第16話 五輪の選考レースと聖女様
今日は三月三十日だ。
某国営放送では高校野球で盛り上がってる。
テレビを見てて思ったけど、やっぱり日本でスポーツだと野球が一番メジャーなのかなぁ。
団体スポーツじゃなけりゃやりたいけど、俺が入っちゃうと絶対チームバランス崩れちゃうからなぁ、その内一年間だけ限定とかでやってもいいかもね!
そして明日は、日本選手権水泳競技大会の公式練習日で明後日からは実際の競技も始まる、今日は昼から会場のある東京アクアティクスセンターの側のホテルに向う事になる。
俺は、皆が応援に来たいって言うから、全員分の新幹線チケットやホテル代を本人達の負担にならないように渡す方法を考え、スイミングスクールの所長に頼んで、応援団を招待する形をとってもらって、遊真、アンナ、香織、綾子先生に近藤姉妹まで一緒に移動した。
最終日には学校が始まってしまうから、応援は最初の5日間だけで帰ってもらう事にしたけど、美緒は現地集合で最終日まで居る予定だ。
俺は、スイミングスクールの所長がエントリーできる全ての競技にねじ込んだので結構忙しい。
自由形の五十メートルと千五百メートル
平泳ぎの五十メートルと百メートル
背泳ぎの五十メートルと百メートル
バタフライの五十メートルと百メートル
メドレーリレーの二百メートルと四百メートル
と計十競技に出場するが、今回は自重は殆どせずに世界記録を十個作るつもりでいるぜ!
自由形の千五百メートルだけは俺の希望で参加させてもらった。
◇◆◇◆
今日は、東京についてホテルにチェックインすると、皆で集まって食事に行く事になったが、斗真さんが場所を取ってくれて招待してくれた。
中学生な俺達には、ちょっと豪華すぎたけど、たまには良いかもね。
食事終了後に一度斗真さんと俺、香奈ちゃん、綾子先生、美緒さんで集まって、俺の拠点に転移で移動した後に、改めて香奈ちゃんの存在を紹介した。
「ぇえええ、香奈ちゃんが魔王だったの? その見た目で斗真さんと同じ精神年齢とか、ありえないよぉ」
と、綾子先生が一番ビックリしてた。
「香奈ちゃん? もしかして翔くん並に何でも出来ちゃうスーパーウーマンなのかな?」って綾子先生に聞かれてた。
「あーそれは無いですよ。この勇者様に殺されちゃったから、能力失って戻ってきちゃいました」
「まぁ本当の事なんだけど、殺されたって面と向かって言われると、結構グサッと刺さるね」
そして香奈ちゃんが倒して恐らくこちらの世界に戻ってきているはずの、俺の前の代の勇者パーティを探すことが、当面の俺の目標である事などを確認した。
俺は香奈ちゃんに美緒と綾子先生の二人の許可が取れたら、ここを使うのは自由でいいと伝えると、香奈ちゃんは迷わず土下座して二人に許可を頼んでた。
それで良いのか魔王……
結局、美緒も諦めて許可を出してた。
その様子を見てた斗真さんも「この様子じゃ元魔王だからって、脅威だと思わなくても大丈夫そうだね」
と、言ったけど俺は「手放しで信用するのも危険ですけどね、完全に全ての能力を失ってる訳じゃ無さそうですし、今後能力を取り戻す可能性もあると思います」と釘を刺しておいた。
そしてもう一つ「今回香奈ちゃんたち三人で拉致されたじゃん? それってもしかして近藤さん関係なしに、香奈ちゃんの鑑定能力を中国側が知っていたとかあるの?」
すると香奈ちゃんは少し考える素振りを見せて「確かにそう言われてみれば、お父さんは私の能力で色々な機密を鑑定する事で、お金を手にしてたから、それを知っていた中国側の人間が、連絡つかなくなったお父さんは関係なしに私の能力を狙ったのかも知れないわ」と言った。
今は中国、ロシア、半島国家の三国家とも手を出してくる可能性は低いけど、このまま諦めてくれるとも思えないよな。
◇◆◇◆
そして三十一日の公式練習を終え、日本選手権水泳競技大会は開幕した。
初日から記録出したりすると、マスコミが騒がしいから前回の競技会と同じ様に予選レースでは、全て二着で泳ぐように調整をした。
今回は、俺の影響かもしれないが、東京五輪の最終選考レースを兼ねる事に変更されたので、マスコミもかなりの数が訪れている。
十種目に渡ってエントリーをして、既に短水路での日本記録や世界記録を持っている俺には沢山の取材に囲まれ大変だった。
準決勝でも同じ様に、全種目二着で泳ぎ流石にマスコミも、俺がペースを調節して泳いでいることに気づいたようだ。
その日のスポーツニュースなんかでは、結構話題になってたが決勝戦では無いので手抜きと言われることはなかった。
俺のエントリーしている、競技の世界記録は
五十メートル 百メートル 千五百メートル
自由形 20.91 46.91 14:31.02
背泳ぎ 24.00 51.85
平泳ぎ 25.95 56.88
バタフライ 22.27 49.50
二百メートル 四百メートル
個人メドレー 1:54.00 4:03.84
の各タイムだが明日からは決勝レースも始まる、縮めすぎないように気をつけながら頑張るぜ!
