第26話 アイドルグループとボクシング地方大会とカーネル中将【後編】
横田基地から戻った俺は、拠点に香奈と美緒を呼び寄せ、作戦の概要を伝える。
「香奈ちゃん、アイドルがそんな危険な場所にでかけても大丈夫なのかな?」と美緒に声を掛けられると「私は魔王様だから強いんですよー」と最近のキャラでおどけた感じで言っていた。
「香奈の魔王トークは本当に自分が魔王の時にやってた事そのまま喋ってるだけだろ? 全然違和感がないのが逆に怖いぞ」
「まぁね、本物の経験は何にも勝るものだからね!」と、完全に開き直ってるなこいつ。
「それより、今回の問題点をさっき、カーネル中将から聞いてきた情報と組み合わせて考えると地中海沿岸に展開する海賊グループが、その船舶に艦対空ミサイルを配備して狙ってる可能性が高い」
「ミサイルって船みたいな安定してない所から撃って当たるもんなの?」
「俺もその辺は専門じゃないから恐らくだが、赤外線追尾装置でもあれば問題ないんじゃないか?」
俺がそういうと、香奈が横から口を挟んだ。
「私が力を持ってた時だったら、爆撃機程度なら吐息で凍らせたけどね」
「香奈……お前、力取り戻しても絶対やるなよ?」
「大丈夫だと思うよ? 翔君がちゃんと相手してくれてる間は」
マジで心配だ……
いつも通りに美緒は撮影を、香奈はテロリストと海賊船の鑑定を行う事に決め地中海へと飛んだ。
「作戦開始時間まで後二時間だ。それまでにアフリカ大陸側の海岸線を徹底的に調べて、特に隠蔽してある船舶を鑑定掛けていくぞ」
「了解」
カーネル中将から与えられた情報を基に、リビアのトリポリから西に向かっての海岸線を、集中的に調べて行くと、チュニジアとの国境をまたぐ様な状態で、武装の強化された漁船群を確認できた。
攻撃目標になっている地点ともさほど距離はなく、恐らく不安要素はここで間違いないであろう。
あくまでも今日は主としては、アメリカとフランスの合同チームの援護であるから、現時点では警戒をすることしか出来ないが、香奈と二人でここに居る船舶を鑑定していった結果、軍事的な行動ができる装備を積んだ漁船だけで二百隻以上が存在し、所属が国軍でない以上は九十九パーセント以上の確率で海賊もしくはテロ組織の移動砲台であると考えて良さそうだ。
更に監視を続けると作戦決行まで一時間を切った頃から、次々に船内に武装したテロ組織の人員が乗り込んでいく。
鑑定を掛けたので間違いはない。
どう対処するのが正解かな? 頼まれてもいない状態で、俺達に直接被害も与えられていないし、この時点での殲滅を選ぶとタダ働きだよな?
連合軍の実力を見せてもらう意味も含めて、事態が動くまでは静観を続けよう。
海上に出港していった船舶の中で比較的大型の物に絞って更に監視を続けると、やはり間違いなかった。
艦対空ミサイルを積み込んである。
全部で五基か、同時発射されると少し対処が面倒になるな。
しかも周りの小型艦艇にも半数程度は携帯型の地対空ミサイルを構えている奴らがいるぞ。
米軍のスティンガーを装備した艦もあるな、こんな戦略兵器がテロ集団に出回るとかどんな管理になってるんだよ……
完全に襲撃の情報が漏れているという事は、恐らく作戦が発動して、空爆を仕掛けても既に拠点はもぬけの殻だろうな。
連合軍内部から情報が漏れているのは間違いないが、どうしたもんかな?
