第11話 年末年始の過ごし方
年の瀬も押し迫り、テレビでは恒例の年末特番が流れている。
俺は明日の大晦日の夜を同級生のアンナと過ごす約束をしたので、待ち合わせの時間をラインで確認し合った。
出発が深夜遅くになるし、何かあったらいけないので俺がアンナのうちに迎えに行くことにした。
アンナはうちの人は大丈夫だと言っていたが、中学生の女の子が夜中に外出することに対して、心配は当然すると思うし、ましてやアンナは誰もが認めるような超絶美少女だ。
俺が行ったからと言って安心はしてもらえないだろうが、行かないよりはよっぽど良いと思う。
俺の両親には、友達と除夜の鐘を突きに行って初日の出見てから帰って来ると伝えた。
「おせち料理を用意してるんだから朝はちゃんと帰ってきなさいよ」と母さんに言われたので「ちゃんと帰ってくるよ」と伝えて出掛けて行った。
遊真や香織はそれぞれ年末年始は毎年家族で過ごすのが決まりだそうで、遊真は斗真さんの出身地の新潟に家族で出掛けている。
香織は、家の道場の門人の人達も集まり、元日から寒稽古が始まるんだってさ。
まぁ俺は今日はアンナと力いっぱい楽しむことに集中しよう。
でもなぁ……『煩悩退散』これ絶対!!!
俺は夜の十時過ぎにアンナの家に迎えに行き、祖父母に挨拶をしてから出掛けた。
「ちゃんと挨拶したし少しは安心して貰えたかな?」とアンナに聞いてみたら「なんかイメージと違うー、もっと軽いノリで全然良いのに」と言われた。
「でもなぁ、お祖父さん達の気持ちを考えると絶対心配だと思うからさぁ」
「そう言う所、翔君ってさほんとに歳上っぽいよね、実際は私のほうが一か月早く生まれてるのにね、でもちゃんと付き合ってくれてるような感じがしてなんか嬉しかったよ」
って言われて少し照れた。
除夜の鐘を突かせてくれるお寺に行って列に並ぶ。
先着百組だったんだけど、何とか間に合って良かった。
そして鐘をつき終わり、日付も替り、お互い向き合って「あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」と言い合った。
「来年はさぁ、ライブとかやってるような所でカウントダウンパーティもいいかもね」と俺が提案すると、アンナも「私もそういうとこ行ってみたいよ」と言ってくれたので「じゃあ今年の年末も楽しみにしてるね!」と年明け早々、年末の予定を立てた。
それから熱田神宮に初詣にでかけ、祭りの夜店を覗いて過ごした。
すごく楽しかったけど、中学生カップルが夜店で楽しそうにしていると、それをよく思わない輩は必ずいるもので、初日の出までの時間に三組も絡まれたぜ。
三組とも正月早々パンイチ姿で放置してやったけどな。
「寒いんだから風邪引くなよ」と親切に声を掛けてやった。
俺って優しいよな。
それから無事に初日の出を拝みアンナを自宅まで送り届けた。
自宅に着く直前に「今日のお礼だよ」って言ってほっぺたに『チュッ』としてくれた。
突然過ぎて俺も流石にドキドキしてしまったぜ。
俺も自宅に戻り、両親に年賀の挨拶をして、家族三人でおせち料理とお雑煮を食べた。
異世界で過ごした十四年の間には味わうことが出来なかった幸せな時間だ。
俺が異世界に行く前には苦手だと思ってた、
味覚なんかは、大人になった状態の俺のまんまなんだろうな。
◇◆◇◆
翌日はジュニアのオフロード選手権の地方大会だった。
俺は今までと違いスタートダッシュから一気に先頭に躍り出て、安定した周回を重ね、全国大会への出場切符を獲得した。
両親共に大喜びで、帰りにステーキハウスに寄り、大きなステーキを腹一杯に食べ大満足だったぜ。
次は三月に全国大会だ。
これで三位以内なら世界選手権のチャンスが有る。
父さんが俺以上に真剣になってマシン整備に取り組んでいる。
もし世界への挑戦が決まると、メーカーのサポートチームも付いてくれるらしいし「俺が手伝えるのはここまでだ」って言いながら凄い楽しそうだ。
◇◆◇◆
家に帰ってから暫くすると美緒から連絡があって「ちょっと来れない?」と言われたので転移でマンションに行くと、綾子先生も一緒に居た。
「何で一緒に居るんですか?」と聞くと、斗真さんとの会食以降なんか仲良くなって、よく一緒に行動してるらしい。
まぁ「あけましておめでとうございます」と律儀に挨拶はしたぜ!
