第19話 CM撮影と教皇様

 世間一般ではゴールデンウイークと呼ばれる期間に突入した。

 今年は最大五連休しか無いから、去年の十連休に比べるとしょぼく感じるよね。


 今年のゴールデンウイークは、モトクロスの世界大会に向けたモトクロッサーのフィッティングでメーカーの人から招待され、熊本のオフロードコースに来ている。


 流石にいつものメンバーみんなで行くわけにも行かないので、両親と俺の三人で出掛けた。

 メーカーのチューニングが行われたモトクロッサーは排気量八十五ccにも関わらず物凄くパワフルで、これならきっと世界大会でもいい勝負できるな!


 メーカーの人の好意でワールドシリーズの主戦力の四百五十ccのモトクロッサーにも乗せてもらった。

 もうマジで別次元のパワーで、凄く楽しかったけどここで本気出しちゃうとまたちょっと面倒な展開になる事が予想出来るので、控えめに楽しませてもらった。


 ワールドシリーズの転戦なんかしてたら自分の時間取れないしねぇ。


 ◇◆◇◆ 


 五輪も七月末からスタートするけど、俺が出場する競技は自由形の五十メートル、千五百メートル、平泳ぎ百メートル、背泳ぎ百メートル、バタフライ百メートル、個人メドレーの二百メートルと四百メートルの全七種目だ。

 出場する以上は全部金メダル貰っちゃうぜ!


 既にこの間の大会でこの競技は全て世界記録で泳いでいるから、会場も同じだし大丈夫だよね?

 でも、なんか水連から協賛金を出してもらうスポンサー企業のCMに出演してくれとの依頼が来た。


 まぁ今更だけど、めっきり有名人になっちゃったよな。

 でも折角だから何でも経験しておく事に損はないよね!


 CMの撮影日は、五輪の会場にもなっているプールサイドでの撮影だったけど、他の代表の選手達も集まってて凄い本格的な撮影だったよ……ガッツポーズとか取らされるのがなんか恥ずかしかった……


 でも俺も最近は結構鍛えてるから、結構筋肉は付いてると思うんだけど、他の日本代表の人達とかほんと凄い身体つきなんだよね。

 女子選手でも俺より全然体格いいし、でも水着姿でもこんなトップアスリートの人達はエロさを感じないのが逆に凄いと思う。


 俺の場合はこれ以上筋肉つけちゃうと、ボクシングの階級の問題があるから駄目なんだけどね。


 ◇◆◇◆ 


 そんな感じで忙しく毎日を送っている俺のもとに久しぶりに斗真さんから依頼が入った。


「翔君忙しい時期に悪いな、ちょっと緊急で片付けないといけない案件が起こったんだ、協力してくれないか?」

「斗真さんからの依頼は、五輪の当日でも優先してこなしますよ!」


「ありがとう助かるよ。で、早速案件なんだけどバチカンの教皇様が日本を訪れることになったんだが、そこに合わせてテロ組織が予告テロを通告してきたんだ。質が悪いことに複数のテログループが共同戦線で、同時多発的なテロ行為を狙っているようなんだ。米ドルで五千万ドルの要求をしてきてるんだが、テロ組織に対して一円でも支払ってしまうと、同じことが何度も繰り返される状況になるから、ここは徹底して阻止をするしか無い」

「俺は具体的に何をやればいいですか?」


「翔君には、教皇を絶対に守って欲しいんだ。今回はバチカンの聖女と呼ばれている女の子も同行していて、彼女も対象にされているらしい」

「解りました。教皇と聖女の二人を重点的に護ればいいんですね? 任せて下さい」


「出来れば、全てのテロ行為を完璧に防ぐことが出来れば良いんだが、もしここでテロを成功させてしまうようなことがあれば、目前に迫った五輪の開催も危うくなってしまう。もしそんな事になれば二十兆円にも及ぶ経済的損失が予想される」


「条件はどうなりますか?」

「今回は、美緒さんの行っている中央アフリカの国内に、広範囲の土地の取得をしてあげよう。金額的にはそうでもないが、日本の後ろ盾があるというだけで取得難易度が全く変わってくるから、悪い条件ではないと思うぞ」


