第24話 全国模試と剣道大会

 五月も終盤を迎え、遠くに見える山並みも鮮やかな新緑に包まれている。


 今日は中学全国模試の当日だ。

 俺は遊真と共に有名学習塾の試験会場を訪れていた。


 この塾の講師でタレント活動もしている森先生が玄関で仁王立ちするように待ち構えており、テレビカメラ二台で、その様子を撮影していた。

 芝居っ気たっぷりに「逃げずに来たな! この塾の精鋭の実力を思い知るが良い!」と高笑いをしていた。


 何処の魔王様だよ……

 まぁ悪気の有る感じじゃなく、きっと台本通りに発言させられてるだけなんだろうけど。


 俺と遊真は試験会場に入り、開始時間を待っていた。

 スマホが持ち込み禁止だから暇つぶしができないぜ。


 遊真に陽奈ちゃんとの進行具合を聞いてみたら「いい感じで付き合ってるよ」と堂々と付き合ってる発言をされた。


 なんか悔しい……


 俺は斗真さんとの約束があるし、どんなに仲良くなっても香織やアンナと今以上進展する事は無いからなぁ、せめて高校を卒業するまでは、禁欲生活を続けなきゃ駄目なのかな?


 それともやっぱり……綾子先生や、美緒にお願いする事になるんだろうか? どの選択も今の関係が壊れそうだし選べないぜ。


 そして開始時間を迎え、一科目目の国語の試験だ。


 問題なく解けたと思うが、古文の問題とか明らかに中学レベルではないよな、漢字問題も書き順とか一番ピンポイントで間違いそうな問題が多いし、ここの塾の模試の特徴はマークシート部分と筆記部分があり、筆記部分では、明らかな引掛けを狙ってきている。


 理科、社会、数学、と続き昼休憩を挟んで、英語の試験が行われた。


 英語ではヒアリング問題が半分を占めたが、ネイティブな会話が出来る俺には無意味だ。

 だけど俺には、疑問がある。


 日本では、英語と言われる教科で教えられている言葉は、アメリカ国内で使われる言葉であり、直訳の意味での英語じゃないんだよね。

 イギリスで使われるブリティッシュイングリッシュから見ると、方言に近い存在だから、このままアメリカ英語を教科として教えるなら、日本語表記としては米語に改めるべきなんじゃないのかな?


 日本語に置き換えたら国語の教科書が全て大阪弁で書いてあるって言う感じだよね。


 まぁ俺が考えてもしょうが無いか。

 日本式の文法に無理やり当てはめようと作られた問題も、ネイティブ理解な俺から見れば、カタコトの日本語に翻訳されるし、問題文をアメリカ人がスムースに読めるように、問題文の下に正しい問題文はこうなります! と書いておいてあげた。

 答案に書いちゃうと絶対間違い判定になるしね。


 数学の問題は……何なんだろうね絶対満点が取れないように、考えて有るんだろうけど、数学なのに文章読解力の方が、重要な要素を占めた問題作りに何の意味があるんだろうか?


 理科は、中学レベルでは実験で新たな何かを産み出すような事をするわけではないので、記憶力教科だよね。

 社会も同じ、基本的に教科書を丸ごと暗記しておけば問題がないから、結局引っ掛け狙いの国語力勝負となる。


 しかも中学の社会科って漢字問題的な要素も多いんだよね。

 この内容なら理科と社会は国語に統合でいいじゃん!


 まぁ興味を持って貰うことで、高校大学とより専門的に学びたい人材を育成するって言うくくりなのかな?

