第59話 テイミングと歌舞伎町の謎事件

 十月も後半を迎えて、秋晴れの雲一つない空を見上げながら、ランニングをしている。


 この世界の俺の体は、オリンピックやボクシングを通じてかなり鍛え上げられ、背の高さもやっと百七十センチメートルに届くくらいには成長してきたぜ。


 俺の筋肉の量から考えると、これ以上背が伸びちゃうと、六十キログラム級の今のボクシングの階級を維持するのが大変になるな。


 減量はしたくないから、来年のアマチュアの世界戦は階級を上げてチャレンジしたほうが良さそうだな。

 アンダージュニアとは階級に対しての基準が日本式のキログラム制からポンド制に変わるし、階級を変えるならその時が一番良さそうだしね。


 十二月のアンダージュニアの統一選までは、何とか維持しなくちゃね。


 ◇◆◇◆ 


 公開から二週間が経過した香織の主演映画は、国内実写映画としては異例のヒットとなり、日本のラノベ的な世界観が海外メディアの目にも止まり逆に世界各国での公開を、行われることになった。


 英語版吹替の主人公の香織の役はアンナが行うことになった。

 日本語の言い回しを出来るだけネイティブな英語表現が出来るように、親友のアンナを起用したのは、正解だと思う。


 当然俺の出演シーンと、メインキャストで最もセリフの多い役柄の男性役は俺が吹き替えを担当することになったよ。


 結構長時間の拘束にはなるけど撮影と違って、一日でなんとかなるのでしょうがないかな。

 吹き替え収録の当日、壁ドン、アゴクイシーンの時にアンナが「主人公の感情が伝わるように、演技も込みで吹き替えをお願いします」と猛アピールをした事で、そのシーンだけは実際に俺がアンナに対して、壁ドン、アゴクイをしながらの収録になった。


 絶対自分がしてもらいたかっただけだよな? 七回もやり直しさせやがって……


 ◇◆◇◆ 


 アメリカのネットワークテレビ局が設置した『COLOR RANGERS』へのHelp掲示板に気になる書き込みを発見したと、美緒が連絡してきた。


 場所は日本だ。


 歌舞伎町のホストクラブに通い詰めてたキャバクラの女性達が、謎の失踪をして居ると言う書き込みだったんだけど、一見良くあるような話にしか見えないけどな?


「これって普通に、売掛がたまりすぎて逃げたとかじゃないの?」


 と聞いてみたけど、どうやら違うらしい。


「私も最初はそう思ったんだけどね、失踪した子の親友だって子が居てね、その子の話によると、なんだかちょっと気になるのよ」

「解った一度調べてみようか」


 ◇◆◇◆ 


『COLOR RANGERS』のコスチュームだと街中に普通に出歩くわけにもいかないし、かと言って翔として俺が普通に出歩いて話を聞きに行くわけにも行かない……良い方法は無いかな? と思っていると、窓の外を野良猫が歩いてるのを見て、ひらめいた!


 この子テイムして意識入れ替えたら、俺は猫として行動できるぜ!

 俺は目線を猫の位置まで下げて優しく声をかけた「ニャニャこっちおいでぇ」


 でも丸無視された……

 クソッ絶対テイムしてやるぜ。


 自転車に乗って近所の薬局に行って、マタタビと猫のおもちゃと餌を何種類か買ってきた。

 この高級餌のラインナップならきっと、ゲット出来る筈だぜ。


 再び野良猫を見つけ出して、再挑戦だ。

 マタタビを振りかけた猫のおもちゃに、興味を惹かれたみたいだ。

 「ニャーン」と言いながら近づいてきた。


 手から直接与えるペースト状の餌を用意して、舐めさせる。

 嬉しそうな顔して舐めてるぜ。


 可愛いな!


 一本丸ごと舐めると再びおもちゃで遊んでる。

 これぐらい警戒が解けたら大丈夫かな?


 手をわきの下に入れて抱え上げてみた。

 抵抗されなかったのでそのまま赤ちゃんを抱くように抱っこしてみた。


 真っ黒でちょっと小柄な猫だ。

 俺の腕の中で目を細めてる。

『テイム』と唱えスキルを発動した。


(黒猫がテイムされました。名前を決めてください)


 名前かぁ『TB』だな。


「よろしく頼むぜTB」

「ご主人様、美味しい餌をよろしくにゃ」


 意思の疎通も問題無さそうだね。


「早速だけどさ、俺と身体入れ替わってもらうけど、勝手に部屋の外に出て回らないようにね」

「解ったにゃ」


 一度俺は部屋の外に出て、入れ替わった俺の姿のTBの様子をちょっと眺めてみた。

 取り敢えず部屋の中で丸まったけど、なんかモゾモゾしてる。


 服脱ぎ始めたぞ、やべぇな。


「おいTB服脱ぐのは禁止な」後ろから声かけられて、ちょっとびくっとしてた。

「だめにゃのか? 動きにくいにゃ」


「あと絶対俺がいない間に、その姿で外に出るなよ? 大騒ぎになって俺がマジで困るからな。それと猫缶とかカリカリとかもその格好の時は食べたら駄目だぞ。味覚が違うからうまく感じないはずだしな」


「さっきの美味しい舐めながら食べる餌もダメにゃのか?」

「駄目だ。お腹すいたら人間用のお菓子とか食べててくれ、その体の時はそっちのほうが絶対美味しいと感じる筈だからな」


 俺はそう言った後で、やっぱり危険だと思って、一度TBとの入れ替わりを解除して自分の姿に戻り、猫の餌系統を、全部アイテムボックスにしまっておいた。


 名残惜しそうな目で、餌の行く末をTBが眺めてたけど、置いてたら間違いなく俺の体で、猫の餌食べてたに違いないと思うと、ちょっとぞっとしたぜ。


 危険だったな……元が野良猫だけに、もしかしたら俺の体でネズミとか小鳥捕まえて、生きたまま食べ始めたりする可能性もあったな。


 そんなとこ、もし人に見られたりしたら、ヤバイ状況だよね。


 ここに置いて行ってもまだ何かやらかしそうで怖いから、入れ替わってる間は、美緒に面倒を見させるか。


 しょうがないから、俺の肩の上に乗っからせて転移で『Hope Land』の拠点に移動した。

 TBの姿を見た美緒が「可愛いじゃんどうしたのその猫?」と聞いてきた。


「テイムしたんだ。俺の姿でもレッドの姿でも人と会うと問題ありそうじゃん。この子の姿ならどこで誰にあっても問題ないしね、『COLOR RANGERS』の使いって設定なら、今更喋ってもそんなに驚かれないだろ?」

「そう言われたらそんな気もするね、『COLOR RANGERS』の交渉役って言うか、対人で話す役目はナーシャに任せる事にしたわよ、私たちの中で一番問題なく交渉役出来そうだし、何よりも顔が知られてない筈だからね」


「そうなのか、まぁ俺も黒猫姿で出来るだけクライアントとの話の時は参加するようにするよ、でもさこいつ野良猫だったから入れ替わった後一人で置いとくと、どんな行動するか予想付かないから、俺が入れ替わってる間は美緒が面倒見てくれよ」


「へぇいいよ。色々教えこんでおこうかな?」

「ビアンカとかに触らせるなよ? マジで死ぬまで搾り取られそうだから」


「気を付けとくけど、私も我慢できないかもね?」

「まじで勘弁してくれよ……」


 で、俺は再びTBと身体を入れ替えて、ナーシャと共に今回の相談者の元を訪れた。

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