第28話 剣道日本選手権とカーネル大将の組織

 七月に入り、日本中が五輪の話題で賑わっている。

 話題の中心は当然俺だ。


 競泳競技の七種目、陸上競技の三種目に出場する俺は、すべての競技で金メダルの獲得が当然のように言われている。


 今日はテレビ番組の収録で東京のテレビ局に来ている。

 明日からの中学生の剣道日本選手権に合わせて、金曜日から上京したんだけど、当然GBN12のメンバーや遊真に綾子先生も一緒に上京している。


 香織ちゃんだけは、明日の試合に向けて最終調整をしたいと、お父さんとお爺さんが稽古をつけてくれてるそうだ。


 GBN12は十一人でスタジオに来ていて、他にも五輪でメダル獲得が確実視される競技の選手が呼ばれていたけど、質問が俺に集中しすぎて困るぜ!


 でも今回の五輪ではメダル確実と言われる競技は結構あるんだな、やっぱり東京開催に合わせて気合の入れ方が違うんだろうね。


 番組の企画でスポーツクライミングの壁がスタジオに用意されていて、世界選手権優勝の選手が凄いスピードで壁を上る試技が行われた。


 その選手が試技を披露した後で、俺に満面の笑みで近寄ってきて「次はクライミングでもやってみないかい?」と、誘ってくれた。


 真剣にやっていきなり勝っちゃったりしたら、番組的にどうなのかな? と思ったけどそこは、盛り上げるためならちょっと演技も必要かなと思って「やってみたいです!」


 と言って、クライミングの壁の前に立った。

 落下防止の腰紐を装着してカウントダウンが始まり、スタートした!


 一気に上り詰めゴールのボタンを押す瞬間に、足を踏み外して、宙吊り状態になって下に降ろしてもらった。

 最終ゴールボタンを押す直前までのタイムは、世界チャンピオンより明らかに早かったと思わせたけど記録は残さない。


 これが一番いい選択かな? と思ってそうしてみた。

 案の定スタジオはとても盛り上がって、俺にコメントを求められたので「握力的に限界で無理でした、難しいですねー」と言って、席に戻った。


 でもこの場に居た一流アスリートの人達には、わざとだろ? 的な視線で見られてたけどね!


 次は、アマレスの女子チャンピオンの人に抑え込まれた状態から、脱出する事が出来るか! の企画があった。

 俺の背後に、最強霊長類的な称号を持つ人がピッタリと覆いかぶさり、スタートした。


 相手は女子選手だから、ここは抜け出しても問題にはならないかな? と思って、スタートと同時に膝の屈伸で逆立ち状態になって、後ろに女子チャンピオンをぶら下げたまま逆立ちでスタジオ一周してそのまま女子選手が下になるような感じにブリッジで着地をした。


 結構受けた!

 でもこの人しがみついたまま、最後まで離れなかったな、それはそれで十分凄いよね。


「私より強い男の子が居る事に胸がときめきました」


 ってこの女子チャンピオンが熱い眼差しで俺を見てきて、結構ビビったよ……

 そんな感じで番組は十分に盛り上がり、GBN12の応援ソングのパフォーマンスで番組は締めくくられた。

 俺は明日の中学生の剣道選手権のコメントを求められたから「全力でがんばります! 明日の大会は俺よりGBN12の香織ちゃんに注目してあげてくださいね!」と、言っておいた。


 明日の剣道大会は、通常なら国営放送的な局がスポーツニュースで少しだけ放送する程度の番組なんだけど、今回だけは一回戦から民放でもライブで全国放送をする事になっている。


 現役アイドルの香織ちゃんや、競泳や陸上のオリンピック代表の俺が出場するから、注目度が桁違いだよね!


