第21話 オリンピックチャレンジ special competition【後編】

 俺は陸連の明石さんて言うナイスガイな感じの人の薦めで、世界記録を出せば五輪に出場できるという【オリンピックチャレンジスペシャルコンペティション】と言う陸上競技の競技会に参加した。


 土曜日に予選、日曜日に決勝と言うハードスケジュールの中、俺は出場した七種目で全て予選突破を決めた。

 競泳だけでも十分に話題の中心になってた俺は、今日出場した陸上競技でも日本中に話題を提供した。


 ◇◆◇◆ 


 今日の予選が終わった後に囲み取材を受けて、その場で明日の決勝に向けての抱負とか色々質問されて競技よりよっぽど疲れちゃったよ。


 でも囲み取材の最後に、


「競技場以外では学校を通さない取材は一切お断りします。もし約束が守られずに自宅や、プライベートな時間の突撃取材などをされた場合は、今後約束を破った方が所属するグループのメディアには一切出演しない事を、お伝えしておきます」とお願いした。


 だってここまで有名になっちゃうと、絶対常に付き纏わられてプライベートなんて無くなっちゃうし、まぁ俺だけだったら転移で何処にでも行けるけど、両親や友達なんかはそうは行かないしね!


 各局のスポーツニュースでも、俺の特集みたいな感じで取り上げられて、水泳、陸上に加えてモトクロスでも日本代表として世界選手権に出場すること何かも紹介されていた。


 ボクシングでも地方大会では圧勝して秋の日本選手権に向けて、トレーニングを積んでいると、出たがりのジムの会長が熱弁していた。


 実際俺の行っているボクシングジムは、今では入会者が俺が行く前の3倍に増えていて凄く賑わっている。


 今日は明日に備えて、応援に来てくれたみんなと一緒に食事に行って盛り上がった。

 俺の両サイドはガッチリとアンナと香織が陣取り、香奈と綾子先生がちょっとジト目で見てたけど、俺の両親も一緒なんだから、みんな平和に頼むぜ……


 遊真と陽奈ちゃんだけは、別世界を作ってたな。


 ◇◆◇◆ 


 決勝ラウンドを迎えた【OCSC】は超満員の会場から大声援が湧き上がっていた。

 俺が最初に出場する競技は、走り幅跳びだ。


 昨日の予選で既に日本記録である八メートル七十を跳んだ。

 大歓声に包まれた会場で跳躍を行う。今回は全員三度の試技しか行えないから、最初から記録を狙って行く。


 しかし、一回目の試技は経験の無さが影響して、踏切をミスってしまった。

 赤旗が上がってファウル判定だ。

 アメリカの選手が一回目から昨日の俺を上回る八メートル八十を跳んで首位に立っている。


 二回めの跳躍は少し助走速度を抑えて、確実に踏切を行う事に徹する事にした。

 勝負は三回目だ。

 二回目はバッチリ踏切も決まって、記録は八メートル八十八。

 惜しい……少しセーブしすぎたな。


 でも会場の盛り上がりは相当だ! 暫定順位も当然トップ。

 三回目の跳躍は、暫定順位の低い人から順番に跳躍だ。


 俺のすぐ前に飛んだアメリカの選手が、ビッグジャンプを決めた八メートル九十五は世界タイ記録だ。

 場内のパノラマヴィジョンに映し出された映像を視てたけど、本当に空中を走ってるようなジャンプだった。

 正に空中遊泳七歩半だな。

 俺はそんな綺麗なジャンプは出来ないけど、勢いだけなら負けないぜ!


 二回めで踏切のタイミングは掴んだし、今度は助走を少し長めに取って思い切りよく踏み出した、足から着地し滑りながらも着地点より前にお尻をつく形での着地となったが、問題は飛距離だ……


 九メートル五センチメートル


 やったぜ! 人類初の九メートルジャンパーだ‼

 俺は人差し指を天に突き出して一つ目! をアピールした。


 会場も大興奮に陥ってる。

 俺の応援に来てる皆も抱き合って喜んでるけど、まだまだ続くぜ!


