第30話 まずはV2と恐怖のビアンカ

 いよいよ今日から競技が始まる。

 初日の競技は夜からなので、午前中はボクシングの会場に遊真と見学へ行った。


 中々白熱したいい試合だな、どうだろう? うちのボクシングジムのメンバーと対比した場合で四回戦の選手達よりはレベルが上で、健人さん達には及ばないって感じかな。


 でも、アマチュアボクシングではプロと違って手数の多さが、判定に繋がるから動きの質が違うんだよね。

 自分だったらどう戦うかとか考えながら観戦していると、結構楽しめた。


 中継に入っていたテレビ局の人間が俺の姿を見つけて、コメントを求めてきたけど、俺が出場してない以上は選手のいい部分を褒めまくる事しか出来ないから、そうしたけどね!


 GBN12のメンバーは今日は夕方の競泳競技の応援だけみたいだから、午前中はゆっくりしてるのかな?

 アンナに連絡したら、お昼は少し時間があるみたいだから、香織、アンナ、陽奈、香奈の四人を誘って遊真と一緒に食事に行った。


 俺達が一緒に居るととっても目立つけど、まぁ五輪期間はお祭りだから、少々騒がれても気にしない事にした。


 中学生らしく食事はファミレスにしたけどね。

 昼食を終えたら、みんなでアクアティクスセンターに向った。

 今日の俺の出場種目は、四百メートル個人メドレーの予選と百メートル平泳ぎの予選だ。


 いつもの様に二着泳ぎをしようかな? でも初日だし話題提供を含めて、世界記録ペースにしとこう!


