第29話 東京五輪の開幕とテロリストホイホイ

 梅雨も開け、日差しも夏の到来を伝えてくる。


 今週は学校も夏休みに突入し、遂にオリンピックも始まるぜ!

 選手村への入村をギリギリまで遅らせ、俺は真面目に終業式まで学校へ通った。


 終業式の日には、全校生徒の前に立ち大声援を受けながら、五輪での健闘を約束した。

 地元のテレビ局が、終業式の様子をわざわざ取材しに来るとか、なんか凄いよね。


 俺は終業式が終わると、その足で両親と綾子先生と遊真の五人で、父さんの車に乗り込み東京へと向かった。

 アンナ達はGBN12のメンバーと新幹線での移動になる。


 東京晴海に用意された選手村には既に世界中から選手が入国してきており、時差ボケの調整などを早めに行っている。


 こんなにお金をかけて作っているのに、日本選手団は殆ど利用しないんだって……勿体ないよね。


 俺は一生に一度の経験なんだし、選手村で海外選手との交流を深めるのもまたいいかな? と思って、選手村への宿泊を選んだ。


 両親達は、選手村へは宿泊できないので、折角だから思いっきり贅沢をしてもらおうと、グランドハイアットのスイートを両親に綾子先生と遊真にもそれぞれ部屋を用意してあげた。


 俺が用意したと言うと綾子先生以外はお金が何処から出たの? って話になるから、今泉さんを通してスポンサーメーカーからの好意で用意してもらったって言う話にしてあるけどね。


 GBN12のメンバーたちもこの期間は東京のホテル暮らしになるけど、こっちは普通のビジネスホテルしか用意してもらえないみたいだ。

 アイドルってあんまり優遇はしてもらえないんだね。


 でも団体活動している以上アンナ達四人だけ、いい部屋を用意してもギクシャクしちゃうかな? と思ってそこは我慢してもらう事にした。


 まぁ期間中は、各局に引っ張りだこで休む暇もないだろうしね。

 俺が競技に出場する時間帯にGBN12を出演する枠を用意した局には、当然俺がその後のインタビュー的な出演をする様になってるから、各局のGBN12誘致合戦も凄いヒートアップしてるらしい。


 メインの四人と俺は、俺の両親が設立したマネージメント会社の所属で、今泉さんの差配で活動してるから、今泉さんも今では、放送界の中ではGBN12などの大人数アイドルグループを多数抱える、名物プロデューサーの冬本さん並みのVIP扱いになってるそうだ。


 剣道大会の時に、俺やGBN12のメンバー達が使ったタオルが日本中どころか世界中で大人気の商品になったり、今泉さんのちょっとした思い付きって結構、経済を動かしてるよね。


 競泳競技では、その時のタオルのもっと大きなサイズでメーカーロゴがこれでもかって言うくらい目立つデザインの物を使う事になってるけど、一枚五千円もするタオルが百万枚以上売れる目算になっているらしくて、その売上金の十パーセントを世界中の国々に競技施設の充実の為に利用すると発表して、メーカーも好感度のアップを狙ってるんだって。


 でも五千円のタオルとか俺が異世界転移する前の感覚だと恐らく一生買う事が無いだろうけどな?

 

 それだけでは勿論無く、陸上競技用のシューズも同じメーカーの専属チームが、俺の為だけに準備した限定デザインのシューズなんだけど、俺は敢えて一つ条件を出してたんだよね、最近流行りのハイテク素材でタイムアップを狙った効果は外してもらって機能としては普通の物だ。


 俺が言うのも変だけど、使う道具で誰でもタイムが変わるって言うデータが有るなら、それは身体能力を競うって言う競技の本質とは違ってるよね?


 その競技に参加するための、指定シューズにするとかなら解るけど。

 だから俺のシューズはデザインが俺専用って言うだけの、ただの軽い靴だよ!