 休む暇も無く、次は千五百メートル走だ。

 八人の選手が並びスタートを迎える。

 この競争はケニア勢が強く、決勝にも三人のケニア選手が上がってきていた。


 ケニアの三人が先頭を切ってペースを作る俺は四番手にピッタリと突き千メートル地点を迎えた。

 ここから一気にスパートを掛ける。

 先頭に躍り出ると後続は付いてこれなかった。

 二着を百メートルほど引き離してゴールを迎えた。


 電光掲示板のタイム表示は……


 3分20秒


 二つ目だ! 世界記録を五秒更新してのゴールだった。


 五輪に出場できる競技は俺の場合競泳の日程に被らない必要があったので、記録を出したとしても二百メートル、千五百メートル、マラソンの三競技だけだから一つ目が確定した。

 明石さんも一安心だろうね!


 指を二本出してピースサインのように突き上げると、会場も俺を真似てピースサインを天に突き上げる人が続出した。


 アンナや香織ちゃんもピースサインを突き上げてた。


 三種目目は砲丸投げだ。

 決勝に残った選手達は、どうみてもプロレスラーかきこりにしか見えないような巨体をした人ばっかりだが、その中では貧相な身体つきの俺は、とても目立つ。


 でも今日は世界記録のラインに色が付いていて、とても解りやすくしてあった。

 グライド投法と呼ばれる後ろ向きの状態からひねりを加えて投擲する選手が多かったので俺も真似をしてみたが、一投目は角度調整が上手く行かずに、二十メートルラインに落下した。


 うん、慣れないことをするのは辞めよう。

 まぁそれでも日本記録なんだけどね。


 そして二投目は、真っ直ぐに世界記録ラインを見据え、腰だめに力を溜め思い切りよく手を突き出した。

 角度調整も問題ない。


 砲丸は弧を描いて世界記録ラインを超えた。


  23メートル30センチメートル


 先に他の選手が投擲をし終わるのを待ち、誰も俺の記録を超えなかったので、俺は二投で競技を終了して、三つ目の世界記録ホルダーとなった。


 三本の指を立て、再び天に向けて突き出した!

 会場も、三回目となると皆総立ちで併せてくる。


 これめっちゃ気持ちいいな。

 そして四種目目は、百メートル走だ。


 日本では一番人気のあるトラック競技だ! ほとんどの人が中学生時代に授業でタイム計測をしてるはずだよね?

 この競技のために俺は明石さんに頼んで、クラウチングスタートの練習だけはしてきたんだぜ!


 そしてこのスタートラインに並ぶ選手達は、全員が十秒を切る自己ベストを持っている。

 世界記録をマークすれば、スポーツ用品メーカーからも莫大な金額での専属契約が提供されるし、気合の入り方が他の競技とは一線を画す。


 ジャマイカの英雄が世界記録を出して既に十年が過ぎたが、いまだに破られる気配はなかった。

 俺は気合十分で大外の八コースに並ぶ。


 全員が一斉にスタートを切るが、いくら練習したとは言え世界のトップアスリート達と比べると、スタートは良くない。

 しかし二歩目三歩目とどんどん加速し、十歩を数える頃にはトップスピードを迎える。


 六十メートル地点から先頭に躍り出て、そのまま一気にゴールを駆け抜けた。


 9秒48


 とてつもない大記録だ! 身体強化を掛けないレベルであれば、結構本気で走ったぜ。

 ジャマイカやアメリカの選手のような歩幅を持たない俺は、それだけ回転を早くしなければならないから、歩数が百メートルで五歩ほども違う。


 そして四本の指を立てた俺が、手を天に向けて突き出すと会場は騒然となって、他の参加選手達も揃って四本の指を立て、天に突き出し祝福をしてくれている。


 ここまでくれば、もう他の選手達も自分がどうこうより俺がどれだけの記録を立て続けるのかに、完全に興味が移っていたが、それでもまだ競技は続く。


 五種目目は走り高跳び。

 俺は230センチメートルまではパスをして、235センチメートルからチャレンジをする。

 一回目でクリアし、240センチメートルに挑む。

 ここまでで五人残っている。


 240センチメートルをクリアできた人物は俺を含めて三人だった。


 他の二人は243センチメートルに挑戦して二人共脱落した。

 俺はパスして246センチメートルに挑んだ。


 一度目は、身体は完全に超えたが、足をひっけけて失敗。

 こんな所は、やっぱ経験が足らないんだよな。


 二度目の試技で246センチメートルをクリアした!

