第31話 V3と勇者パーティの勧誘

 競泳競技は四日めを迎え、今日は俺の出番は午前中の百メートル背泳ぎ決勝の一レースだけだ。


 水連関係者は、俺が最近疲れ気味なんじゃないか? と心配をしてくれている。

 まぁ出番以外は殆ど会場に居ないからね。


「大丈夫です! 体調は絶好調なんで心配はしないで下さい。出場競技の時間以外にリフレッシュさせてもらえれば十分に維持できますから!」


 と言って、自分の出場する時間以外の自由をアピールしておいた。

 会場にはGBN12のメンバーが勢揃いして、息の合った応援を繰り広げている。

 観客の人達も連日のメディアへの露出でGBN12の動きを完コピ出来ている人達が半分近く居て異様な盛り上がりだ。


 これもプロデューサーの冬本さんの戦略で、キレのいい動きだけど比較的単純な構成で直ぐに完コピ出来る振付にしてある為だ。

 日本中の街頭テレビの前などで、小学生の集団や保護者達まで、GBN12の動きに併せて応援する事がトレンドになっていた。


 そして迎えた背泳ぎ百メートル決勝、背泳ぎのスタートで使う専用のバーに手をかけ、壁に足をつける。


 バサロの距離はルールで十五メートル以内だから俺が本気で壁を蹴っちゃうと一気に超えてしまう危険が有るので調整は何度も練習した。


「Take your marks」の声が聞こえて、ピッタリと静止する。

 号砲が鳴って絶妙な強さで壁を蹴りスタートした。


 少しマージンを取り、十三メートル地点で浮かび上がり、一気にストロークを早める。

 五十メートルのターン時点で既に二着に身体二つ分のリードを取る。


 ターンで少しだけ詰められたけど、ゴール地点では身体四つ分七メートルほどの差をつけた圧勝だった。


 ワールドレコード 49秒90 の表示と共に会場は大歓声に包まれ、GBN12のメンバー達も抱き合って喜ぶ様子が見えた。


 お約束タイムだ! 俺は水の中に入ったま右手に指三本を立てて、会場に示すと会場のみんなも指三本を立てて準備する。


 俺は勢いよく右腕を突き上げた。


 会場も一体となって右手を突き上げる。


 笑顔が溢れている。


 でもさぁ指の立て方はちょっと悩んだんだよね、凄い人気の俳優さんが、中指、薬指、小指で指三本を立ててアピールするドラマが合って、かっこいいなぁって思ってさ、練習してみたけど、なんか俺がやると気取りすぎて似合わないと思ったから、結局、人差し指、中指、薬指の三本にしちゃったよ。


 いつかは小指バージョンの似合う、大人な雰囲気の男になりたいぜ!