 でもさぁ……今泉さんが取ってくる契約って凄いよなと思ったのが、剣道なんて防具も竹刀も俺は全部香織ちゃんの家で製作されたものを使ってるんだけど、スポーツメーカーのロゴが入ったタオルを渡されて「面をとった瞬間に、必ずそのタオルで汗を拭いてくださいね!」と言われた。


 たったそれだけの事で何百万と言う収入があるんだって……


 ◇◆◇◆ 


 そして剣道の日本選手権の当日、土日二日間の開催で、初日は個人戦団体戦共にベスト8まで進められる。


 俺と香織ちゃんの出場は、順当に勝てれば各三試合だね。

 当然勝ち進んで明日の試合に駒を進めた。


 土曜日の今日は、昨日の俺の番組出演の後から徹夜で並んでチケットを求める人が大量に湧き出て、特に中学生以下は無料だったもんだから、真夜中に並んで補導される子が相次ぎ、ちょっとした社会問題になってしまった。


 翌日の試合に向けて、今日も試合終了直後から並ぼうとする人がいたけど、夜明け前に並ぶことが禁止されて、決勝戦当日は朝六時から七時のあいだに入場抽選券の配布で、抽選に当選しないと観戦できない緊急措置が取られたりした。


 昨日の大会初日は、剣道大会というジャンルの番組では考えられない、視聴率二十パーセント超えだったそうだ。

 まぁ観客席には、今一番人気のあるアイドルグループの GBN12が私服姿で訪れていて、応援してる姿が見れたりするんだから、入場できた人達はラッキーだよね。


 パフォーマーの八人の女の子達も、みんな一年以上練習生としてレッスン料を取られながらデビューを夢見る生活をしていたのが、一気に全国区になって、他の大人数グループの子達よりもメディアの露出が増えて、大喜びをしている。


 彼女達はみんな年齢的には高校生で少しお姉さんなんだよね。


 商売上手な今泉さんが、二日目の今日はGBN12の娘達にも俺が使っているタオルと同じものを、色違いで首に掛けさせて居た。


 きっと凄い宣伝効果なんだろうね?


 いろいろな制約があるアマチュア競技だから、決してタオルの事に関してコメントはしないけど、俺達がみんな使ってるタオルが人気が出ない訳もなく、一枚千五百円もするタオルが全国的に大ブームになったそうだ……


 そして俺と香織は二人共一本も取られること無く優勝すると言う快挙で大会は幕を閉じた。

 香織の美少女剣士キャラは、ラノベファン達にも『正にファンタジーが現実に訪れた』と、大人気になりGBN12でもアンナとのツートップで、凄い状況になって来た。


 五輪開幕まで後二週間。

 かつて無いほどのスポーツブームで日本中が賑わっている。


 俺はその日のうちに名古屋へ帰り、GBN12と共に地元のバラエティーに出演してインタビューを受け、今後の目標とか聞かれた。


「今は目前に迫った五輪に集中して、それが終わったら色々な可能性に挑戦してみたいです!」と優等生発言をしておいたぜ。


 家に帰って母さんがホームページの出演申し込みフォームを確認していると、あらゆるスポーツ団体から競技をして貰えないか? と、勧誘が来ていたそうだ。

 俺が始めると、どんなマイナースポーツでも人気スポーツに早変わりしちゃうと言う皮算用だろうね。


 ◇◆◇◆ 


 バチカンに三度目の奇跡が訪れた。


 多大な俺の懐への収入しゅくふくと共に、教皇様から「一度特別な奇跡を起しておきたいが良いですか?」と要請を受けた。


 インドのマハラジャの孫娘が飛行機の墜落事故に遭遇し、かろうじて一命を取り留めたものの、美しかった顔も大きく傷つき下半身も動かず、とてもつらい状況に陥っているらしかった。


 何故彼女を対象に選んだのかを聞くと、このマハラジャはヒンドゥの信徒なのだが『奇跡が本当に起こるのであれば改宗を行う』と約束を取り付けたらしい。

 もしこのマハラジャが改宗を行えばその影響は計り知れず一気に億単位の信者の獲得に繋がるという、実にバチカンに都合の良い案件だそうだ。


 しかも改宗をすれば奇跡が起こる確率がある事が世界に公表でもされれば、世界の秩序は一気に変わるかも知れない程の出来事だろうね?