「解りました、それでOKです」

「状況によって難易度が大きく変わってくるから、起きた事案に拠って追加報酬もちゃんと算出するからね、よろしく頼む」


 マリアンヌが一緒に来るのは俺にとっては好都合だな、念話が使えるから事案の察知が用意になる。

 でも初動の速さが大事だから、もう一手打っておくか。


 俺は香奈に連絡を取り、マリアンヌの従者として付添をしてくれるように頼んだ。

 そこまでのテロを行うなら、必ず内部から誘導する裏切り者が居るはずだから、香奈なら鑑定を使って内部に潜入しているテロ組織の仲間を、見つけ出せる。


 マリアンヌに連絡を入れると、既に東南アジアを歴訪していて、明日には日本国内に訪れるそうだ。

 香奈の件をマリアンヌに提案すると、逆にマリアンヌから提案を受けた。


「あのね翔君。教皇様はバチカンの地下の魔物のことも当然知ってるし、私の能力のことも異世界の事も伝えてあるの、その上で教皇様はその全てを秘密にして下さってる。絶対に信用ができる人だと私が保証するわ。だから、翔君自身が直接護衛に付いて欲しいの。教皇様を絶対に守りたいんだよ、今ねバンコクのホテルに居るんだけど、今から香奈を連れて少し来れないかな?」


「そうだな。そう出来れば俺も一番守りやすいし、取り敢えずマリアンヌを信じてそっちに行くよ」


 そして俺は、香奈をピックアップしてバンコクのホテルに転移した。

 ホテル内に滅茶苦茶警備の人が居て焦ったぜ。


 念話でマリアンヌの部屋番号を聞き、再び転移してマリアンヌの部屋に行くと、そこには何度かテレビで見かけた教皇様がいらっしゃった。


 教皇はプライベートではめちゃ気さくな感じな人で、何のスキルも持ってないのに俺と香奈のただならぬ気配を感じ取り、その上で全面的に信頼してくれた。


 なんて言うか凄い話術にも優れてるし、何でも安心して話せるような不思議な雰囲気を持っている。

 香奈なんか、教皇様に向かって「爺ちゃん面白いー」とか普通に言ってたし……


 そして俺だけは色々な能力も使える事も教えると、ちょっと商売っ気も出してきた。


「マリアンヌを聖女として実力以上に宣伝して、広告塔にしているのは知ってるよね? 傷口を塞ぐ程度の奇跡でも、莫大な額の寄付金が動くのが宗教です。もし翔君が本物の奇跡、不治の病の治療や、欠損の再生などという手段を持っているなら、翔君が表に出ず聖女の起こす奇跡として、巨額のお金に変える手段がバチカンと言う組織にはあります。どうですか?組んで稼がないかい?」


「教皇様ってお金困ってないでしょ? 俺にはとっても魅力的だけど」

「私はね、儲けるのは翔君達だけで構わないと思っているんですよ? 私には奇跡を起こす聖女を従えた聖人という称号が未来永劫語り継がれる。出来れば私が死んでしまったら、マリアンヌは自由にさせてやりたいしね。それに拠って、私の名声は今までも、これからも私だけの物になる。全てを手に入れた年寄らしい考え方だろ?」


