第45話 魔素効果【後編】

 どうやら俺の身近で行動していると身体能力の上昇効果があるのは間違いなさそうだ。


 俺は最近一番身近にいる存在の、美緒と綾子先生を連れてボウリング場にやってきた。

 受付を済ませレンタルのシューズを借りて、レーンに到着すると俺に気がついた他のお客さん達が集まってきた。


「今日はプライベートだから握手とかサインは勘弁してね」と笑顔を振りまくと、結構みんな常識的に見るだけで我慢してくれる。


 まぁそれでも写真は取られまくってるけどね……


 美緒と先生は、ボウリングをやるっていうのに絶対人が集まって来ることを予想して、全身高級ブランドファッションで固めてる。


 流石にショパールは外してるな綾子先生。


 自分に合う重さのハウスボールをそれぞれ探しに行くと、今の俺には十五ポンドでも軽く感じるな。

 でも置いてあるのでは、これが一番重いみたいだししょうが無いな。

 

 美緒と綾子先生は軽いボールのところに行って探してたけど、持ってみて首をひねってる。


「どうしたの?」と声を掛けた。

「ボールが思ったより全然軽く感じちゃって、戸惑ってたの」って返事だった。


 あー間違いないな、確実に身体能力上がっちゃってるよね。


 結局二人共十二ポンドのボールにしたみたいだ。

 本当はもう少し重いのが良かったんだけど、沢山の人に見られてるから、重いのを持ってくるのは恥ずかしかったんだってさ。


 俺もボウリングは久しぶりだなぁ、前に来た時にはスコアは百くらいしか出せなかったんだよな。

 順番は俺、美緒、綾子先生の順番に投げることにした。


 ここは、コントロール重視だよな。

 カーブとかは投げ方解んないから、直球でドカンと真ん中に当ててみた。


 見事にスプリットになっちゃった。

 七番と十番のピンが残ってる。


 「あちゃー、狙い通り真ん中行ったのに、駄目だったよ」と言うと、美緒が「ねぇ翔君もしかしてボウリングってあんまりやったこと無いの?」と聞いてきた。


「うん、殆ど無いよ。町内の子供会のイベントとかそれくらいだよ。中学生には結構財布に優しくないゲームだったからね」

「直球でもいいから、一番のピンと三番のピンの間を狙うのよ、ポケットって言ってそこを狙うのが一番ストライクの確率が高いの」


「そうなんだね、じゃぁさ今みたいに離れてるピンを倒したい時はどうするの?」

「それは殆ど運任せだけど、内側のギリギリをかすらせて、壁に当てて反対側に飛ばすらしいよ? 成功したこと無いけどね」


「解った! やってみるよ」


 横に飛ばすなら、スピードを付けて掠らせないと、無理だろうなと思って七番ピンの内側ギリギリを狙って投げると、見事に掠らせることに成功して、壁に勢いよくぶつかったピンは空中を跳んで反対側の十番ピンを直撃した。


 後ろに立って見てた人達が歓声を上げた。


「投げ方とか見たら、ほとんど素人なのに、やっぱセンスが違うなー」とか、勝手に解説始めてくれちゃってる人とかいるよ。


 美緒と綾子先生も確実にポケットを狙って、ストライクは取れなくても、確実に二投目でスペアを取る事が続き、結局一ゲーム終わってみたら、三人とも二百超えのスコアだった。


 これではっきりしちゃったな。


 俺と一緒に行動している事で、明らかに恐らく魔素であろう物を取り込み、身体能力や集中力に大幅な補正が掛かっているのは間違いないみたいだ。


 ギャラリーが凄く増えてきたので、一ゲームだけで切り上げて「応援ありがとう、今度はモトクロスの大会、テレビでやるから応援して下さいね!」とギャラリーの人達に頭を下げて、食事に行く事にした。


 その時には、エルメスのバーキンのバッグからショパールの時計を取り出して腕に嵌めた綾子先生を見て、美緒が「あーその時計凄いじゃない、もしかして翔に買って貰ったりしちゃったの? ねー翔、私も時計欲しいよーショパールじゃなくてもいいからさー」とあざとくしなだれかかってきた。


「時計は買ってやるから、人前でそんなにひっつくなよ、すぐネットとかで騒ぐ連中出てくるから」


「わー本当に良いの? じゃぁ私はハリー・ウインストンがいいな」

「解ったよ、今から行くか?」


 俺は今日の格好は、スポーツメーカーの人との打ち合わせの流れのままだから、スポーツウエアのままだったけど、そのまま栄のハリーウインストンまで三人でタクシーに乗って移動した。


