第25話 アイドルグループとボクシング地方大会とカーネル中将【前編】

 今度は剣道大会で優勝! と大きな見出しでスポーツ紙の一面を飾った

新聞を眺めながら朝食を食べていると、母さんが「相変わらず凄い数のCMや取材の申込みが来てるけど、何か気になるのある?」と言いながら、ホームページの申し込み欄から抜き出したデータを印刷した紙を持って来た。


「特別気になったのはないから、今泉さんと適当に決めておいてね」と伝えて、学校に向かう用意をした。


 昨日の森先生達との超高級焼肉店での食事会で、香織ちゃん達が、アイドルグループの事務所から勧誘を受けて、今日事務所に顔を出す約束をしたのだが、中学生の女の子四人で芸能事務所に行かせるとか、少し心配だったので、学校に着いてからアンナ達と話していた。


「そうなんだよね、一応お祖父ちゃんとお祖母ちゃんにも言ったんだけど凄く心配しちゃってさ……どうしようかな?」とアンナが答える。


 香織は「私は意外にやりたいんなら好きにして構わないって言ってくれてるよ。お父さんだけ反対みたいだけど、お祖父ちゃんとかノリノリで薦めてたよ」って感じだった。


 陽奈ちゃんは、「うち、お父さんが連絡付かないままだから、自分達でこの先、生きていかなくちゃならないと思うと、チャンスなんじゃないかなって思ってる」と言うことだ。


「じゃぁさ、心配ないような環境作りから始めたらどうかな? 所属は俺のマネジメント会社で、交渉は今泉さんって言う、俺の契約関係を全部仕切ってくれている弁護士さんに任せちゃえばいいんじゃない?」


 三人とも、その意見に賛成の様で「「「お願いします」」」

 と、声を揃えて言われたので、早速、今泉さんに連絡を入れてみた。


「それは、凄いビッグビジネスになる可能性がありますね。今は翔君が世界で一番話題に上がることが多い人ですから、その友達である彼女達が、もしアイドル活動を始めれば、翔君のバーター出演を狙って、どの局も猛プッシュしてきますよ」という返事をもらった。


 結局、今日の放課後、今泉さんも一緒に芸能事務所へ行き、所属とマネジメント契約の内容を詰めて行く事になった。


 大人数のグループを全国で沢山手掛けているこの事務所の名物プロデューサーは、五輪特需に併せて『松尾翔』と日本代表の私設応援団として企画を起ち上げ、一気に売り出す事になった。


 お洒落にデザインされた学ラン姿の美少女が、応援団風のキレッキレの動きと、日本代表を応援する内容の歌詞で、事務所に顔を出した日から、僅か一週間でデビューをさせると言う超スピードの売出しだった。


 アンナ、香織、陽奈、香奈の四人がメインで、地元アイドルグループの練習生達がパフォーマーとして参加した十二人グループのユニット『GBN12ガンバレニッポン』と名付けられ、翔が出演するすべての番組でパフォーマンスを披露する事で一気に知名度を高め、各社のCMにも翔と共に出演してCMソングも担当するという、徹底的な売り込みで、一気に全国区のアイドルとなった。


 本人達の努力も凄いが、この企画を実現させるプロデューサーの手腕は流石である。


 正統派美少女のアンナ、大和撫子の香織、おしとやかなお姉さんキャラの陽奈もそれぞれに大人気となり、香奈は魔王キャラを前面に打ち出す売り込みを行って人気を集めていた。


「お前それ洒落にならねぇからな……」


 ◇◆◇◆ 


 今泉さんの交渉能力により、契約から一か月が経過した時点で獲得してきたCMやスポンサー契約は三十億円にも昇った。


 あくまでも俺の分だけでだ。

 GBN12絡みを合わせると更に三億円の追加収入がある。


 五パーセントの手数料で計算しても月収一億六千五百万円を獲得した今泉さんは、やっぱり凄い能力を持っているんだろうな。


 でもさぁスポンサー契約のせいで、俺がテレビ出てる時は常にメーカーのロゴが見える位置についてる服装しなければいけないとか、結構色々約束事が有るんだよね……


 バチカンも二回目の奇跡が起こり、俺のふところも順調に祝福されている。


 すでに、教皇様の元には特別な奇跡が起こる可能性の打診が凄い数で、きているらしく、一人だけでも実現させれば、一回一千万米ドル程度の収入になるだろうと教皇様は予測していた。


 ◇◆◇◆ 


 忙しい毎日をを送りながら、六月に入り梅雨前線の動きが気になる時期になってきた。


 アンナ達もイベントやテレビ番組に引っ張りだこになり、中々、学校に全員揃うのも珍しいような状況になっている。


 当面、五輪が終わるまでの期間は、芸能活動優先で、それ以降は学業優先の週末アイドルとなる事になっているんだけど、果たして、ここまで人気が出てしまうと学業優先に戻れるのかな?


