユニフォームを開発します!」と、遊真が言ったが、張り切るとこそこなの?


 でも、斗真さんも最初にあの格好を見た時に同じような事言ってたし、やっぱり親子だなと少し思った。


 ◇◆◇◆ 


  プロアマゴルフトーナメントは、最終日を迎えた。


 昨日少しぐずついた天気も今日は、晴れ渡っている。

 正に秋晴れって感じだな。


 倉田さんの話によると、昨日のカップ位置は通常ではあり得ないらしい。


 傾斜地付近にはカップを切る事は、通常無いそうだ。

 まぁ絶対してはいけない決まりとかじゃ無くて、内部ルールみたいなもんらしいけど。


 実際、昨日は全体的にスコアも崩れてたので、最終日の今日はもう少しイージーな位置に変わると思っていいと言っていた。

 それでも、スコアを伸ばしてる人はいるし、全員同じ条件でやってるんだから、俺は別に構わないんだけどね。


 今日で終わりだから、なんとかコースレコードは狙いたいよな。


 ◇◆◇◆ 


 最終日がスタートした。


 高校生チャンピオンの西園寺さんは、俺が進学予定の高校の先輩だった。


「松尾君てさぁ、この間のうちの学校の文化祭来てただろ? それって同じ学校に進学する予定なの?」と、聞かれた。


「はい、一応試験は受けるつもりですけど、部活なんかはしないので推薦枠じゃないですから、試験に受かればですけどね」

「うちの学校は、人気商売な所あるから絶対落としたりしないよ。来年はよろしくな」と、爽やかに手を差し出して来た。

俺も両手でしっかりと握手をして「受かった時はよろしくお願いします。先輩!」と、言っておいたぜ。


 もう一人の昨年度賞金王の松田さんは「まさか、最終日最終組をアマ二人と一緒に回るとは思わなかったな、プロとして負けられないね」と、嫌な感じではなく笑顔で挨拶をしてくれた。


 俺のオナーでスタートした最終日は、倉田さんの予想通りグリーンの難易度も昨日よりは随分下がっている。


 順調にスコアを伸ばし、前半を7アンダーで回り十分にコースレコードを狙える位置だ。

 でも、西園寺さんも6アンダー松田さんも5アンダーで回ってきている。


前半終了時点で、


俺 -28

西園寺 -24

松田 -24


 と、信じられないようなハイレベルな争いになっていた。

 

 ハーフを終わって、クラブハウスに戻ると今日もGBN12のライブが開かれている。


 勿論ライブも生中継で全国放送されてて、昨日でも視聴率は三十パーセントに近かったらしいけど、今日は更に伸びそうな感じだ。

 明らかにゴルフ関係なさそうなファンが大量に混じってるよね?


 俺のサイン入りハンカチセットは、今日は三千セットが用意されてたらしい。

 サイン入りは百セットしか無いんだけどね。

 

 それでも、午前中でソールドアウトしたんだって。

 ウェアも当然売り切れていた。


 今日の俺のスコア予想でのクラブセットプレゼントには、当選者数が俺が優勝した場合は二人、それ以外だと一人なんだけど、応募総数は一千万件を超えてるんだって。


 ハンカチセットや、ウェアを急追でプレゼントに追加して、発表したと言ってた。

 黛さんは、凄い満面の笑みで今回の企画の成功を喜んでいた。


「でね、翔君又プレゼント分のサインよろしくね」と上目遣いでお願いされたぜ。


 なんか黛さん段々キャラが変わって来てない? 最初は凄くできる女の人イメージしかなかったのに、今はお色気キャラ化してきちゃってるよね……スカートも日増しに短くなってるような気がするし。


 本人曰く「折角視聴率も高いからね、新作のレディースファッションの宣伝もかねて、私が着用してるの」という事だった。


 倉田さんが話しかけて来て「もうほぼ優勝は間違いなさそうだけど、もう一つ話題性欲しいよね。ホールインワンとか狙ってもいいんだよ?」って言ってた。


 狙ってできるなら誰も困らないって……

 そしてインの十番ホールから始まる後半戦、今日の目的のコースレコード達成には、後四つのスコアを縮める必要がある。


 順調にスコアを伸ばし


十番  三百九十五ヤード パー4 三打

十一番 三百七十三ヤード パー4 四打

十二番 百八十五ヤード  パー3 二打

十三番 四百七十五ヤード パ-5 四打 

十四番 三百九十二ヤード パー4 四打

十五番 二百ヤード    パー3 三打 

十六番 四百九十二ヤード パー5 四打


十七番 三百二十ヤード  パー4 

十八番 三百八十一ヤード パー4


 と、十六番終了時点でコースレコードに並んだ。


 十二番のティショットは惜しかったんだけどね。

 ピン側わずか五十センチメートルに着弾したボールはバックスピンもかかりカップに十二センチメートルの距離で止まった。

 歓声とため息が凄かったよ!