 そして迎えた個人メドレーの予選競技。

 俺は現時点で世界記録を持ってるので、中央の四コースからのスタートだ。

 隣はアメリカの水泳界のスーパースターで、逆三角形の見事な身体つきをしている。


 「Take your marks」の声が聞こえピッタリと静止する。

 号砲が響き渡り一斉に飛び込む、俺はバネの強さを利用して出来るだけ、遠くへと飛び込む。

 スタートはバタフライだ。

 スタート時点から身体半分リードした俺は、五十メートルターンで若干差を詰められたが、百メートル地点では身体一つ分のリードを保って背泳ぎへと移る。


 スタンドでは、GBN12を中心に息のあった応援が繰り広げられている。

 背泳ぎ終了時点で差は身体二つ分まで広がる。


 次は平泳ぎだ。

 参加選手の中で一番背の低い俺は、その分ストロークを早くしなければ、スピードが付かない。

 でもスタミナと身体能力では負ける事はない。


 グングン差を広げ最終自由形に移る時には、六メートル程の差をつけていた。

 自由形では身体強化をしないレベルでは殆ど自重をせずに泳ぎきった。

 二着に十メートルの差をつけてのゴールタイムは……


  3分59秒98


W.Rワールドレコードの表示と共に大歓声に包まれた。


 早速インタビュールームに呼ばれ、世界中のメディアに撮影されながら祝福された。

 会場では興奮冷めやらずで凄い盛り上がりだ。


 俺はメーカーロゴのくっきり入ったタオルを肩に掛けてインタビューに応じる。

 想像以上の効果で、その後二日で一枚五千円のタオルが全国のスポーツショップの店頭から消えたらしい。


 もう一種目の百メートル平泳ぎは、二着泳ぎで流して明日の準決勝に進出を決めた。

 俺は他の出場選手達の応援をしながら初日の競技を終えた。


 今回の五輪はどうしても海外のテレビ放送時刻に合わせてあるので、十五歳の俺は競技終了後の取材に生出演が出来ない事が、二日目にして大きく取り沙汰されていた。


 ドーピング検査をみっちりとやられ、選手村へ帰るとたくさん選手達から拍手で出迎えられた。

 国とか関係なしに実力を認めて貰えるのって凄く気持ちいよね。


 俺は自室に戻ると、斗真さんとマーに連絡を取りテロの動きを確認したが、今日は動きはなかったようだ。

 マー達の三人組は、この期間は俺の拠点を使わせている。


一応ヤリマンスキーにはGPSを取り付け、勝手に居なくならないように手を打っているが、ちゃんと大人しくしててくれればいいけどな。


 ◇◆◇◆ 


 競泳競技は二日めを迎え、俺の出場する四百メートル個人メドレーの決勝から競技が始まる。


 既に昨日の予選で世界記録も大幅に更新しているので、今日は無理をせずに一着狙いの泳ぎに徹する事にする。


 そして号砲に合わせて飛び出した俺は、四種目を先頭で泳ぎきった。

 水泳競技では最初の金メダルが確定した。


 全体としては、柔道競技で昨日のうちに女子四十八キログラム級と男子六十キログラム級の二つの競技で金メダルを獲得している。


 会場は興奮にGBN12のみんなも抱き合って喜んでいる。

 両親と、綾子先生、遊真も喜んでいる表情が見える。


 大歓声と拍手に包まれながら、タオルを肩にかけインタビュールームへと進んだ。

 昨日以上のフラッシュを浴びながらインタビューを受け、満面の笑顔で両親とスイミングクラブの所長へ感謝を伝えておいた。


 そして二つ程の競技を挟んだ後で表彰式が始まった。

 君が代が流され、日の丸の国旗が中央に掲揚される。

 銀メダルはアメリカ、銅メダルは日本の選手だった。

 金メダルを首にかけて貰いようやく実感が湧いてきた。


 午前中にもう一つ、百メートル平泳ぎの準決勝を泳ぎ二着に調整して明日の決勝に進んだ。


 十二時半から十九時の間は競技は行われないけど、その間の時間にGBN12と共にテレビ局への出演を果たすなど結構忙しい。

 日本競泳勢最初の金メダルを期待通りに獲得した俺の登場は、日曜日のお昼の時間の視聴率をほぼ独占した。


 インタビューは一緒に来ていた遊真や綾子先生、両親にも行われ、俺の周りの人間は結構な有名人になってきちゃったよな。

 今日の夜はGBN12のメンバーは他の番組に出演するので、俺は両親と遊真と綾子先生で会場に戻る為に車に乗り込んだ。


 十六時過ぎには会場に戻り、俺は選手控室へと向った。


 そこにマーから念話が入った。


「翔、ちょっと厄介な相手がいるけど対処できるかな?」

「どこだ?」


「日本武道館の柔道会場よ、爆発物を身に纏っているわ。転移だけだと爆発に巻き込まれる危険があるの」

「解ったすぐに行く」


 俺はすぐに転移で武道館に飛び、久しぶりの勇気百倍お面をかぶり隠密を発動した。

 対象を視認してもう一度、真後ろに転移し対象者をアイテムボックスに収納するイメージを行う。


 素っ裸の犯人をそのままにする訳にも行かないので、競泳の時に使った大きめのタオルを掛けて、汚いものを見ないで済むようにした後で、アフリカへの転移を発動してホイホイ型の檻に放り込んだ。


 現場ではいきなり裸になった人間が次の瞬間に消えたと、ちょっとした騒ぎになってたみたいだけど、被害は出ずに済んだんだから勘弁してもらおう。


 マーに念話で指示を出して、ビアンカにホイホイの中のテロリストの尋問を頼んでおいた。

 競泳会場に戻ると結構時間的にやばくて、ギリギリの時間の外出を疑われて余分にドーピング検査まで受けさせられた。


 ドーピング検査は基本採尿検査なんだけど、本人が出した物だと証明するために、カップに取るところを目視でじっと見られるから、めちゃ恥ずかしいんだよね。


 でも受けなきゃ余分な疑いを掛けられるだけだからしょうが無い。


 検査が終わって今日の夜の部の俺の出場レース、百メートル背泳ぎの予選に参加した。

 予選は二着に合わせて泳ぎ、翌日の準決勝に進んだ。


「少し疲れ気味なので先に戻って休みます」と、水連の方に伝えて早目に選手村へ戻った。

  

