第68話 プロアマトーナメント⑤

 二番ホールのティーショットを終え、俺はグリーン手前五十ヤード、ケビンと石見選手は百二十ヤード辺りに付けている。


 ケビンは二打目をピンそば三メートルの位置に付け、石見選手は更に内側に付けた。

 俺の二打目は、ピッタリ止まるショットを放ちピンそば五十センチメートルの位置に付けたぜ。


 ギャラリーの人達もなかなかの盛り上がりを見せてる。

 三人ともバーディで終える。


俺   3 -18

ケビン 3 -16

石見  3 -15


 その後三番四番を俺はパーで回り五番のロングホール四百九十五ヤード、パー5。

 大きく左にドッグレッグしたこのコースは、昨日までの二日間で狙い目は見えてきている。

 手前の背の高い二本の木の間を突き抜ければ、俺の飛距離なら1オンすら狙えるが、二位のケビンに二打差をつけているこの状況なら、ワンチャンス狙ってもいいかな? と思い、倉田さんに確認するとGOの指示が出た。

 このホールはグリーン周りのバンカーや池などの障害物が無いので、若干狙いが甘くなっても、問題が無いから思い切って行く事にした。


 俺がアプローチに入ると、体が向いている方向がおかしい事にギャラリーとケビンからため息が漏れた。

 石見選手からも、つばを飲み込む音が聞こえた。


 静寂の中放たれた俺のドライバーショットは大木の間を突き抜け、グリーンを一直線に目指す。

 惜しくもグリーンまでは届かなかったが、手前三十ヤードのラフに着弾して、2オンを確実とした。


 トッププロの二人は、俺のショットに惑わされずに正攻法で3オン狙いの位置にティーショットを放った。


 二人の三打目が確実にグリーンを捉えるのを確認した後で、俺の二打目アプローチショットだ。

 サンドウェッジで弾ませて寄せるショットを選択した。


 このホールはグリーンの傾斜も緩く俺の位置からは芝目も順目なので、手前から落とすとカップに向かって一直線に転がり、そのままカップインした。


 グリーンを囲むギャラリー達から、大歓声が沸き上がった。

 アプローチをそのままカップインさせたのは、今回が初めてだったけど、その初めてがまさかのアルバトロスだった。


 流石に普段冷静な倉田さんも、満面の笑みで大きくガッツポーズをしていた。

 グリーン上ではまだ二人のバーディトライが残ってるので、また『お静かに』『be quiet』と書かれた看板を持った係員の人達が、周囲を回った。


 目の前で見たアルバトロスに多少なりとも動揺したのか、二人ともバーディチャンスを逃してしまった。


俺   2 -21

ケビン 5 -16

石見  5 -15


 五打差でトップ独走状態に入った。

 しかし、ここからは少し展開が変わった。


 それまでの快晴状態から、少し曇り空になり、風も強まって来た。

 ゴルフ場の様な開けた空間では、風の体感は街中の倍以上強く感じる。


 六番 三百六十二ヤード パー4 パー

 七番 三百十ヤード   パー4 ボギー

 八番 二百ヤード    パー3 ボギー


 と三ホールで二つスコアを落とした。

 それに対してケビンと石見さんは二つずつスコアを伸ばして来た。

 アプローチショットの正確さを欠き、グリーンには載せれるけど長めのパットを残す展開で、七番八番と連続3パットしてしまった。


俺    -19

ケビン  -18

石見   -17


 そしてアウトの九番。

 このコースで最長の五百六十二ヤード、パー5だ

 右ドッグレッグのこのコースは、三百ヤード付近に川が横切っていて、パワーに自信の無い人は刻むしかない。

 俺はキャリーで三百ヤードは余裕だから迷わず川越えを狙うけどね。

 今回はパワー自慢の二人も川を超えるショットを選択したようだ。


 しかし二打目も二百五十ヤードを残してのショットになり三人とも2オンは逃した。

 このホールの攻略は難しいな。


 三人とも3オン1パットでバーディで上がる。


 前半を終えて


俺    -20

ケビン  -19

石見   -18


 でクラブハウスに戻って来た。

 リポーターに囲まれ、大型モニターの前で、アルバトロスの瞬間が映し出されながらのインタビューは、大勢の人に取り囲まれて盛り上がったけど、早くお昼ご飯食べさせてよ……