 でも新素材シューズでは、世界のトップメーカーからは一歩遅れを取っていた俺の契約しているメーカーはこの提案を逆に大喜びして受けいれた。


 ぶっちゃけて言えば、このシューズがありなら俺が身体強化の付与を掛けたシューズを提供したりしたら、タイムなんて三十パーセントは縮まっちゃうからね? 一足一億円でも買う人続出するだろね。


 ◇◆◇◆ 


 そして選手村に入村した俺の周りには、日本の放送局も張り付いてくるけど、世界中のメディアからもインタビューを受けた。


 俺は各国の報道陣に対して、完全なネイティブな言語で対応して、それがまたニュース番組を賑わす事となる。

 

 その様子を見ていた各国の選手も、俺には普通に話しかけても会話が成立する事わかると、選手村の食堂の人気を独り占め状態になっちゃったぜ。


 ちょっと疲れたけど、各国の選手達との貴重な触れ合いが出来て大満足だった。

 東欧の体操選手とか、マジ妖精! 異世界に戻った気分になれたよ。


 ◇◆◇◆ 


 入村した日の夕方、両親達と夕食をグランドハイアットで摂る事にして、遊真も一緒に来ているのでお礼を兼ねて、斗真さんも姿を現した。


 食事の後に斗真さんと、俺の拠点に移動して五輪期間中のテロの危険性についての話し合いをしたけど、期間中は外国人も極めて大量に訪れ、その全てを把握するのはとてつもなく困難に近い。


 俺は、暇のある時に作っておいた、探知魔法を付与したタブレット型の魔道具を見せてみた。

 銃火器、爆発物、刃物に反応する様に当初作ってみたけど、包丁やガスボンベまで反応してしまって、実用性が無かった物を少しずつ改良して、闇属性魔法と組み合わせて、悪意と共に存在する物に反応するように改良したのだが、現時点では明らかなオーバーテクノロジーになるから、果たして活用をさせるべきかどうかで、少し悩んでいた。


 結局、JCIAの中では斗真さんに特殊な能力があるのだと言う認識で、納得させる事にして直属部隊の二十四名がその魔道具の存在を秘匿した上で活用する事になった。


 五輪期間中はメンバーが各競技場に控え、テロに対処する。

 その規模に応じては、俺が出動する場合も起るが、競技中などどうしようもない場合を考えると、俺の替りを務めれる人間が必要となる。


 俺は、武漢のマーに連絡を付け、五輪終了後は兵馬俑の探索も協力する事を条件に、五輪期間中は俺の替わりに初動をして貰える様に頼んだ。


 彼女なら、ある程度の魔道具を与えれば対応は出来るので適任だろう、だが移動をどうする?

 あぁ……あいつが居たな……少しは反省してるんだろうか?


 ビアンカに首輪でも付けさせて移動要員として、ヤリマンスキーを使うか、ビアンカにはテロリストを捕まえたら好きに搾り取っていいとでも言えば協力するだろう?


 ビアンカの言語理解も役に立つ筈だしな。


 マーと共にカンボジアに転移してビアンカのもとを訪ねると、やせ細ってギョロッとした目をしたヤリマンスキーと、妙に肌艶の良いビアンカが居た。


 相変わらず顔面でかいよな……


「今回のテロの阻止を手伝えば、今後のヤリマンスキーの扱いは少し考えてやる」と伝えると、ビアンカから逃れられるなら何でも言うことを聞くから助けてくれと言って来た。


 かなり精神崩壊してるな。


 ビアンカにはテロリストは確保すれば好きなだけ搾り取って良いと伝えると「まぁそれならいいか」と協力してくれる事になった。


 色々片付いたら、二人共アフリカの拠点で働かせるかな?