 試験も終了し、遊真に「どうだった?」と聞くと「うん、バッチリだったと思うぜ」と言う感じだった。

 

 試験会場を後にすると塾講師の森先生が、再び腕組みをして現れた。


「どうだ、この塾の問題レベルの高さは、ここで満点を取れるようなやつは現役東大生でもまず現れない。平均九十五点を超えれば私のおごりで超高級焼き肉に招待しようじゃないか」とテレビカメラの前で堂々と発表した。


 俺は「友達も一緒に連れて行っていいならご招待をお受けします。俺も含めて六人ですがいいですか?」ともう奢って貰う気満々で発言すると、テレビのレポーターさんが「松尾君の今の発言って、自信はあるっていうことですか?」と聞いてきた。


「名前を書き間違えてなかったら、大丈夫なはずです!」と言ってサービスでVサインを出して会場を後にした。


 俺の発言に少しビビった森先生が塾内に駆け込んで行った。


 ◇◆◇◆ 


「どう言う事だ!」とこの塾きっての名物講師の森先生が松尾翔の答案をチェックし始めて叫んだ。


 当然満点で、しかも英語問題の問題文の表現方法まで言及して訂正してあるのを確認すると、英語専属のアメリカ人講師を呼び、問題文の確認をする。


「日本式の文法に当てはめずにステイツで通用する言葉という事であれば、この用紙に書かれた通りの問題文が正解です」


 その言葉を受け、商売上手な森先生は世界で通用しない日本式英語を廃止し世界標準のアメリカ語を教える塾として売り出す企画をし、更なる塾経営の大成功に繋げる事になる。


 その後も、その発言を続け遂に文部省も動き、日本の英語教育に大改革がもたらされた。

 手柄は森先生の独り占めのようになったが、その後、翔の姿を見かけるたびに食事をおごってくれる友達となった。


 ◇◆◇◆ 


 二日後に結果発表があり、当然俺は満点でトップ。

 遊真も全国十位に入る快挙だった。


 さて今週は香織ちゃんとデート! じゃ無くて剣道大会だな。

 毎朝、香織ちゃんが朝四時から修行をしているのは知っていたので、俺もその時間帯に合わせて香織ちゃんと二人きりの朝の時間を過ごしたぜ!


 中学生の大会だし俺の得意の片手大上段は封印して「正眼の構えでお願いね」と言われたから、その構えからの動きを練習した。


 反応速度なんかは問題ないし、そこそこ行けると思う。


 ◇◆◇◆ 


 金曜日の夜に俺は再びテレビ局に呼ばれた。


 森先生の番組で模試の結果発表スペシャル! と言う企画だったが、今泉さんがしっかりと交渉して中々の出演料とともに、この塾のCM契約もびっくりするような金額で勝ち取っていた。


 俺が登場すると、森先生がみんなが見ている前で俺に盛大な土下座をカマスと言う、インパクト満点な演出で始まって、全国一位の称号を贈られた。


 そして、超高級焼き肉の招待も明後日の日曜日、こちらの指定したメンバーで連れて行って貰えることになった。


「その日曜日は朝から剣道大会だから、待ち合わせに遅れないよう頑張ります!」と俺が言ったら、テレビ局と森先生も応援しに来ると言い出した。

 地元のアイドルグループの女の子達も俺の応援なら参加すると言ってカオスな展開となった。


 ◇◆◇◆ 


【マスコミの動き】


 その後一か月の間は、どうでもいいような話題でも俺が出演する番組は、びっくりするような視聴率を稼いで、逆に俺の出演に良い返事を貰えないメディアからは、アンチ「松尾翔」を煽るような番組も出始めた。


 筆頭は、俺をミュータント扱いするコメンテーターを擁する番組で、あくまでも局としではなく、その番組内では俺の失態を探ろうと躍起になっていた。


 ここは、今泉さんに活躍してもらおうかな!