まぁ俺に任されているのは、合同部隊の安全確保だから、余計な事はせずにおくか。
作戦決行の時間を迎え予定通りにフランス空軍の爆撃機が飛来してきた。
既に艦対空ミサイルは五基とも発射準備が整えられている。
俺は五隻の移動砲台になっている船舶の内、四隻に結界を貼り、ミサイルを発射すれば自爆するような状態にした。残り一隻に転移で移動して、隠密で潜伏する。
発射準備を整えていざ発射と言う瞬間に船ごとアイテムボックスに収納した。
乗り込んでいたテロリストは海上に投げ出され、周囲では四隻の船が自ら発射したミサイルが結界の壁によって爆発し撃沈していった。
ミサイルを積んでいなかった他のテロ組織の船舶が海上に投げ出されたテロリストを救助しようと近寄って来た。
フランスの爆撃部隊の航空機は海上で起こった大規模の爆発を確認して、急遽反転して帰投し始めた。
当然その後に続く空挺部隊もこの空域に入って来る事は無く、俺は斗真さんに連絡を入れた。
「斗真さん、作戦は完全に相手組織に筒抜けで、海上から艦対空ミサイルで迎撃をする準備が完全に出来上がっていました。現在艦対空ミサイル搭載船舶は四隻を自爆誘導し一隻を拿捕。周辺海域には武装船舶が百隻規模で存在しますが、どう対応しますか?」
「早急にカーネル中将から指示を仰ぐから、テロリストの船舶の海上からの離脱阻止を頼めるか?」
「少し大変ですから、報酬弾んでくださいね」
俺は次々に船舶の推進能力を奪い、海上から移動できない状態にしていった。
「百隻もあると面倒だよね、でも全部沈めて俺がこの人たちを殺してしまう選択もちょっと違うしねぇ」
と、呟きながら、頑張って全挺の足止めを行った。
斗真さんから再び連絡が入る。
「翔君、直ぐにアメリカの第六艦隊が海域封鎖に向かうので、一時間ほどそのまま待機してもらっても構わないか? 宗教組織だから、艦艇が自爆する可能性もあるが、その場合は敢えて放置して欲しい」
「解りました。こちらからは一切の手出しをせずに見守ります。一部始終はすべて美緒が記録していますので後でデータを渡しますね」
結局その後米軍第六艦隊の巡洋艦が姿を見せ始めた時点で、百隻以上に上る艦艇が次々と自爆沈没を始めた。
俺は勿体ないと思い、比較的きれいな艦艇三隻程をアイテムボックスに収納して現場を離れた。
斗真さんに連絡を入れる。
「ミッションコンプリート」
そしてその後は第六艦隊に任せ帰還した。
◇◆◇◆
「昨日は時間かかりすぎたな」
戻ってきたのが日本時間で朝の四時になってたから結構眠いぜ。
まぁ恐らく俺が行ってなかったら、攻撃部隊は壊滅していたと思うから、きっと報酬は弾んでくれるだろ?
それでも真面目な中学生の俺は、朝からちゃんと学校に通うぜ!
リビングで朝ごはんを食べながらニュース番組を見ていると、地中海で海賊の殲滅作戦が実行され、アメリカ第六艦隊とフランス空軍の合同作戦により百隻を撃沈、拠点に停泊していた武装船舶百隻を拿捕し、地中海の海賊組織を完全に制圧した。というニュースが放送されていた。
作戦自体替わってるじゃん……
学校について遊真達と話していると、陽奈ちゃんが「今日ね香奈が体調悪いとか言って休んでるんだよね心配だなぁ」と言った。
魔王、寝不足でサボりやがったな……
「今日はアイドル活動は無かったの?」って俺が聞くと、香織ちゃんが「基本、翔君のテレビ出演に合わせての活動になるから、週末以外は翔君にテレビ出演がない日は私達も無いよ。新曲の振り付けと歌詞覚えはしないと駄目だから、レッスンは行くけどね」と言うことだった。
「でもさぁ、まだデビューから二週間だろ? 凄いペースで持ち歌増やしてるよね? よく作れるよなぁ」
「プロデューサーの冬本さんの所には、あらゆる状況に対応出来るように、曲を作るプロジェクトチームがあって毎日十曲くらい作られてるんだって、その中から日の目を見る曲は半分も無いらしいよ」
「それは凄いね。現代のモーツァルトなんてレベルじゃないよな、楽曲生産工場だね」
「私達は、応援団のイメージで活動してるから曲も全部色々な応援ソングなんだよね、凄いポジティブな曲ばっかりだから、歌ってても楽しいんだよ」
「そうなんだね、楽しめてるなら安心だ。アンナは雑誌の仕事も多いだろ、きつくないか?」
「私はGBN12の活動が入ってない時間は結構ファッション雑誌系のお仕事が入ってるけど、今泉さんが無理の無い様に調整してくれてるから、大丈夫だよ」との事だった。
「なぁ翔、GBN12っていつまで活動するのかな?