「とっても解り易い欲を見せてもらえました。凄く信用できます。でもぶっちゃけ俺が治療すれば教皇様百二十歳くらいまでは普通に生きていけますよ?」

「あーそれには及ばん。私自身は普通に死んで逝きたい。既に何かあっても全ての延命治療はしないように伝えているくらいだ」


 なんかとってもいい出会いが出来たかも知れない。

 そして明日の日本への訪問は、俺が襲撃が起るまで教皇様の姿で過ごし、教皇様には俺の拠点でのんびりと寛いで貰う事にした。


 斗真さんに渡してあるペンダントと同じ物を身に着けてもらい、意識を入れ替え、俺は教皇様として日本へと向かった。


 香奈はカラーコンタクトを入れ、髪を染めてマリアンヌの侍女として控えているが、既に飛行機に搭乗した教皇一行の中に二人の内通者を発見していた。


 俺は香奈から情報を貰い、内通者の二人に対して闇の精霊魔法で意識を支配した。

 最初の襲撃は、空港から首相官邸に向かう途中の車列を狙うようだ、既に何台目に教皇が乗るかの情報を伝えてありピンポイントで狙う手筈になっていた。


 この内通者の教えられている情報では、襲撃地点までは教えられていなかった。


 そしてバチカン一行の搭乗した特別機が羽田に到着し、歓迎セレモニーが行われた。

 ローマ教皇庁大使館へと向かう道中では事前に察知できた情報を基に、車列を入れ替え通常ではVIPが乗るはずのない先頭車両での移動を行った。


 この車列は、教皇様の姿をした俺も勿論いるが、総理を始めとした政府の人間の乗車した車もある。

 ここを襲撃されれば、五輪なんて言ってる場合じゃなくなるな……マジで。


 俺は、気配探知を能力マックスで使用し悪意を読み取る。

 すると羽田空港をでてすぐの地点で、敵の存在を確認した。


 この車内には、運転手以外にはマリアンヌと香奈と俺だけなので、何も気兼ねせずに襲撃者の元へと転移すると、ロケットランチャーを構えたテロリストが居た。


 俺は教皇様の姿のまま「悔改めよ!」とそれっぽく声を掛け、雷魔法を使ってその場に居た三人の意識を奪った。

 すぐに車内へ再び転移で戻り、斗真さんに連絡をしてテロリストの回収を指示した。


 教皇庁の大使館に到着すると、一度俺の拠点に戻り教皇様と入れ替わって、俺は隠密状態で教皇庁の大使館内に潜んで、気配の広域察知を続けた。


 以前にヤリマンスキーがロシア大使館を爆破した事もあるので、大使館内と言えども安心は出来ない。

 まぁ教皇様が日本の教会関係者とお話をされている間は、ちゃんと結界を張っている。


 流石に教会関係者との話に俺が教皇様の姿で出ても、話の内容が訳解らないしね。


 マリアンヌに同行させている香奈には、大使館内の人物もすべて鑑定を行わせた。

 更に三人の内通者を発見したので、全員俺が意識を支配してテロの計画を調べたが、テロ組織も末端の内通者には、詳しい情報を与えていなかった。


 この内通者達五人は許すわけにも行かないので、教皇滞在中は大使館内に幽閉し、教皇が帰還した後に教皇庁の内部保安組織に引き渡す事にした。


 俺は斗真さんとも情報を擦り合わせた結果、明日の日程で訪れる長崎と広島の会場がもっとも狙われやすいと考え、公安当局の警備も強化してもらった。


 一番警戒するのは自爆テロだ。

 普通の少女が体中に爆弾を巻きつけた状態で近寄られたりしたら、手のつけようがない。


 俺には、奥の手があるんだが出来れば使いたくないんだよね……


 今日のロケットランチャーを準備していた奴らもそうだったが、末端の実行犯は殆ど指揮をする人間の情報を持っていないので、相手が行動を起こすのを待って対処するしか方法がないのがもどかしいな。


 翌日教皇様一行は飛行機で朝一番から、長崎に向かった。

 

 今日は、教皇様と入れ替わりはせずに、先に長崎に乗り込み現地一帯を徹底的にサーチした。

 中東系の人物だけなら判断が付きやすいが、今回は日本のカルト宗教なども引き込んで居るみたいで、見た目だけでは判断がつかない。


 結局、教皇様が到着するまでには、何の成果も得ることはできなかった。

 長崎での説法が終わるまでの間には動きが無かったが、次の目的地広島へ向かうために、空港へ向かうリムジン車両の車列を、山中から迫撃砲が狙うのを察知した。


 転移で迫撃砲の真横に現れ、瞬時にアイテムボックスに収納した後に、その場に居た六人を制圧した。

 犯行グループは日本人だった。


 その中から一人だけを転移で俺の拠点に連れて行き、意識を支配し所属組織を割り出した。

 すぐに斗真さんに連絡を入れ、長崎の現場に放置した五人の確保と、所属組織の一斉摘発を頼んだ。


 右翼団体が深く関わる神道系の宗教団体であった。

 そのまま俺は広島に先乗りで飛び、会場周辺を徹底して調べる。


 ヤバイ、何でこんな状態を許してるんだ。

 国内のカトリック教徒が大量に集まっており、当然外国人比率が極めて高い。

 見た目だけでは全く絞り込みなんて出来ない。


 日本はテロの警戒に関しては、本当に無能だと実感したぞ。

 この会場に外国人が多いとかそれはまだ我慢できるが、予告テロの通知があったにも関わらずこの会場に入るための金属探知機でのチェックなどを、全くしていないのだ。

 チェックをするためのゲートすら用意してない。


 警備責任者の頭がおかしいとしか思えないぜ。

 いや……むしろ警備責任者が犯行の主犯者と考えられるんじゃないか?