 別に本当に疲れてたとかじゃなくて、今日のテロの背後関係とか、今日と同じ状況になった場合の対処方法とかで、斗真さんやマー達と話しておきたかったから、みんなに連絡して集まった。


 香奈にも来てもらって、以前地中海の時に作って渡しておいたマジックバッグを借りておく事にした。

 マジックバッグを併用すれば、今日のパターンならヤリマンスキーだけでも対応出来たからな。


 他にもなにか策が無いかをみんなで話してたら「転移門なら片方を常にホイホイの中に広げておけば、対になる一枚を現場に広げて放り込むだけで済むんじゃないか?」と言う意見が斗真さんから出たので、それも対応してみる事にした。


 ビアンカに今日の武道館の犯人の所属グループを聞き出せたか確認したら「搾り取ってるうちに心臓が止まっちゃったから、ハイエナの餌にしちゃった♪」と、大きな顔でにこやかに言われて背筋がゾッとした……


 ヤリマンスキーの怖がり方が納得できたな。

 こいつがロシア大使館でシベリアタイガー使ってたのって、ビアンカのマネしてたのかな?


  ◇◆◇◆ 


 そして競泳競技の三日目は、午前中に平泳ぎ百メートル決勝と背泳ぎ百メートル準決勝及び平泳ぎの表彰式だ。


 平泳ぎ百メートルの決勝は、準決勝を二着で泳いだので七コースからのスタートだったが、飛び込みから一気に引き離し、ゴール時点では身体2つ分のリードを保ち五十五秒ジャストの世界記録で、二つ目の金メダルを獲得した。


 観客席が明らかに期待してるよね? と思ったので、ピースサインを突き上げて二つ目の金メダルをアピールすると、俺の動きを期待していた観客も遅れること無くピースサインを突き上げた。


 お昼のテレビ番組を見た時に確認したら、全国の街頭テレビやスポーツバーの前でもピースサインを突き上げる姿がたくさん見られてたみたいだ。


 百メートル背泳ぎの準決勝はお約束の二着泳ぎで、百メートル平泳ぎの表彰式を終えると今日の出番は終了だ。

 昼からはフリーになるので、遊真と綾子先生の三人で他の競技の見物に行く事にした。


 両親は二人でデートを楽しんでくるんだってさ。


 GBN12は午後からも仕事での応援が入ってるけど、まぁ違う会場に行ったりするとアンナや香織が絶対怒るから同じ会場に行くけどね。


 向った先は柔道会場の武道館!

 昨日の夜も少し来たけどねテロの制圧だけど……


 今日の夕方からのプログラムは女子五十七キログラム級と男子七十三キログラム級の敗者復活戦、準決勝、三位決定戦、決勝戦のプログラムだ。


 俺達が観客席に行くと、他の観客たちが一斉に集まってきて一瞬パニックになっちゃって、関係者席に連れて行かれちゃったよ……


 観客席の最前列ではGBN12のメンバーが陣取って応援パフォーマンスをしてた。


 お仕事がんばってね!


 関係者席では柔道連盟の人達がサイン色紙とか持ってきて結構大変だったけど、その分めちゃ詳しく解説聞けたし、まぁ楽しかったよ。


 テレビのリポーターもやって来て二つ目の金メダルのお祝いの言葉とか掛けて貰えたし「この席に来てるって事は、次は柔道も始めるんですか?」と質問されて「機会があればやってみたいと思います!」と言ったら本気にした柔道連盟の人が、次々と挨拶しに来て進学先の相談に乗らせてくれとかになって、ちょっと焦ったよ。


 俺が何かを口にしたら、場がカオスになるから以後気をつけるようにしよう。


 今日の女子五十七キログラム級の代表の選手は、入場行進の時に一番フレンドリーに接してくれた人だったから、俺も一生懸命応援したよ! そして無事に金メダルを獲得したら、コーチや監督の方に行かずに迷わず俺に突っ込んで来て抱きつかれた。


 何故かその写真が翌朝のスポーツ紙各紙の一面を飾り、アンナ達に冷ややかな視線を浴びせかけられた。

 俺、何もしてないからね……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る