第18話 始球式と元勇者の末路
四月も半ばを迎え、俺の通う中学校でも部活の勧誘で賑わってる。
俺は部活に正式には所属してないので、勧誘活動をする事もないが、ボクシング部のキャプテンが「今年二人以上入部しなかったら、廃部になるから協力してくれ」と頼まれたので、この勧誘期間だけ、授業終了後一時間ほど顔を出す約束をした。
俺は、もう既に結構な有名人になってるので、俺の顔を見たい新入生が沢山ボクシング部を訪れた。
中には俺に会えると思ってスイミングスクールに入会したのに全然顔を出さないから、こっちに来たなんて言う子も混ざってた。
まぁその甲斐もあって、ボクシング部には十名もの新入部員が入って、部長も喜んでた。
スイミングスクールには、週二は顔を出してるんだけど、学生の多い時間帯は避けてるから、全く行ってないように見えるんだよね。
遊真は生徒会長でアンナも書記として生徒会の仕事をしてるけど、公立中学校の生徒会はそんなに毎日仕事が有るわけじゃないから、結構暇そうにしてることが多い。
大体俺がボクシング部に顔を出す一時間をみんなで待ってくれてる。
今日はボクシング部に顔を出した後に綾子先生に呼び止められた。
「松尾君ちょっといいですか?」
「なんでしょうか? 雌熊先生」
「地元のテレビ局からのお願いで、地元の野球チームの始球式にゲストで出て欲しいって言う要請が来ているんですけど、お願いできますか?」
「野球観戦とかみんなで招待して貰えるんならいいですよ。メンバーは、遊真、アンナ、香織、近藤姉妹と先生でお願いします」
「では、先方に確認しますね」
結局、その要請は簡単に受け入れられ、週末のホームゲームで始球式に参加することになった。
一応ちゃんとストライク投げたいし、ボクシング部に顔を出した後の時間に、野球部が練習している所に出向き、同じクラスの野球部のキャプテンに基本的な投げ方とかを習いに行った。
キャッチボールから初めて、三十分ほどで外野からキャッチャーにストライク返球を出来る程度になったので野球部のみんなにお礼を言って、グラウンドを後にした。
◇◆◇◆
始球式の当日を迎え、地元チームのカラーリングをされたグローブとユニフォームをプレゼントされて、ちょっと嬉しい。
監督さんが顔を出してくれて、「君が噂の松尾くんか、うちの娘が大ファンなんだよ。良かったらサイン貰えるか? 松尾君は色々なスポーツに才能があるみたいだけど、野球も凄かったりするのかな? 出来れば今日の始球式は趣向を変えて、本気でストライク投げて貰えたら嬉しいな。バッターにも本気でホームラン狙って打つように伝えるからさ。三振取るか打たれるまで投げていいから面白そうだろ?」
「俺野球ちゃんとやった事無くて、昨日野球部のキャプテンに投げ方とか習いに行ったくらいですから、期待しないでくださいね。でもストライクを投げるのは大丈夫だと思います。昨日の練習でセンターの位置からキャッチャーにストライク投げれるようになりましたから」と、伝えると監督さんが反応した。
「その話は本当なのかい? それは凄い事だよ、楽しみに見させてもらおう」と、目を輝かせた。
そして試合開始の時間を迎えて、一応本気勝負だと言うので、事前に監督さんがキャッチボールに付き合ってくれたんだけど、何故か俺とキャッチボールをしているうちに監督さんの目が本気になってきてちょっと怖い。
俺がユニフォーム姿でマウンドに向かうと、満員の四万五千人の観客が凄い声援を来れた。
こんな声援の中で、ピッチャーマウンドに上がるのって凄いプレッシャーだよね。
俺が投げれるのはストレートだけだけど、思い切ってホームラン打ってもらえるように「ど真ん中三つ行きます」と宣言してみた。
そして、相手チームのバッターに対して思いっきりよくど真ん中に投げ込んだ。
バックスクリーンの電光掲示板に球速が表示され、一瞬静寂が訪れ次の瞬間に大歓声が湧き上がった。
表示された球速は百六十八キロメートルバッターは空振りだった。
そして二球目、今度もど真ん中再び空振りだった。
球速表示は百七十キロメートル。
もう凄い盛り上がりだ。
次がラストの三球目。
球速表示は驚愕の百七十二キロメートルを記録した。
しかしプロの一流バッターは、いくら速くてもど真ん中を三球続けて打てないわけがない。
快音とともにバックスクリーンに打球が飛び込んだ。
俺とバッターの双方に大声援が贈られ、俺は遊真達の待つ個室になったブースへと向かった。
ブースへ到着すると、みんなが声を掛けてくれた。
「翔君って野球も凄いんだね『高校行かない』とか言ったらいきなりドラフトで指名されたりするんじゃない?」とか言われたけどまさかそんな事はないだろ?