 まさか……そんな事は無いよな?


 俺は嫌な予感とともに、斗真さんに連絡をして広島の警備責任者を聞き出し、警備本部に居た公安の管理官に鑑定を掛けるとビンゴだった。


 どうする……これは完璧に警備状況は筒抜けだし、今更どうしようもない。

 

 こうなったらもう、開き直って正々堂々と攻撃仕掛けてきたやつを叩き潰すしか無いな。

 隠密を発動して、勇気百倍お面を装着して待機する事にした。


 教皇様一行が到着して、説法が始まる。

 ここで動きを見せる人間は、手当り次第に隔離していくしかない。


 一番怖いのは、やはり自爆系のテロだ。


 中東系の風貌の人間がふらりと前に進み出た。

 SPが一斉に取り囲むと羽織っているジャケットを、広げて振り返った。


 体中に爆弾を巻きつけている。

 現場には一気に緊張が走った。


 俺は勇気百倍お面を付けた姿で颯爽と現れ、この実行犯ごとアイテムボックスに収納することをイメージする。


 生命体は入らないので素っ裸の犯人が現場に取り残された。


 SPがすぐに自分達のジャケットを犯人に被せ連れ去ったので、恐らく放送禁止コードに引っかかるような画像には成らなかったと思いたい。


 現場には、安心した空気が流れたが、ここで幼いと言っても良い少女が満面の笑顔で、花束を持って教皇様に近寄った。


 ヤバイ間に合わない。

 俺は少女の前に瞬間移動して俺の拠点へと転移した。


 転移と同時にアイテムボックスへの収納をイメージすると、素っ裸の少女が眼前に現れる状況になった。


 その時お風呂に入りに来てた、綾子先生が現れた。


「松尾君、女の子を裸にして何をしてるんですか? そんな人だとは思わなかったのに……我慢できなかったら先生に言えばいいのに……」と、涙目で怒ってた。


 後半のセリフは、ちょっとお願いしたいかも知れないと思ったが……


「いや、先生こんな時にニュースとか見てなかったんですか? めちゃ誤解ですから取り敢えずこの娘は任せました。なにか着るものを与えて下さいね」と、伝えて広島へ戻った。


 斗真さんの指示で、公安の管理官も既に拘束されていた。

 今回は、もう大丈夫なはずだ。


 教皇様と目が合うと満面の笑顔を向けてくれた。

 広島での行事も終わり、東京へと向う飛行機に乗り込んで漸く一安心出来た。


「Brave翔。今回は色々とありがとう。これからも時々は翔の若い身体を使わせてもらえないかな? 久しぶりに滾る物を感じたよ、主に股間に」


「教皇様……俺は、法律上未成年だからヤラシイ事に使うのは駄目ですよ」

「ジョークだよ、それは別として聖女の奇跡計画は進めて良いかな? 一回百万米ドルを保証しよう」


「是非お願いします」とガッチリと握手をした。


 ビジネスパートナーとしてもこれから親密にお世話になりそうだ。


 ◇◆◇◆ 


 教皇様をバチカン大使館まで送り届けてから、香奈と共に拠点に戻ると、綾子先生が女の子を連れて待ってたが、ブカブカのジャージ姿が中々可愛いな。


 「翔君、この娘はどうすれば良いんですか?」

 「どうしましょうか?」


 「私、裸見られたもうお嫁さんに行けない、責任取って下さい」

 「何故その台詞が出る?」


 女の子は、テロ組織に攫われて育てられている東南アジア系の娘だった。

 お花を教皇様に渡すことだけを命じられていて、他は何も知らなかったみたいだ。


 この女の子が着ていた服は内ポケットがたくさん付いたジャケットでポケットの中には、プラスチック爆弾が満載だった。


 取り敢えずは、斗真さんに相談するしか無いよな?


 教皇様に花をお渡そうとした女の娘がいきなり消えた件は、ネットニュースでは盛り上がっていたが、公安からの圧力でテロ関係者との繋がりのある問題とされ、地上波放送と新聞では報道規制がかかり、表ざたにされなかったので、騒動が大きくなることもなかった。


 今回の事件から、日本でも本格的にテロ対策が行われる事になり、五輪に向けて徹底的に国内のテロ協力者を摘発していく事になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る