 性犯罪の特に多いアフリカでは、それ系の犯罪者は全てビアンカに任せるようにすれば、犯罪抑止力に繋がる筈だ……


 斗真さんとマーが密接に連絡を取り合い、マー達だけでは厳しいと思ったら、俺に連絡をよこすように頼み、五輪期間の対策とした。


 ◇◆◇◆ 


 翌日、俺は競泳会場でスイミングスクールの所長と飛び込みやターンの最終調整を見てもらった。

 他の代表選手からも色々とアドバイスを貰ったりしたから、中々フォームも様になってきたぜ。


 練習を終えた後は、美緒と落ち合い一度アフリカの拠点になる場所のサバンナのど真ん中に、長さ二十メートル幅十メートルの檻の上に赤い色をした屋根を乗っけた牢屋を設置しておいた。


「何だかゴキブリホイホイみたいなデザインだよね」と美緒に言われた。


 周囲をライオンやハイエナが徘徊するとても精神的に厳しい場所だ。

 毒蛇やサソリの侵入に対しては、檻では防げないので、安眠するのは難しいだろうね。


 ヤリマンスキーに、発見したテロリストは全部一括してこの中に放り込むように伝えておいた。

 きちんとやり遂げれば、少しは罪滅ぼしになったと認めてやってもいいかな?


 翌日の開会式を前にして、斗真さん達は緊張感マックスだよな。

 明日の開会式は、海外のテレビ放送時間と言う大人の事情で二十時から二十三時と言う中学生の俺は、途中退場をしなければならない時間帯に行われる。


 まぁ別にいいんだけど、聖火点灯を見ることの出来ない開会式の参加とか別に出なくても良さそうな気がするよね。


 東京でやるのに、ほとんどの小学生とかは二十三時とか寝てるだろ?

 意味わかんないよね?


 ◇◆◇◆ 


 そして今日は七月二十四日の土曜日。

 開会式の当日だ。


 俺は午前中からGBN12のメンバーと共に各局に引っ張りだこで、最終調整とか大丈夫なの? と逆に心配されるような状況だった。


 夕方六時には、会場に集まり入場行進に備える。

 揃いのジャケットを着せられての入場になる。


 最近のテレビ番組への出演などで殆どの選手は顔見知りなっていて、当然最年少の俺は、みんなから結構可愛がってもらえる。


 筆頭は、女子レスリングと女子柔道の選手団で、俺の周りをがっちりガードしてくれてるけど、なんかちょっと怖いよ。


 一応入場の時間を迎えると、競泳のグループの元に開放してもらえてやっと一息つけた。


 凄いお金をかけてるな! って解る演出が続き、幻想的とも言える中を開始一時間ちょっとで、俺は退席して行った。


 明日からの競技は頑張ろう!


 俺は会場を後にすると、直ぐに転移で一度拠点に戻り、斗真さんに連絡を入れる。

 テロの情報を貰うためだ。


 現在の所、既に斗真さんの配下だけでも、五名を武器の所持で拘束しているようだが、テロ組織との繋がりは見えてないようだ。


 マーの方は、開会式会場で不穏な気配を感じて見極めてる途中だそうだ。

 開会式会場で爆発なんか起こされたら、大騒ぎでは済まない。


 しかもマー達では結界を張ることが出来ないので、俺が斗真さんと入れ替わって出動する事にした。

 会場の競技場はまだ開会式が続いていて、そろそろクライマックスの聖火ランナーが競技場に入って来る時間帯だ、狙うならこれだよね? と思いながら見ていると、マーが察知してヤリマンスキーに指示を出した。


 俺より先に気付くとかマーも結構凄いな。

 武術系の気配探知の併用かな?

 俺は、念には念をで聖火ランナーの邪魔にならない範囲で結界を準備した。


 ヤリマンスキーがビアンカと共に転移した先は、ビルの上層階の窓から、ロケットランチャーを構える外国人が居て、ヤリマンスキーは素早く犯人に触れて、アフリカの檻の中へと再度転移を発動した。


 格闘術などは全て失っているが、転移能力だけでも十分に強力だな。

 やはりヤリマンスキーを自由にさせるのは危険かな?


 俺は念のために、周囲を探知したが危機を感じ取ることは無かったので、戻ってきたビアンカとヤリマンスキーに礼を言って、拠点で再び斗真さんと入れ替わってから選手村へと戻った。


 聖火点灯の瞬間は、テレビで見ていた。

 選手はみんな開会式に参加しているので、今この場所にいるのは選手村のスタッフだけだが、明日からの競技の激励の言葉を掛けてもらって、眠りについた。

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