 ハリー・ウインストンの店内に入ると、ちょっと俺の姿にびっくりした感じだったけど、至って冷静に対応してくれた。


 綾子先生のショパールに目を留め、最高クラスの値段の商品が並ぶエリアへさり気なく美緒を案内して行った。


 美緒に「値段は気にしないでいいから、一番自分が気に入ったの選べよ」と伝え、俺に似合うような時計を探したけど「俺はやっぱ中学生だしGショックとかの方が実際嬉しいな」と言って、ここで選ぶのは止めておいた。


 三十分くらいして美緒が決まったよーと言ってきたので、現金で二千万円ほど渡して「これで足りるかな?」と聞いてみた。


「あら、意外に時計の値段解ってるんだね、もっとびっくりされちゃうかと思ったよ」

「この前の綾子の時にさ、店員さんに小声で囁かれたからね、値段見ずに綺麗だからこれって選んだら、千二百万円だったからその時は少し驚いたけど、一回経験すればそんなもんなのかな? って感じだよ」


 結局時計は千三百万円ほどだったので、残りは返して貰うのもカッコ付かないし、綾子先生と二人で使い切るまで買い物しておいでと言って、俺は先に拠点に戻る事にした。


 だって外だとワインも飲めないしね。


 でもさっきのボウリング場で、上手な人達の動きを観察したけど、カーブボールとかで狙えるようになれば、結構スコアは狙えると思うな。


 拠点で一人でネットを検索したら、さっきのボウリング場での俺の姿がもう晒されてた。


 ハウスボールとハウスシューズを使ってストレートボールだけ投げて、ノーミス二百三十超えのスコアで一ゲームだけで帰って行ったと、事細かに書き込んであったけど、専用のボールとかシューズ使うともっと簡単なのかな?


 それよりも問題は能力アップの方だよなぁ……実際美緒は結構ボウリング詳しかったけど、綾子先生とか俺と変わんない程度の知識で、二百超えのスコア出してるし、かなり能力は上がってると見て間違いないよね。


 まぁ余り目立たないようにして貰ったほうが良いかもね。

 俺と同じ風呂に入ってるだけで能力アップするとか解ると、世界中のアスリートが押し寄せてくるような未来が見えてきちまうぜ。


 女性だけやってくるんならまだ我慢できるけど、ガチムチが集まってきたら地獄だぜ。


 結局夜の十時頃になって美緒と綾子先生が戻ってきた。

 二人共マジックバッグ持ってるもんだから、大量の買い物をしても平気だったみたいだけど、リビングに大量に買ってきたものを出して、俺に見せるんだが、下着なんか広げてみせるのは止めて欲しいよな。


 赤面しちまうぜ。


 そして、遅めの夕食を殆どデパートで買ってきた高級お惣菜で済ませた。

 勿論、拠点での食事の時だけは、二十九歳の俺として振る舞ってワインも美味しく楽しんだぜ。


 そこで、俺からは当然話を振らなかったんだけど、美緒は綾子と二人で買い物途中に立ち寄ったカフェで気が付いたようで「ねぇ翔、一緒のお風呂を使うだけで、翔成分で能力アップするんだったらさ、もし私達とHしたりしたら、凄いことになるんじゃ無いの? もしかして翔みたいに魔法が使えるようになるかも知れないわよ」


と、言い出した。


「可能性としてはあるよな、でももしそんな事実が知れ渡ったら、世界中の女性から搾り取られる未来しか見えないから、絶対言わないでくれよ?」


「あら? 女性だけとは限らないわよ、実際お風呂やプールでの効果は男性にも現れてるんでしょ? 男の人との腐腐腐な関係でも十分に効果が出る可能性高いと思うわよ」


「げ……そこまでは考えてなかったぜ、絶対に三人だけの秘密だ。あと能力が上がること気づかれても困るから、実験してみたいとか言い出すなよ? 俺も必死で我慢してる状況が壊れたら歯止め効かなくなりそうだから」


「あら、必死で我慢するくらいなら私も綾子も、全然ウエルカムなのになぁ」


 そんな会話の間中、綾子先生は真っ赤になってアワアワしてた。


 可愛いよな!


「アフリカの拠点での生活がメインになったらさ、その辺りは解禁でいいんじゃないの? 当然の様に何処の部族の首長も大勢の奥さんとハーレム築いて居るし、十代前半の夫婦なんて珍しくないよ?」

「でもなぁ、一応日本で高校生はやる予定だから、それまでの間はやっぱり我慢するよ。異世界で生活してたら、日本での平和な普通の生活に一番憧れていたからね」


「あらあら、今の翔の生活のどこが普通な生活なのかしら?」

「気にしたら負けだぜ」


 でも、拠点に居る時のお風呂だけは、一緒に入るのもOKと言う事にした。

 魔物の討伐もあるし、実際少しでも能力上がってくれるんなら、それに越したことはないしな。


 お風呂から出たら、速攻で自宅の俺の部屋で一人きりの時間が必要だけどね!

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