 GBN12はお昼のステージが始まりコンサート会場と変わらない盛り上がりになっている。

 普段とは違い観客の年齢層が高いので、少し不思議なノリだったな。


 俺は綾子先生と遊真と倉田さん黛さんの五人でランチを食べた。


「今日はハンカチ二千セットとウェアは五百枚用意していましたが、先程完売しましたよ」


 黛さんが報告して来た。

 ハンカチってそんなに需要あるもんじゃないよね?


 と聞いてみたら、ネットのサイトを開いて黛さんが見せて来た。


「これ見て下さい。初日に売れた分だと思いますけどネットオークションに出品されたハンカチセットのサイン入りの商品は五万円の値段が付いて、まだ上がる気配を見せていますよ」


「えー勿体ないなぁ、ハンカチに五万円以上とか」

「それを惜しくないと思うほどのファンが居るって事ですよ。話題にはなるから、敢えて放置して盛り上がってもらいますけど」


 倉田さんが「前半は四つスコアを縮めたけど、インスタートの組はみんなスコアを落としてきてるみたいだな、黛さんがインの攻略ポイントを纏めてるから、各ホール毎に改めて指示は出すけど、自分でも考えておいてね」と言って、メモを渡してくれた。


「俺、今日は昨日の石見さんのコースレコード抜くつもりだったけど、少し厳しくなっちゃったですね。二つのボギーが痛かったなぁ」


「グリーン上の難易度が二日目までと比べて跳ね上がってるからね。全体的に短く刈り込まれて足は速いし、アプローチの正確さが勝負ポイントだよ。翔の一番得意な分野だから大丈夫だ。インで取り返そう」


 綾子先生が「私も何だかゴルフ始めたくなっちゃったな、楽しそうだし」と言い出した。

「あ、それいいかもね今の綾子先生ならすぐに女子プロクラスになると思うよ、ボーリングでいきなり二百越え出せるくらいの集中力があるんだし」


 と、俺が言うと倉田さんが反応した。

「今の話は本当なの? 時間が取れるなら、翔君と一緒に少しやってみませんか? 美人教師ゴルファーとか話題性高そうだし、きっとテレビ受けしますよ」


「そ、そんな、美人教師とか、ショんな事ないでシュ……」


 俺は遊真と顔を見合わせながら冷静に「噛んだな」「ハッキリと噛んだ」と言いながら見ていた。

 黛さんは少し対抗意識を持ったのか「あざとい」と呟いていた。


 でも、俺は綾子先生にあざとさは無いと思ってるからね? 本当だよ。

 俺は遊真に「そう言えばこの間言ってた進路の件、お父さんに相談したのかい?」と聞いてみた。


「え、そんなのここで話し出して大丈夫なのかよ?」


 とちょっとびっくりして、遊真が聞き返して来た。


「大丈夫だよ、そっち系統の進路相談は綾子先生の担当だから」

「え? それって先生も関係してるのか? 」


「まぁな俺はまだ後半のラウンドがあるから、その間に先生と進路の事でも話してたらいいよ」

「ああそうだな、そうするよ」


 ◇◆◇◆ 


 後半ラウンドが始まった。

 インの十番から十八番までのホールは、前半で回った組の結果通りに難易度が高く、わずか一つのスコアを伸ばすにとどまった。

 ケビンと、石見選手も若干スコアを落とす結果となり、三日目を終了した時点での成績は、


俺    -21 単独首位

ケビン  -16 4位タイ

石見   -16 4位タイ


 となった。


 コースレコードは明日に持ち越しだな!

 そして、明日の最終ラウンドは今日をトップの成績で回ってきた、スーパー高校生西園寺君が十八アンダーと、昨年の賞金王者の松田さんが十九アンダーまでスコアを伸ばして来た。


 プロアマトーナメントの最終日最終組をアマチュアが二人も占める事態に、昨年の賞金王がどう立ち向かうのかが話題の焦点となる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る