第46話 ホープランド【前編】
五輪から一週間が過ぎ、世間一般ではお盆休暇真っ只中だ。
俺の周りではまだまだ五輪後の喧騒冷めやらず、って感じで何処に行ってもカメラ向けられたりサインや握手求められたりするから、チョットだけ出不精になっちゃうよね。
遊真は斗真さんの東京の官舎で夏休みいっぱいは過ごすそうだ。
GBN12のメンバー達も夏休みの間は、ずっと東京で仕事があるんだって。
九月からは学業優先ってなってるから、今はチョット頑張るって言ってた。
チェルノブイリの件も取り敢えずは緊急を要する事態は脱したので、チェコのモトクロス選手権に向けて旅立つ水曜日までは、少し時間が出来たから拠点でのんびり温泉に入ってると、美緒が入ってきた。
「ちょっとアフリカの拠点の整備を進めたいんだけど、手伝ってもらってもいいかな?」
美緒に声を掛けられた俺は「そうだね、ある程度街を作る準備をしないと、教皇様の所から教育面での支援とか貰うのに何も用意出来て無いって訳にもいかないしね」
と答えて、美緒のバストに目が釘付けになりながらも、出来るだけ冷静に答え、週末からの四日間はアフリカ中心の活動をする事にした。
因みにうちの両親は、バイクショップを盆休みにして、二人でチェコに先乗りして観光を楽しんでる。
海外旅行自体が初めてらしくて、二人共ウキウキして出掛けていったぜ。
俺は拠点から転移で美緒と一緒にアフリカに向かった。
現在はテロリストを捕まえた時に転送しておく、ホイホイ型の檻が四つ設置してあるんだが、その内の一箇所の中に、コンテナハウスを設置して、仮拠点にしている。
なぜ檻の中に、拠点を設置してるのかと言うと、ここは中央アフリカのど真ん中で、正に野生の王国だからだ。
檻の中じゃないと危なかしくて、いつライオンに襲われても不思議じゃないからね!
まずは、美緒の会社が取得している土地、四百平方キロメートルに及ぶ土地の全体を囲む壁を設置してしまう事にした。
この土地の中には、ナイルの支流や湖もあるために、うまく開発して行けば、結構な大きさの都市を築くことも不可能では無い。
難民の受け入れをする為には、ただ受け入れるだけでは、生活が出来ない。
継続的に暮らして行けるように、産業の創出も行わなければならないし、当面産業が軌道に乗るまでは衣食住の最低保証も行わなくてはならない。
人が居る以上、医療や衛生上の問題もあるし、やる事は山積みだ。
俺が、裏の仕事で手に入れるお金は殆どを、この拠点で難民を保護する為に使っても構わないと思ってる。
どうせ、使い道なんて無いしね。
現在は既に表向きで手に入るお金でさえ、とても使い切らないくらいの額になってるから惜しくはないぜ。
そう言えば、アナスタシアがチェルノブイリの討伐の報酬を振り込む口座を教えてくれと言ってきたから、美緒の会社に振り込ませた。
環境整備を行った名目で、二千万米ドルの振り込みだった。
まぁ相応の対価ってとこかな?
一万人規模で軍を展開して、実弾での攻撃等も行っていたから二ヶ月以上展開していたなら、維持費は相当だったろうし、それに比べたらずいぶん安く上がった筈だ。
「美緒、俺のスキルで取得している土地を囲んで行く事から始めるから、車で移動しながらやっていくよ」
「車なんて用意してないわよ? それに道路なんかないから、キャタピラの付いたような車じゃないと身動きも取れないんじゃないかな?」
「美緒、覚えてないか? 初めて会った時あそこの施設にあった移動手段や武器は全部俺が持ってるから、キャタピラ付きなら戦車もあるぞ」
「あぁ、そう言えばなんかやってたわね、それなら半島国家の時のとかも全部あるんだよね?」
「あーあるぞ」
「戦争出来そうだよね」
「出来るっちゃ出来るけど、戦車やバズーカとか使うより、魔法のほうが強くて簡単だから必要はないけどね」
「でもね、ここは力を誇示していないと、直ぐに侵略を受けてしまうような社会なの。ある程度の形が出来上がったら、防衛戦力として傭兵を置かないと、簡単に蹂躙される危険もあるの」
「恐ろしいなぁ、日本の生活に慣れてると考えられないな」
「そうね日本は本当に平和で良い国だと思うよ。危機感が薄いのは気になるけどね」
美緒とそんな話をしながら、アイテムボックスから装甲車とジープを出していると、ヤリマンスキーとビアンカが顔を出してきた。
「何始めるんだ? 戦争か」
「囲いを作るだけだよ、道路無いからキャタピラが良いかなと思って、出してみた」
と言うと、ビアンカが装甲車の運転をしたいと言い出したから、俺は美緒とジープに乗って、ビアンカはヤリマンスキーと装甲車で付いてきた。
この国の担当者は凄い大雑把な人だったみたいで、地形とか関係なしに、一辺二十キロメートルずつの真四角な取得土地が地図上に書かれていたから、緯度と経度をGPSで確認しながら、取得地域より一メートル手前の位置に高さ三メートル幅一メートルの壁を、土属性の魔法で作り上げていく。