 世界記録達成だ。

 既に一人になってたし、そこで試技を辞めて五つ目のワールドレコードホルダーとなった。


 そしてお待ちかねの時間だ。


 俺は掌をパーに広げて観客席にも見えるように差し出す。

 そのまま手を天にかざす。


 もう完全にコンサートのような乗りになっている。

 俺は手を広げたまま声援を送ってくれている観客に向けて、手を力いっぱいに降って感謝を伝えた。


 そして、俺にとっては最後のトラック競技二百メートル走が始まる。


 今回も大外の八コースからのスタートになった。

 最初から一番前にいる感じってなんか落ち着かないなぁ。


百二十メートルの曲走路区間と、八十メートルの直線区間を走るこの競技は曲線でいかに外に膨らまないようにスピードに乗っていくかが重要で、シューズの性能も大きく影響するらしくて、明石さんが俺の足のサイズに合わせて用意してくれたシューズを履いて参加している。


 俺がスタートラインに立つと、既に観客も総立ちになっており、選手達も全員がトラック内に出てきて、俺を注目している。


 そしてスタートだ。


 相変わらずスタートは上手くはないが、それでも一度も追いつかれることはなく駆け抜けた。

 タイムは


 18秒99


 文句なしの世界新記録で、俺は手どんな感じで突き上げようか一瞬悩んだが、右手はパーで左手は人差し指一本を会場の皆にも解るように示し、両手を突き上げた。


 それに合わせて会場も、トラック内の選手達も皆が同じ様に片手をパーと片手は人差し指をたて、両手を上げた。

 

 この競技場で俺が参加する競技は全て終わり、マラソンのスタート地点の桜田門への移動を急ぐ。

 スタート時間まで後一時間を切っているから、結構急ぎの移動だ。


 移動は父さんのハイエースに、遊真達も一緒に乗り込んで向かった。

 アンナと香織ちゃんに挟まれ、ちょっと気分の良い移動だった。

 なんか良い匂いがするんだよねぇ!

 みんな口々に、俺にお祝いの言葉を掛けてくれる。


 綾子先生が「これでまた明日から全国の高校から特待生のスカウトラッシュが始まるわね」と、少し憂鬱そうな表情をしたが「俺は競泳と陸上は五輪が終わったら、きっぱり辞めるので断って下さいね」と頼んだ。


 「ええ。何でやめちゃうの? 勿体無い」とみんなに言われたが……

 「もっと他にも色々やってみたいんだよ、自分の可能性とか知りたいしさ!」と言うと、

 香奈が「次は正義の味方のスーパーヒーローとかやれば良いじゃん」と、危険な発言をして来た。


 「それも良いかもね!」と言って誤魔化したけど、シャレにならないからな。


 父さんの運転するハイエースが桜田門に到着し、俺は選手が集まっている場所へ向かって受け付けを済ませる。


 当然他の競技での俺の活躍を知っている選手や、見学に集まっている大勢の人から、大声援を貰いながらスタート地点に移動した。


 今回のマラソンは、各選手のベストタイムによってスタートポジションが前になっていて、前列はケニアなどの外国選手が独占していた。


 俺は、公式記録を持っていないために最後列からのスタートになる。

 出場選手は総勢百二十名も居たが、距離が長いしそこまでの不利は無いと思いたい。


 長距離の周回コースだから、出来るだけインベタにポジションを取って、走行距離を抑えたいが、全員考える事は同じだと思うし、早目に先頭に立つしか思い通りのコース取りなんか出来ないよな。


 今回は、特別ルールも設定してあり、もし周回遅れになればその時点で失格となる。


 ここに集まっている選手は、正に世界のトップランナーばかりだから、よほどの事が無いとそんな事にはならないと思うけど、何人かは抜きたいよね!