 残す二ホールだが、この十七番ミドルは俺の飛距離なら十分に1オンがある。

 狙いを外さない様にウッドでなくドライビングアイアンでコントロール優先で狙う事にした。

 ジャストミートなら、練習通りだとぴったし三百二十ヤードの飛距離を狙えるクラブだ。


 このクラブだけは、通常の販売ラインナップになく、俺の為の専用設計なんだ。

 重さもあるし、普通の体力では振ってもスピードが乗り切らずに逆に飛距離が落ちるって、倉田さんは言ってたけど、俺ならウッドのドライバーと遜色ない飛距離になる。


 あくまでも俺基準で、普通の人だとプロといえどもアイアンで300ヤードは厳しいらしいけどね。


 アドレスに入り、俺の放ったティショットは低い弾道でピンに向かって一直線に伸びた。

 倉田さんは、「ヤバイオーバーか」と思わず言葉が漏れてた。


 弾道も低く勢いがあるし、回転も殆どかけておらず、確かにグリーン直撃でランで飛び出していきそうだ。



 でも、俺は素の運が強いんだからね! だてにステータスカンストしてないぜ。


 ちょっと強すぎた俺のティショットは、ピンに刺さったフラッグを直撃して旗に巻き込まれそのまま真下に落下した。



『カッコーーン』



 音が鳴り響き、壮絶な大歓声が上がった。

 パー4ホールのホールインワン「アルバトロスエース」だ。



 国内大会では過去に一度だけ、千九百九十八年に中島プロが記録した事があるだけの大記録だった。 


『やったぜ、テレビ局のアシスタントディレクターの人が用意してくれた漫画本、役に立ってよかったね!』と内心思ったぜ。


 まだ、ティーショットを放っていなかった、西園寺さんと、松田さんも流石にこれにはびっくりして、後の組もいないし、喧騒が収まるまではのんびり待つことにしたようだ。


「ごめんね」


 二人とも凄い笑顔で握手を求めて来た。

 俺は先輩方に敬意を表して両手で丁寧に手を握り「ありがとうございます」と頭を下げた。


 そしてほぼ優勝も決まり、凱旋となる最終十八番ホールにはGBN12のメンバーも勢ぞろいしていた。

 このホールもダメ押しのバーディで上がり、最終日の成績は十七アンダーの55、コースレコードも記録した。


 一昨日記録したばかりのコースレコードを簡単に塗り替えられた石見選手も最終ホールで待ち構えてくれてた。


 グリーン上にはこの四日間を一緒にプレーした佐藤さん、真中さん、アーサーに片岡さん、石見さん、ケビン、そして西園寺さんと松田さんがみんな集まってくれてた。


 片岡さんは意外だったけど「優勝おめでとう」と笑顔で手を差し出してくれた。


 なんと最終成績を確認すると、この八人の同伴者がトーナメントの二位から九位の位置を占めていた。

 ベスト10にアマチュア選手が四人も入るとか、色々と話題の豊富な結果になったこのプロアマトーナメントは、こうして幕を閉じた。


 俺は、プロ転向を宣言する権利は取れたけど、年齢が足らないから来年の五月十八日の十六歳の誕生日を待ってプロ宣言をする事になった。


 二位の成績ながら優勝賞金と同額の二千万円を手にした松田さんが、「今度食事に招待するから受けてくれよ」と俺と西園寺さんに言って来た。


「喜んで伺います」


 と、返事をして俺はGBN12のメンバーや倉田さん、黛さんと共にテレビ局の用意したリムジンバスで名古屋の放送局まで向かい、特番に出演する事になる。


 スタジオには二日目の解説をした森先生も呼ばれていて、トーナメントの映像を流しながらの番組だったけど、一度のトーナメントで二回の「アルバトロス」は公式試合で確認されていなかったので、それも凄い話題になった。


 その放送番組中に、俺が今日使ったクラブセットのバッグに直接サインを書き込み、市販されていないドライビングアイアンも込みのセットを番組に提供して、番組収録は終わった。


 倉田さんと黛さんは今回の俺の優勝で、ボーナスが一千万円ずつ出るんだって。

 凄い嬉しそうだったよ。


 そして、うちの敏腕代理人の今泉さんはさらなる俺の価値上昇を巧みにお金に換えていた。

 この世界的メーカーとの契約は現在の契約を破棄して、新たに五年総額三億ドルの専属契約を纏めた。

 勿論、他の業種のCM契約などもあるから、俺の年収は百億円を超える事態になっている。


 でも俺はゴルファーとしてはアマチュアだから、今後出場できる大会も現時点では多くない。

 交流目的だけのプロアマ戦はあるけど、それに出場する意味はあまりないしね。


 まぁ、年内はボクシングの統一選とオリンピック以前から参加表明をしていたホノルルマラソンだけにしておこう。


『Hope Land』や『COLOR RANGERS』の件でも忙しいしね。

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