 それでも香織は毎日の剣道の鍛錬は欠かしてないらしいのが凄いよね。


 ◇◆◇◆ 


 俺の方は、六月の第一週はボクシングの地方大会があり、この大会で二位以上だと全日本大会の出場が決まる。

 

 この地方大会は全国が四ブロックに分けられ各階級十六人の出場者が、トーナメント形式で対戦する。

 

 迎えた大会初日。


 この大会自体例年であれば会場が埋まるような大会では決して無かったのだが今回は話が違う。


 テレビ局も訪れ、週末にはGBN12のメンバーが、あくまでも観客として来ていて、俺の応援のために加山ジムのプロ選手達も、観客席に陣取っている。


 勿論会場自体も超満員になっていて、凄い盛り上がりようだ。

 俺は四日間の大会を全て一ラウンドKOによる勝利で優勝を決め、全国大会に駒を進めた。

 当然のように、その日のスポーツ番組や、翌日のスポーツ新聞では大きく取り上げられ、日本中が松尾翔フィーバー状態だ。


 来週は剣道の県大会だな、香織と一緒に全国出場を決めたいな。

 全国区のアイドルとなった香織の実家の剣術道場も入門希望者が溢れかえり、剣道ブームも訪れていた。


 アンナは元々見事なプロポーションをしているし、GBN12でのデビュー以降ファッション雑誌の表紙を飾ることも増え、陽奈、香奈の姉妹も魔王キャラと冷静に嗜める姉と言う温度差が受け、バラエティで引っ張りだこになっている。


 そして翌週の剣道の県大会では、俺も香織も見事に優勝を決め全国大会へと駒を進めた。


 ◇◆◇◆ 


 五輪まで残り一か月となったこの時期、国内のテロ対策も斗真さんを中心に、徹底的に行われているが、やはり一番手強いのは宗教組織だ。


 特にバチカンの奇跡が公表されてからは世界の宗教事情も一変した。

 焦りを覚えたその他の宗教組織が過激な行動を起こす事が、世界中で起こっている。


 剣道の県大会が終わって、遊真達と打ち上げの食事会に来ていた時に斗真さんから電話があった。


「忙しい時に悪いね翔君。今日の大会も無事に優勝したようだね、おめでとう」

「ありがとうございます斗真さん。でもそれだけで電話してきたわけじゃないですよね?」


「まぁそうだが、去年のクリスマステロを仕掛けたテロ組織の本拠地を、アメリカが特定したんだが、フランスのチームと合同で殲滅作戦が本日決行されるんだ。その中で横田のカーネル中将から俺に非公式で要請があったんだが、今回の作戦はカーネル中将的には準備不足で、何故このタイミングで作戦決行になったのか納得がいってないらしくてね、内部に不穏な勢力がある事を心配しているんだよ。そこで、今日の作戦にバックアップ要員というか保険で、翔君に見守って欲しいんだよね。テロ組織を攻めて返り討ちに合ったんじゃ、この先テロ組織を増長させてしまうし、お願いできるかな?」


「解りました。条件をいいですか? それと、斗真さん。俺も一度カーネル中将に会ってみたいんですが、斗真さんの姿で会いに行くことは出来ますか?」

「私は今からカーネル中将のもとに行く予定になっているから、タイミングを見計らって呼ぼう。今回の条件は出動に対して一億円、対処した内容に対して追加報酬を算出させてもらおう」


「解りました。連絡を待っています」


 俺はみんなと別れて自宅に戻り、斗真さんからの連絡を待つ事にした。


 家に帰ると父さんと母さんが、リビングに日本中の温泉旅館のパンフレットを広げて、どの順番で行くかを激論していた。


 平和で何よりだ……


 二十時過ぎに斗真さんから連絡があり、俺は斗真さんと入れ替わりカーネル中将の元に姿を現した。


「君は誰だ? 斗真の姿をしているが斗真では無いな。敵意は無さそうだから話を聞こうか」

「流石ですね中将閣下。私はもう一人の斗真と認識して頂ければ良いかと思います。決して中将閣下と事を構える様な選択はしたくないと思っておりますので、ご安心下さい」


「君がここ最近の日本の危機を解決した存在なのかね?」

「その認識で間違い無いです」


「解った。早速だが今から四時間後に決行されるミッションの件だが、斗真の話ではバックアップをして貰えるという事だったが、間違いないか?」

「お任せ下さい。作戦を見届け不測の事態に対しての対応をさせて頂きます。現地の情報と作戦の概要を教えて頂けますか」


「対象勢力はアフリカ大陸側の地中海沿岸に拠点を構えている勢力だ、こちらの調査では数々の海賊行為も確認できている。作戦としてはフランス側から爆撃機で先制攻撃を行い、空挺部隊による包囲殲滅を行う」


「作戦的には、問題無さそうですね? 中将の心配される部分はどの辺りなのでしょうか?」


「内部からの情報漏れがあった場合に、爆撃機を地対空ミサイルなどで狙われる可能性が高い。衛星写真ではミサイル基地などは確認できていないが安心は出来ない」

「中将が絶対的な信頼をおける部下の方は、今回の作戦の中にいらっしゃいますか?」


「作戦参謀のオズワルト大佐ならば信用できる」

「解りました。オズワルト大佐にだけ私の存在を伝えておいて頂けますか?」


「了解だ」

「それでは、今後とも土方斗真と日本国をよろしくお願いします。中将閣下」


 と伝え俺は再び斗真さんと入れ替わって、俺は作戦に対する準備を始めた。


 俺と入れ替わった斗真さんが再びカーネル中将の前に現れ「如何でしたか彼が世界の希望です」


「ふむ、今度は自分の姿で現れて欲しいものだが、今はまだ出来ない理由でもあるのかね?」

「そうですね、そのうち機会があるかも知れません。今はまだ彼が善意の人であり続ける環境を整えることが、私の使命だと認識しています」

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