まずは、平泳ぎと、背泳ぎの五十メートルの決勝だ。
今日からは両親も応援に来てくれている。
どちらの競技も他者を寄せ付けず世界新記録で泳ぎきった。
平泳ぎは25.50
背泳ぎは23.85
大勢の報道陣に取り囲まれ、テレビと新聞を賑わした。
明日は自由形とバタフライの五十メートル、平泳ぎと背泳ぎの百メートルの決勝だ。
結局大会八日間を通じて出場十種目全ての競技での世界新記録を樹立する快挙で終えた。
この結果から五輪では個人種目以外にもナショナルチームのリレーで自由形泳者として要請されたが、練習に参加する時間が取れないと言って、辞退させてもらった。
だって、毎週練習で招集されるとか無理だよね……
しかし、今回のレース結果では千五百メートルの一番距離の長い競争においても、世界記録を出したことから、大会日程次第では、全種目での世界記録が記録できた筈だと大騒ぎになったが、水連としては強化選手として合宿に参加もしてない選手が圧倒的な記録を出されると、ナショナルチームとしての合宿費用やコーチの高額な報酬に対しての批判も出てくる事から、俺の扱いに困っているとの声も聞こえてくる。
世の中の仕組みって面倒だよね……
◇◆◇◆
そして一日遅れで中学三年生としての学生生活が始まった。
初日はいきなり臨時全体朝礼が行われ、先日までの水泳競技会での結果報告と表彰を全校生徒の前で行われた。
表彰慣れしてないから、めちゃ恥ずかしいよな。
綾子先生の元には、全国の水泳部を擁する私立高校から特待生として来てくれという、要請が舞い込み、全てを断って貰うように頼んでいたから「もうノイローゼになりそうだよ」と苦情を言われたが「毎日天然温泉にしっかりと浸かって嫌なことは洗い流しちゃってくださいね」とエールを送っておいた。
俺の方は、今から五輪までの期間は、ボクシングの方が行動の中心になる。
水泳では筋力が必要になるので、ボクシングの階級では少し背が伸びて、体重も増えた俺は減量をしたくないので階級を上げて六十キログラム級で、やって行くことにした。
そしてクラス分けは、流石のご都合主義で遊真、香織、アンナ、陽奈はもちろん同じクラスで担任も綾子先生だ。
◇◆◇◆
美緒に世界中の情報網を探ってもらい、勇者パーティに参加していたであろう人物の特定をしているが、それらしい人物の特定で漸く一人、目星がついた。
バチカンに庇護されている、現代の聖女として奇跡を起こし続ける女性の存在があることを知り、美緒と香奈を連れて、バチカンに侵入をした。
俺達はまず正攻法で会うことが出来ないか模索したが、治療を受ける以外で聖女と接触をする事は極めて困難である事が判明して、力技で会う事にした。
バチカン市国内に存在するサン・ピエトロ寺院では現代社会では信じられないほどに女性の地位が低い。
ほぼ無賃金で男性修道士の身の回りの世話をすることが当たり前のように行われている。
女性修道士は街角でお布施を集めることで何とか生活して居るのが現実なのである。
そこを利用して、美緒に教会のシスター達にお布施を沢山してもらいながら、聖女の存在を探ってもらうと、聖女が施術をする場所と日時が判明した。
美緒は海外での活動期間が長く、こう見えて英語、フランス語、イタリア語、アラビア語、スペイン語を巧みに扱うことが出来る。
俺は、判明した場所に香奈と潜み、聖女の施術を盗み見た。
明らかにスキルを利用した治療であった。
しかし、どうだろう……決して俺のような完全再生能力があるわけでは無さそうだ。
鑑定してみると、治癒魔法レベル一しか所持していなかった。
香奈に確認した所、魔王として倒した聖女に似ていると言う事だったので、そのまま聖女が自室に戻るまで隠密で隠れながら、一人になるのを待った。
俺と香奈は、聖女が自室に戻り一人になると姿を表した。
「お久しぶり聖女様、私を覚えているかな? イルアーダで前に会ったんだけど」と香奈が声を掛けた。
「イルアーダ……まさか……貴女はま、魔王なの?」
「あら覚えて居てくれてたのね、光栄だわ、こんな子供の姿じゃ解ってもらえないかと思っちゃった」