 その後二つのプログラムを経て、表彰式を迎えた。

 君が代とともにセンターに昇る日の丸の旗を見るのは、何度目であっても気分がいいな。


 俺は一番高い場所で三個めの金色に輝くメダルを授与されて、会場の応援の人にも深々と頭を下げ、応援して貰えた事を感謝した。

 その後の囲み取材も優等生でやり過ごし、その後の午前中の競技の時間はGBN12が陣取る観客席の最前列に行って、観客の人達と一緒に日本代表を応援した。


 勿論、俺の肩にはスポンサーメーカーのタオルが掛かっている。


 今日の出番は終了なので、両親達みんなと一緒にお昼御飯を食べに行き、その後は夜の競技が始まる時間帯までGBN12の出演する番組へと顔を出した。


 俺とGBN12が揃って出演する番組では、視聴率が時間帯関係なくやばい数字になるために、CM枠も凄い高額なんだって。


 今泉さんが取ってきたCM出演は業態毎に十五メーカーにもなっていて、民放ではどのチャンネルを見ても俺とGBN12の姿を見ない時間帯が無いような状況だ。


 CM出演料自体もウナギ登りになり、今では俺単独で五千万円、GBN12とセットで一億円の高額単価だって。


 海外からもCMオファーが来てたけど、そっちは桁が一つ違っているらしい。

 特に中国のスポーツメーカーからオファーが合った案件は、今後、新しい競技を始める時のスポンサー契約と込で三十億円とかのオファーが来てるらしいよ、ビビるよね。


 五輪終了後に参加するモトクロスの大会関係でも、既に俺の名前が世界中に知れ渡る事になったせいで、最近下火だったバイクブームが盛り上がりを見せて、各メーカーが生産を中止していたモトクロッサーの公道版レプリカモデルのバイクも続々再生産が決まってるらしい。


 今泉さんが早速、俺のモトクロッサーのメンテナンスをしてくれてるメーカーとのCM契約取ってきてたしね。


 ◇◆◇◆ 


 その日の夜は、横浜スタジアムに向った。


 下馬評通りの決勝戦を迎えた日本とアメリカによるソフトボールの決勝戦だ!

 勿論GBN12のメンバーもお仕事モードで来ている。


 俺は遊真と綾子先生の三人で並んで日本代表を応援した。

 攻守の入れ替えの時間の度に俺の姿をテレビに映し出すのは勘弁してほしいけど、俺はその度に手を振って愛想を振りまいたぜ!


 こんな時にも律儀に契約メーカーのトレーニングウエア姿で出掛けてたからね!

 試合は延長戦の末に、日本が金メダルを決め、会場も凄く盛り上がった。


 今日はアンナ達もこの後の時間は空いているとの事だったので、綾子先生達が宿泊しているグランドハイアットにみんなで向って、ちょっと豪勢な夕食を楽しんだ。


 俺の両親は、俺が参加する競技以外の時は、二人きりで楽しそうに東京観光を楽しんでいる。

 本当に仲いいよな。


 食事を終えると、俺は選手村に戻り今日も他の国の選手達から、祝福の言葉を受けながら自室に戻ると、斗真さんとマー達に連絡を取り、俺の拠点でのミーティングを行った。


 俺が斗真さんに渡しておいた、魔道具のタブレットが役に立って、テロ以外でも都内で武器の摘発がかなり行われていて、反社会勢力は壊滅的な打撃を受けているらしい。


 特に新宿を中心とした海外勢力の拠点は、根こそぎ摘発されていて、日本の治安はかなり高いレベルで守られる事になったって、斗真さんは喜んでいた。


 マー達には、やばい案件以外は斗真さんに連絡して対処してもらうようにしているから、今日は問題が無かったって事だね。


 斗真さんを先に送り届けて、マー達と少し話しをする事にした。


「マー達ってさ、召喚された時は一緒だったの?」

「うん、別に知り合いだった訳じゃ無いんだけど、ローマに観光で行っててさ、マリアンヌがお布施を集るためにトレビの泉に立っててぇ、偶然この三人が近寄った所に雷が『ピッシャーーン』て落ちてきて、気が付いたらイルアーダのビッチ王女の前に立って居た感じだよ」


「そうなんだ、何年くらい向こうに居たの? 香奈って言うか魔王は三十年、俺は十四年いたんだけど」


 「私達は十年だよ、ヤリマンスキーが『俺達は無敵だから、魔王なんか余裕だって』言い出したからね、早くパーティ解散したかったし、それならと思って行ってみたら、魔王に瞬殺されちゃったよ。結果戻れたから良かったんだけどね」