その日の試合は、地元チームの快勝で俺達も気持ちよく楽しめた。
その日のスポーツニュースと、翌日のスポーツ新聞はまた俺が一面を飾ることになった。
対戦して、俺の球をバックスクリーンに打ち込んだ選手は「プロの選手でも全く同じ場所に全力投球を三球続けて投げれるピッチャーなんて居ない」と、俺をべた褒めだった。
更に驚きの展開は、翌日メジャーリーグから俺に本気で野球をする気が有るなら、身体作りを含めて高校生からアメリカに渡って、メジャーを目指さないか? と打診があった。
勿論「野球に本気で取り組むことは、今のところ考えていないのでお断りさせて頂きます。声を掛けてくださってありがとうございます」と返事をした。
◇◆◇◆
美緒がアフリカに旅立った。
アフリカではテロ組織に村ごと滅ばされ、女性が全員奴隷として連れ去られるような事件が、現在でも頻繁に起こっている。
そういった女性の救出と支援。
そういった状況にならないような安全な都市の構築を、民間団体としてサポートして行きたいという目標を掲げ、その達成の為の状況調査と、国家として協力してくれる国との交渉の為だ。
まぁ正式な手段を踏んで一度日本から当事国に入国した後は、普通に夜は伊豆の拠点に帰ってきてるんだけどね。
斗真さんとも相談しながら、日本からの援助をちらつかせれば、日本で言えば四国ぐらいの広さがある土地を民間として手に入れることも可能なようだ。
アフリカ等の後進国と言われる国であっても日本より圧倒的に有利な状況は有る。
国民の平均年齢が極めて若いことだ。
日本では働けない世代の人口が、働ける世代の人口を上回ろうとしている。
この状況が何年も継続してしまえば日本の破綻は目に見えているのに、何故抜本的に手を付けないのかが不思議だが、東南アジア各国や、アフリカ大陸の国々では若者の数が非常に多いので、これからの時代を考えるとアフリカへの援助や教育支援は必ず実を結ぶ。
美緒にいろいろな準備を丸投げになってしまうが、中学生の俺が国際社会の窓口に立てるわけもないので適材適所だ。
土地を手に入れれば、開発は俺の能力を活用してある程度の生活を行えるように整えるつもりだ。
場合によっては、異世界の街のように街全体を城壁で囲んだような作りにしても良いかと思う。
野生動物やテロ組織との戦いが、前提条件としてあるのだから、そこら辺は自重しなくてもいいだろう。
実際に、ある程度の規模の成功例を提示すれば、他の国も協力してくれると思う。
まぁ焦ってもしょうが無いから一つづつ確実に成果を上げる事かな。
◇◆◇◆
ロシアの勇者の件でも進展が合り、向こうからコンタクトを取ってきた。
ロシアの勇者は、斗真さんを能力者だと思っていて「お前の能力を教えろ」といきなり連絡してきたそうだ。
どうやら頭の残念な子みたいだ。
そんなセリフで能力教えるやつ奴なんて絶対居ないだろ?
斗真さんは「今後の付き合い方もあるから一度会って話さないか?」と声をかけてくれていた。
これは事前にロシアの勇者からのコンタクトが会った場合は、必ずこの言葉で誘い込むように、頼んでいたからだ。
そして俺は、以前に斗真さんに渡しておいたネックレスの機能で、再び斗真さんと入れ替わり、相手が指定してきたカムチャッカ半島の小都市に向かったが、斗真さんとして訪れるので、自衛隊の輸送ヘリでの移動となった。
そこには二十歳前後の男が居た。
赤毛で背は百六十五センチメートル程しかないが、やけに股間がもっこりした男だった。
「君がロシア大使館を爆破した人物なのかい? 名前を聞かせてもらえるかな?」
「ヤリマンスキーだ。お前は何の能力が使えるんだ? 能力次第では俺様の雑用係として使ってやっても良いと思って呼んだ」
俺は名前を聞いて吹き出しそうになったが、ぐっと我慢をした。
「君はロシアに対して脅迫でもしているのかい? 大統領閣下も君の事は教えてくれなかったんだが、私の能力は君の能力を教えてくれるなら教えても良い」
「俺には転移の力がある。世界中何処にいようが、俺は簡単に暗殺を行う事が出来るんだぞ。俺の申し出を断れば、お前も今日から、いつ殺されるのかを毎日震えながら過ごす事になる」
まぁとっくに鑑定はしてるから転移能力がある事は解っていたし、既に対策もしてある。
「そうか、俺の能力は
「俺の仲間にならない選択をしたことを後悔させてやるさ、転移!」
しかし俺はスキル無効結界でヤリマンスキーを包みこんでおいたので、転移が発動する事はなくその場にそのまま彼は居た。
「何故だ。何故発動しない、貴様が何かしたのか? すぐ解除しなければお前の周りの人間を全て殺すぞ。それが女であれば、犯し尽くしてから殺す。お前のせいでだぞ、一生後悔させてやる」
「仮にもお前元勇者だろ? 何でその程度の発想しか出来ないかな」
「何故それを知っているんだ? 貴様は何者だ」
「お前に一々説明なんかしたくないし、もう興味はなくなった。後は魔王に任すさ」
そして俺はそのまま放置して、一度転移して香奈を連れてきた。
「香奈、勇者はこいつで間違いないか?」
「うーん、ちょっと若返ってるけどこの雑魚っぽさは間違いないかな?」
「どうする? こいつの指示でお前の父さんが殺されたのは事実だし、殺すならそれでも構わないが」
「そうだねぇ、スキル封じる魔導具は作れるかな? それが作れるならただの貧相なだけの男だし、ビアンカのとこにでも連れて行って逃げ出さない様にさせれば良いんじゃないかな?」
「あーいいかもな、ビアンカが喜びそうだな」
「なんだとお前たちビアンカの存在まで知ってるのか、あの恐怖の大王を……」
「お前はこれから先、その大きなイチモツでビアンカに尽くせ。逃げ出したら殺す」
「なんか表現が下品だよ翔君。もっと上品なセリフを言ってよね」
「香奈も十分楽しそうにしてるじゃん」
「頼む、なんでもするからビアンカだけは勘弁してくれ」
「無理」
そして俺はスキルを無効化する魔道具を作りヤリマンスキーの首にはめ、ビアンカの元に届けた。
頑丈な檻に囲まれたベッドルームを作ってやって、ビアンカに「好きなだけ搾り取っていいからな!」と頼んで家に帰った。
きっと彼は、ビアンカと幸せな生活を送り続けるだろう。
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