「未成年である「松尾翔」君を、真実ではないミュータント呼ばわりした事により、本人が受けた心労は計り知れなく、それによって大量に要請されていた番組出演、CM出演において大幅な出演の自重を、せざるを得ないと判断した。本来得ることが出来たはずの報酬額として五十億円の損害賠償請求を行う」と訴訟を起こした。


 これはインパクトがとても大きく、法律解釈を専門にするバラエティ番組でも大きく取り上げられたが、どの弁護士も原告勝利は間違いないと判断したので、焦ったのはミュータント呼ばわりした番組を抱える局のグループだった。


 社長を始め経営陣が自社の番組内でお詫びをしなければいけない展開となり、勿論該当番組は即刻打ち切り、番組関係者は二度と番組制作に携われない環境に追いやられた。


 俺のもとに平気でコメントを求めてきたのは、森先生だけだったが、俺は「僕は何も言ってないし、担当弁護士さんが人権擁護的にここは動いておきますね、と気軽な感じで言われてたから『あ、お願いします』と言っただけなんで、そんなに大騒ぎしないで気軽にイジって良いですよ」と発言した。


 その後は勿論最初にお世話になった局の番組が中心だったけど、該当番組を要した局にも他の局にも満遍なく出演依頼を受ける事になったが、どこもびっくりするほど俺に好意的な番組が多かった。


 ◇◆◇◆ 


 日曜日の剣道大会は俺は香織の一家と一緒に会場に向かった。

 香織のお祖父ちゃんは、今回の剣道大会の来賓として一番偉い人みたいだった。


 俺は二百名にも上る参加者の中から、次々に勝ち抜きベスト4に残っていた。


 遊真達の横には、森先生の番組絡みの一団がメチャクチャ盛り上がっている。

 地元アイドルグループのメンバーが十人も私服姿で訪れていて、黄色い歓声を上げてくれている。


 香織が少し不機嫌っぽくなっていて、俺を睨みつけて「他の女の子に鼻の下伸ばさないで私をちゃんと見てよね!」と言ってきた。


 うーん、道着姿から漂う汗の匂いが尊いぜ!


「今日の俺は香織だけしか見えてないよ!」と言ってあげたら、真っ赤になって「だったら良いけどさ……」って次の試合に向かって行った。


 刺さるような視線を感じて振り向くと、どす黒いオーラを漂わせた香織の父さんが立っていた……


 俺も次の試合に向けてさっさと移動した。

「めちゃこえぇえ」と思いながら……


 結局俺も香織も優勝して県大会への出場を決めた。

 来月半ばには、県大会に参加することになる。

 

 森先生達の一団と俺と香織で記念撮影を行い、番組的にもいい取材ができましたとお礼を言われて、県大会も取材に来る事になった。


 約束の超高級焼肉店での食事にみんなで向かった。

 遊真達も滅多に食べられない高級焼肉に大満足だった。 


 その席で俺の周りの女の子達がみんな凄いレベルの可愛さを持つ事が、一緒に来ていたアイドルグループのマネージャーの目に止まり強烈な勧誘を受ける状態になった。


 まぁ確かにめちゃ可愛いしなと思いながら成り行きを見てた。

 結局アンナ、香織、陽奈、香奈の四人が明日もう一度このグループの事務所に呼ばれる事になったが、もしかして、このままアイドルになっちゃったりするのかな?


 ◇◆◇◆ 


 美緒の行っているアフリカ支援活動は、拠点になるべき場所も決まって、支援のボランティアスタッフを集める段階に入っている。


 五輪が終了すれば、俺も本格的に協力を始めるが、今はまだ時間が足らなすぎる。


 毎晩こっちの拠点には戻ってきているから、いつでも話せるんだが、最近はアフリカにいる時間が長くて肌の色も小麦色に綺麗に日焼けしている。


 なんかゾクッとするような色気を感じるよな。

 だがここで誘惑に負けては駄目だ。


「ねぇ翔君。拠点をね、将来的には完全にアフリカにしない? あっちはね国籍はすぐ用意してくれるし一夫多妻OKだよ? 私と綾子と魔王とマリアンヌそれにマーだっけ、後は香織ちゃんとアンナちゃんか、七人の中で誰かを選ぶとかなったら、女同士で争いになるからね、すぐにじゃなくていいから真剣に考えなさいよ?」


「そんな事急に言われてもなぁ、でもそれって女の人的にどうなの? 俺しか得してない気がするけど」

「まぁ頑張って貰うしか無いわね翔君に」


 結構凄いこと言われてる気がするな……

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