「そうなんだ……一応ヤリマンスキーがリーダーだったの? 勇者だし」

「リーダーって感じじゃ無かったよね? 常にビアンカに搾り取られてたし」


「マーとマリアンヌは良くそれで平気だったね?」

「平気じゃないけど他に知り合いも居ないし、しょうが無くかな?」 


「ヤリマンスキーはさ、ロシアに戻ってから何をしようとしてたんだ?」

「俺は転移が使えてたから、それを利用して取り敢えず金を稼ごうと思ってた」


「ふーん、それで?」

「銀行を二つほど襲ったら、スペツナズに踏み込まれて、協力しなければ殺すって言われたから、しょうが無く協力してた」


「て事は、お前に指示を出していた存在が居るのか?」

「あー旧ソ連のKGBの流れを組む、スペツナズの影の支配者だ」


「そいつはなんか特殊な能力が有るのか?」

「解らないんだが、魔王の前に立った時と同じ種類のヤバさを感じて、従っていた」


「そうか、俺に何か手を出して来るまでは放置するけど、参考になったよ。ありがとう。でもさ、お前銀行から金盗んでたんなら、十分に悪事働いてるよな、まぁもう少し様子を見させてもらうよ」

「自由にされたら、きっとロシアに殺される。お前の側で仕事をさせてくれ」


「ビアンカの話を聞いた後で提案したい話があるから、少し待っててくれ」

「ビアンカは何か聞いておきたい事はあるか?」


「私達がこの先力を取り戻す可能性って有ると思うの?」

「まだ断言はできないが、マーとマリアンヌが魔物の存在を見つけ出している。お前らじゃ厳しいかも知れないが、俺は力を持ったまま戻ってきているから、一緒に攻略に迎えば、何らかの答えに辿り着くと思ってる」


「そうなんだね、でも力を取り戻してもこの世界で力を使えば、人類の敵扱いにならないの?」


 意外に常識的な考えを持ったビアンカに驚いたが、俺が美緒と共にアフリカで行なおうとしている事業を伝え、それを手伝ってもらえないかと三人に問いかけると意外に快く協力を取り付けることが出来た。


 マーは兵馬俑の探索が一段落ついてからだけどね。


 五輪が終わってからも、やることは山積みだな。


 ◇◆◇◆ 


 競泳競技は五日めに突入した。

 今日の俺の出番は、夜の部の二百メートル個人メドレー予選だけだ。


 午前中は、個人的にすごい興味があったビーチバレーの予選を遊真と綾子先生を連れて見に行った。

 なんかビーチバレーの女子選手って凄いカッコいいんだよね。


 水着も露出が多くてさ、凄いドキドキするよね!

 と思いながら見てると、俺の考えを見透かしたように、綾子先生がジト目で俺を見ててちょっと焦ったぜ。

 

 俺が見に行ってると当然テレビ局が近寄ってきて、コメントを求められるけど、純粋に楽しみに来てるだけだから「ガンバレニッポン!」とだけコメントして、お昼ごはんを食べに行った。


 夜になって、二百メートルの個人メドレーの予選はお約束の二着泳ぎにしようと思ってたけど、今日は一回だけの登場だし俺が決勝レースではないから、GBN12も別の決勝競技の応援に行ってるし、応援の人にサービス!

と思って世界新ペースで泳ぐ事にした。


 顧客満足度を高めるのは商売の基本だしね!

 商売じゃ無いだろ? ってツッコミは禁止の方向で……


 バタフライからスタートして背泳ぎ、平泳ぎ、自由形の四種目を、飛び込みから一気に突き放し、ペースを落とすこと無く泳ぎきった!タイムは当然


 W.Rワールドレコードの表示とともに、映し出される。


  1分51秒86


 を記録した。

 会場も割れんばかりの大声援に包まれ、きっと満足して貰えたよね!


 でも俺が使ってるタオルと同じ物を肩に掛けて、応援する人がめちゃ多いんだよね。

 みんなお金持ちだなぁ。


 この日は競技終了後は遊真達とご飯を食べに行って、早めに選手村に戻って海外選手とのコミュニケーション作りに励んだよ。

 

 特に体操競技の女の子達は年代も近いし、会話もそれなりに盛り上がって楽しかったぜ、言語理解スキル最高! って思ったさ!!

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