 俺は教皇様に条件を訪ねてみると、驚きの「五千万米ドルで如何でしょうか?」と提案され、教皇様の手をガッチリと握ったぜ‼


 流石に五千万ドルなら演出から手伝うことにして、マハラジャと少女がカトリックの洗礼を受けているその時に、マハラジャの宮殿に天から光が降り注ぐように光魔法を発動し、精霊魔法で妖精たちを顕現して見せて、動けない少女の手を取り抱えあげさせた。


 その次の瞬間に転移でバチカンに移動し、教皇様と入れ変わった俺とマリアンヌに手を繋がれて奇跡が訪れ、その次の瞬間には再び転移でマハラジャの宮殿に完治した少女が現れるという、奇跡以外のでもない演出を仕立て上げた。


 決して撮影などされた訳ではないが、奇跡を目の当たりにした人々の口を塞ぐことは無い。

 ネットを中心に世界中にこの奇跡は拡散した。


 教皇様の満面の笑顔と、俺は収入しゅくふくを手にして自宅に戻った。


 ◇◆◇◆ 


 カーネル中将の昇進が発令され、統合参謀本部議長として大統領の側近としての勤務に就く事になり、通常この階級は軍隊への直接命令権は無く、名誉職に近い物であるが、今回カーネル中将がこの職務を受けるに当たり、テロ組織壊滅のための直属部隊の指揮権を持ち、陸海空軍及び海兵隊から精鋭を集めた特別部隊を編成することになった。


 米軍の威信をかけたこの組織は、あらゆる軍事組織の上位権限を有し、テロに関わる全ての事態に対応を行える組織となる。


 しかも特異性はこの組織の参謀本部には英MI6、フランスDGSE 、ドイツBND、そして日本からは斗真が指揮するJCIAから、常に常駐する人員が置かれ、国際協力の元にテロの撲滅を目指すこととなった。


 カーネル大将の直属組織にはオズワルト大佐とリンダ中尉も配属される。


 ◇◆◇◆ 


 カーネル中将が本国へ帰還する前々日に、斗真さん、俺、美緒、香奈、綾子先生、カーネル中将、奥さん、リンダさんで集まって、食事会を開く事になった。


 オズワルト大佐にはまだ内緒だ。

 カーネル中将の奥さんはマリーさんと言う名前で、病状も完全に回復している。

 もう四十代後半だと言うのに、鍛え上げられたダイナマイトボディのとても美しい人だった。


「病気治ってよかったですね」と声を掛けると大げさに手を広げて、俺に抱きついてきて巨大な胸の谷間に挟み込まれて窒息しそうになった。


 とても幸せだ!


「貴方のお陰で私の自慢のオッパイも取り戻せたわ、気持ちいいでしょ」となんかとても乗りのいい人だった。


 カーネル中将は目を見張って何か言いたそうにしてたが、両手を広げて呆れた表情をするにとどまった。

 リンダさんが「このミラクルボーイは私が目をつけたんだから母さんは、父さんに揉ませてるだけでいいの」と、言い出した。


 綾子先生がちょっとジト目でリンダさんを睨んでる。


 うーん平和な光景だよね!


「翔君、これからは私とも斗真と同じ様に付き合いをよろしく頼むな。リンダと香奈が入れ替わる時に使ったペンダントは、私が預かっておくからミッションに応じて、翔君に私の姿を使って貰う場面も出てくると思うが、その時はよろしく頼むよ。斗真に聞いたんだが、入れ替わってる間に体のメンテナンスをして貰えるそうだね、そこも期待しておいていいかな?」


「機会があればやっておきますね」

「翔君はもうすぐオリンピックだね、今回は翔君が出場する競技だけは母国を裏切る事になるが、マリーと共に翔君の応援をさせてもらうよ」


「ありがとうございます! 頑張りますね」


 そしていよいよ、来週はオリンピックの開会式が行われる。

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