「うーんGBN12の活動はアンナ達次第だけど、俺は公式には引退発表はしない方向性になったよ。その代わりに俺の記録を抜く人が出るまで記録を持ってる競技には参加しない! って言う流れにしたよ」
「それってほぼ引退と同意義だよな?」
「まぁそうとも言えるけど、記録持ってない競技もいっぱいあるから定期的に何かには出場するよ」
「なんか別次元に居るよな。希望には頑張れって言っていいと思うか?」
「良いんじゃないかな? もっと他の事に興味持ってくれるほうがもっと良いけどな」
そろそろホームルームの時間だな、と思って教室の前の時計を見たタイミングでまた校内放送で呼び出された。
職員室に行くと五人の人が待っていて、綾子先生に紹介された。
「翔君が入学希望している学校の方々です。少しお話をしたいと言う事でお見えになりました」
「始めまして、松尾君が当校への進学の意志があると伺いまして、取り敢えずご挨拶に伺わせて頂きました」
「初めまして。松尾です。雌熊先生からもお伝えさせていただいたと思いますが、僕は特定の活動での優遇措置を望みませんので、あくまでも通常の生徒として扱って頂くのが希望ですが、可能でしょうか?」
「それは、松尾君が当校へ入学した場合は、特定の運動部への所属はしないという事でしょうか?」
「はい、そうなります。まず部活への入部はしません。陸連や水連の関係で大会に出場する事があるかも知れませんが、その時には所属高校と言う意味では学校の名前は使わせて頂きますが、継続的に特定の活動はしませんので、それを望まれる場合は入学希望自体を取り下げさせて頂きます」
「そうですか解りました。あくまでもお願いということで、希望を伝える場合はあるかも知れませんが、強制は一切しないことは約束します。松尾君の場合は学業の成績も全国模試トップの実力ですので、名前の書き間違いさえなければ試験はほぼ合格されるでしょうから、来年の四月を楽しみにしておきます」
「ありがとうございます。名前を間違えないようにしっかりと練習しておきます」
「一応折角出てきたので、挨拶だけはさせて下さい、私は理事長の大隈と言います」
「水泳部の監督をしております北島です」
「陸上部の監督をしております瀬古です」
「拳闘部の監督の輪島です」
「剣道部の柳生です」
「もし入学されたら、入部はしないにしても在校生に対しての見本になる程度に顔を出して貰えれば、生徒たちもモチベーションが高まると思いますので、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「後一つだけいいですか? 松尾君は語学も堪能だと伺ってますが、理解される外国語は英語だけでしょうか?」
「いえ、一通り全て大丈夫です」
「そ、それは、中国語やアラビア語のような言葉も理解できるという事でしょうか?」
「そうですね、それで間違いないです。あ、ボクシングなんですが今のジムの会長と約束が一つあってですね、十六歳になってすぐにプロのライセンスを獲得して十七歳で世界タイトルにチャレンジする事になるんですが、学校的にプロスポーツ活動は可能なのでしょうか?」
「それはまた凄まじい計画ですね。問題は無いと思います」
「それだけ確認させて頂ければ十分です、試験で伺った時にはよろしくお願いします」
やっぱり俺が行くと言ったら、余分な期待させちゃうよな。
でも、進学問題はこれで一応一段落かな?
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