「どうして魔王がこの世界に……」
「それはね、私もあなた達と同じだったからよ、この世界から呼び出されて魔王やってたの、帰ってこれたのも、あなた達と同じよ、あなた達の次の勇者が強くてね殺されちゃったら、戻ってこれたって事よ」
「そこの男の子は誰?」
「あぁ今魔王から紹介されたあんた達の次の勇者だった男だよ、俺は魔王を倒したご褒美で、力を持ったままこの世界に戻れた」
「まさか、私達が十年掛けて手も足も出なかった魔王をどうやって倒したの?」
「いや普通に頑張って倒したんだけど?」
「まぁそれは良いや。ここだとちょっと聞かれたら不味いし、ちょっと付き合ってもらえるかな?」
そして俺たちは美緒も回収して、四人で拠点へと戻った。
「改めて挨拶しとくね俺の名前は翔って言う。よろしくね聖女様」
「その呼び方恥ずかしいから勘弁してほしいわ。今の私が使える能力なんて初級ポーション程度だわ」
「やっぱり死に戻ると殆どの能力は使えなくなっちゃったの?」
「そうね、向こうの世界ではレベル六百で聖属性の魔法と治療系の魔法は一通り使えてたからね、戻ってきてからどんだけ頑張ってもレベル一のヒールしか使えないわ、それでもこの世界では神の奇跡の使い手として、バチカンの敷地から一歩も出してもらえない生活が続いているんですけどね」
「そうなんだ……所で聖女さんの名前は? それと、このまま一生バチカンで神に仕えるのかな?」
「私の名前はマリアンヌよ、出身はフランス、バチカンは私を逃さないわ、翔って言ったかしら? この世界に魔物はいないと思ってるでしょ?」
「居るのか? それなら倒せばレベルアップもあるのか?」
「いえ、レベルアップは誰もしていないわね。何か足りない要素があるんでしょうね、でも翔はレベルが高いまま戻っているんでしょ? 教会が知ったら大喜びで付き纏うわね」
「勘弁してくれ、俺は宗教には一切関わりたくない。それよりも他の三人は連絡は取れるのか?」
「私は拳聖のマーちゃんだけしか解らないわね。一度だけ訪ねてきたわ。湖北の奥地で太極拳教えて生活してるって言ってたわね、彼女は賢者だったビアンカとも仲良かったから知ってるんじゃないかな? 勇者は出来れば関わり合いたくないから、一切知らないわね」
「何だ、お前らってもしかしてパーティの中で仲悪かったの?」
「あいつは脳味噌の中が性欲しか無かったからね、ビアンカと出来てからも隙あれば私やマーを狙ってたわね」
「そうか……でもさ魔王倒しに行ったって事は、正義感はあったんじゃないの?」
「どうだろうね? 少なくとも私はイルアーダの平和の為に頑張ったつもりだったけど、あの王女様も結構ビッチだったでしょ? それを知ってからは何となく勇者ごっこに付き合ってただけかもね」
「どうしたい? このままバチカンの聖女で良いのか? それなら連れて帰るけど」
「そうね、ここに来れる魔導具とか用意できないかな? 何かあった時に頼れるなら私がバチカンに居る事は、翔や香奈にとって悪いことじゃないと思うわ、勿論私にとってもね。失った能力を取り戻せる可能性は、バチカンに存在する魔界の入り口にヒントが有ると思うの」
「魔界の入り口か、中にはどの程度の魔物が居るんだ?」
「悪魔系統ばかりだけど、イルアーダで見かけたようなインプとかサキュバスなんかも居たから、何かで繋がりがあると思うよ」
「バチカンの連中はそれを倒せるのか?」
「一部の騎士団が見張りで立っているけど、倒した話は聞かないわね。私がヒールを掛けまくってMP枯渇すれすれで1匹倒すのが精一杯かな」
「今度一度侵入してみるか、その時の案内は頼めるか?」
「転移の魔導具用意してくれたら良いわよ」
「まぁしょうがないか、転移門をワンセット渡そう。スマホとかは使えるのか?」
「いえ電波は無理ね、念話ならいけるかもね」
「そうか、念話の魔導具を作っておくよ、明後日の夕方とかなら大丈夫だと思う、日本時間での夕方な」
マリアンヌとの出会いは、この世界での闇をまた一つ知る事となった。
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