 そして、大歓声の中スタートの時間を迎えた。


 テレビ局が俺専属撮影班のバイクを2台も出して来ている。

 俺はまずスタートからダッシュ気味で、ポジションを取りに行く作戦に出た。


 最後列からのスタートだったが、半周を回った時点で俺の順位は、三十番目くらいだろう。


 これより前はまだ先行争いを繰り広げる集団が、ゴチャゴチャしているので、混ざると無駄に外側を回らされるし焦る必要は無い。


 三周目までは先頭グループから下がって来た選手をパスするだけに留めて、様子を見る事にした。


 ケニア勢が先頭グループを牽引しながら、自転車競技の様に先頭を入れ替わりつつ、自分達の誰かが優勝出来れば良いと言う感じで走っている様だ。


 何故走りながら情報が解るのかと言うと、でっかい液晶ディスプレイを搭載した車が、要所要所に用意してありレースの様子を伝えているからだ。


 そして先頭集団に混ざらない程度の位置で、周回を重ね四周目に入った。


 そろそろペースを上げないと、優勝しても世界記録には届かなかったなんて事になるかも知れないので、徐々にスピードを上げて行く。


 四周目を終えた時点で、全体の十番手まで位置を押し上げた。


 更に五周目で五番手までポジションを上げ、先頭を行くケニアの四人の姿も見えて来た。

 六周目にはケニア勢の直ぐ後ろにピッタリと張り付き、七周目で先頭に躍り出た。


 ここからは自分との戦いだ。


更にペースを上げると必死で喰らい付こうとしたケニア勢が、オーバーペースで足が止まり、次々に棄権して行った。


 ここからは独走状態になり、最終周回に入ると二十人程の選手を周回遅れにさせてゴールを迎えた。


 さぁ注目のゴールタイムは!


 1時間57分48秒


  公式記録の残る大会では人類初の二時間切りだ! 二着の選手も二時間一分台と言う凄い記録だったが俺の記録が凄すぎて霞んでしまった。


 大歓声の中を俺は元気いっぱいに手を振って答え、おもむろに右手をパーに左手はピースサインに構え、両手を天に向けて突き上げた。


 ◇◆◇◆ 


 再び競技場に戻り表彰式に臨んだ。

 

 俺は七つのメダルと表彰状と世界記録の認定証を手渡された。


 超満員のスタジアムは、俺が登壇するたびに物凄い盛り上がりになり、俺を応援しに来てくれたメンバーも涙ぐみながら、感動に浸っていた。


 今回の大会には賞金も設定してあり金メダル五百万円、銀メダル二百万円、銅メダル百万円に加えて世界記録に対しては、一種目一千万円の賞金だ。


 俺は今日一日で一億五百万円を稼いでしまった。

 中学生が稼ぐ額としては中々だよね。


 今回の大会は、俺以外にも世界記録を出した選手が女子も含めて五人居て、それぞれの選手が五輪への特別出場枠も勝ち取った。


 その後の報道関係の取材では、俺の廻りに報道関係者が殺到し、収拾がつかなくなったので、わずか十分で打ち切りになったが、その後で今回のメインスポンサーである民間放送局連合が会場を用意し、記者会見を開かれる事になったんだけど、絶対くだらない質問とかばかりされるんだろうね。


 俺は不思議に思って「こんな記者会見って出ないといけない義務って有るんですか?」と、明石さんに聞いてみた。


「決して義務じゃないんだけど、安くない額を払って協賛してくれてるからねぇ、出来るだけ協力してもらえたら私が助かります」と言ってた。

「大人の事情じゃしょうが無いですね! 俺はぶっちゃけ陸連とかはどうでもいいんですけど、明石さんの為に出て愛想を振りまいてきますね!」と伝えて会場に向かった。


 さぁ五輪まで後二か月か、その前にボクシングも中日本大会があるんだよな頑張るぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る