するとビアンカが「土魔法ってこんな使い方もできたのね、私も力を取り戻せば協力できるのにね、属性魔法は全て使えてたから、魔素さえあればまたレベルを上げることは可能なのかな?」と聞いて来た。
「そうだな今の所魔素の存在する場所であればレベルアップの可能性があると言う程度だな、やってみないと解らない」
「チェルノブイリだと今の所はゾンビ系統だけでしょ? この間みたいにポーションがあれば何とかなるよね、早めに結界の中の探索始めたいわね」
なんかビアンカって真面目モードと、性欲に支配されてる時のイメージが違いすぎるよな。
「ヤリマンスキーは、これからどうして行きたいとかあるのか?」
「俺は、女にもてるなら何でもいいが、出来ればイルアーダに戻りたいと思ってる。やり残したって訳じゃないが、俺にはこの世界よりも向こうのほうが居心地が良かったってのが一番だな」
「そうか、恐らくイルアーダに戻る方法も三箇所の魔物の発生源を探索すれば、ヒントくらいはでてくるだろうな」
「取り敢えずは頑張るから、イルアーダに戻れるように協力してくれ」
「解った、だが悪事は働くなよ?」
ヤリマンスキーは自分の欲望に忠実過ぎるから、この世界では色々問題が在るが、イルアーダでなら確かに需要のあるやつだろうな。
俺自身もこっちと向こうが行き来出来るなら、色々出来る事の幅も広がるしな。
ビアンカ達と話しながら、土魔法で作った壁を錬金でセラミック状に固めていくことを繰り返しながら、それから三日を掛けて、漸く取得した土地全体を囲むことが出来た。
次に行うのは中央部の五キロメートル四方の範囲にもう一つの内壁を作り、その内側には難民保護を目的とした都市を構築して行く事だ。
外壁と内壁の間の区間は幹線道路を一箇所外壁の外まで通す以外は、自然を利用したサファリパーク型の動物公園を作る事にしている。
かなり広い区域だが日本のように、餌を与えたりするタイプの動物園ではなく肉食獣も草食獣も自然のままに同じ空間に暮らすので、当然生存競争も起きる。
逆に中央部分の都市に近い場所には、育児放棄をされたり、怪我をした野獣を保護して治療したり、育てる区域などを用意し、ここでは一般の動物園のような、区画分けをした中で生活をさせる。
獣医等も採用していかなければならないよな。
美緒の会社のホームページで人員の募集を開始することにした。
基本的には衣食住などを保証したボランティアスタッフで、人種などは問わない。
この形であれば、難民も勝手に侵入してくることは難しく、きちんと管理された中での難民保護が行えるはずだ。
実際の保護が始まると、ビアンカの言語理解能力は物凄く役に立つ。
部族毎に違う言語を有する事が多い、この地域での言語理解スキルは正に神スキルだ。
言語理解を魔道具で作るには特殊な魔石が必要となるために、現在俺の保有している魔石だと作れない。
基本的には、魔道具を作成するためには、錬金術師と魔道具製作のスキルが必要であり、作れる魔道具は自分の持つ能力に準ずるので、言語理解スキルの魔道具であれば、俺かビアンカなら作れるが、ビアンカは今は錬金や魔道具製作のスキルを失っているので、実質俺だけにしか出来ない。
四日めに内壁と外壁から内壁の内部へと繋がる道路を通し、取り敢えずの工事を終えた。
後は上下水道や電気といったインフラ設備の充実を図らねばならない。
これは時間は少し掛かるが、地域経済の発展のためにも、国内の業者と交渉をさせてみよう。
美緒とビアンカに任せれば余程のことが無い限り大丈夫だろう。
マリアンヌにも連絡を入れ、アフリカの拠点の受け入れ準備が出来てきたので、教会と学校を一緒にした施設の計画を練って貰おう。
ここで生活する人々は、出来る限り英語を覚えてもらい、国際的に活躍できる人物を育てることが目標になる。
そして最近の美緒を見ていると想像がつかないけど、アフリカの大地に立った美緒は、活動的にサファリルックを着込み、アフリカ大陸全域に情報網を持ち、犯罪組織やテログループによる生活を脅かされた人々の情報を集めている。
その中でも急を要する場所を選定し、救援活動を始める事にした。
新たに決めた戦隊の名前は、「
香奈がダッサイ名前だけは絶対ダメだって言い出して、全員で意見出し合って、多数決で決まった。
ちなみにこの名前の発案は綾子先生だったぜ。
難民の受け入れは、未成年者と女性の保護に関しては、申請があればビアンカと美緒が面談に向かい受け入れるが、成人男性に関しては、働く意思がある人間に限定される。
保護施設の工事などで、仕事はいくらでもあるのだから、頑張ってもらわなけりゃね。
◇◆◇◆
「翔、この土地の名前を決めてくれないかな?」
美緒に突然言われたが、便宜上呼び名はあった方が確かに良いよね。
「希望の地
「良いじゃん、思ったよりマトモな名前で安心したわ」
「ひでぇなぁ、その言い方」
「だってこの前の命名なんて五輪ジャーだったしね、少しは心配するよ」
名前も決まり、希望の地での活動が始まる。
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