「未成年生活を続けるのも、逆に疲れるだろうと思ってね、今日は美味しいワインなんかも用意してるから、たまには大人の時間を過ごしましょうよ、綾子と一緒におつまみも沢山用意しておいたからね」
「ありがとう。実際お酒飲めないのが一番こたえてたんだよね。斗真さんの会食の時もめちゃ辛かったんだよ、綾子先生もその辺はOKでいいって事なのかな?」
「この三人の時だけって条件でですけどね、大人の時間を楽しみましょう。でもアルコール抜けるまでは帰れないでしょ? 何か手段はあるのかな?」
「あーそれなら心配いらないよ、状態異常解除の魔法をかければ一発で全快するからね。俺の異世界での研究でね、アルコールは毒として判断されてるみたいで、状態異常解除で治せるんだよ」
「そうなのね、それなら私も酔っ払った時はお願いしちゃおうかな」と、綾子先生も言ってきた。
そして俺達は、三人でワインを楽しみながら、今後の方針を話し合った。
斗真さんからの依頼で俺に入ってくる収入は結構な額になるし、折角のお金だから有効に活用したいよねって言う話になって、民間団体として難民支援が出来ないかな? って言う話になった。
斗真さんから資料を提案して貰っていた別荘地の物件も三人で見て一番土地面積も広く、温泉の配給もある伊豆の物件を選んで、早速斗真さんに連絡をした。
年明けすぐに取得出来るそうなので、細かい打ち合わせなんかは、美緒に任せて修繕箇所などの業者との交渉も全てを任せると告げると、綾子先生が「私も少しは関わりたいなぁ」と言い出したので取得が済んでから一度三人で現場に行って、お互いに意見を出し合う事にした。
来年の受験の話も出たけど、「今の成績なら推薦も出せるけど、どうする?」って聞かれたけど「俺の成績が良くなったのはある意味反則っぽいし、今まで一生懸命頑張ってきた人に推薦枠は上げたら良いと思うよ」と言って実力突破の方向性で進む事にした。
そんな話題を楽しみながら、テレビでニュース番組を見ているとフランスのパリでテロ事件が起こったと速報が入っていた。
相変わらずのイスラム国絡みの事件だったようで、ニューイヤーを祝う街の中で凱旋門に近い地下鉄での自爆テロだと言う内容だった。
俺はテロ行為を決して許せないが、起こってしまった事実を巻き戻す事も出来ない。
この様な事件を起こさないようにする為にはどうしたらいいんだろうな?
殆どの対立は、宗教上の理由によって起こっているが、きっと彼らはもし彼らの信じる宗教一つに纏まったとしても、その中で主張の違いを訴え、暴力で解決をしようとするのだろう。
「全てを救うことは出来ないし、自分の手の届く事、自分の身近にいる人達の幸せを守る事に集中するしか無いよな」
「そうね、この世界の事を総て翔君が抱え込む必要は無いわ、自分のやりたい事をやっていけばいいと思うわよ」と美緒さんも言ってくれた。
綾子先生が「翔君ってさ異世界グッズって言うか、この世界では有り得ないような魔導具とか作れたり持ってたりするの?」と、聞いて来た。
「そうですね、俺自身は殆どの事がスキルと魔法で出来てしまうので、必要としていませんが、錬金と生産のスキルも最高レベルで所持していますので、出来ない事は無いですね」
「そうなんだね、転移の魔導具みたいなのとか出来たりするの? 私達を東京に連れて行ったりしてくれたみたいな?」
「出来ますが、何処にでも行けるとかいうのじゃなくて、対になる二つの間を行き来出来る感じになりますね」
「それ便利だね! 伊豆の別荘が手に入ったら、この部屋と伊豆の別荘繋げて欲しいな」と美緒さんが言った。
「あーそれ、いい考えですね。それなら事務所機能はすべて伊豆に集中させれますよね」
「でもね、私はすごい心配なこともあるんだよ。政府の人が斗真さんだけが窓口のうちは良いんだけど、もし斗真さん以外の人が担当になって、国のために働くのは当たり前だ! みたいな高圧的な態度に出てきたらどうする?」
「強制に対しては一切動く気はありません。それでいいよね?」
「すべては翔君ありきの話だから、強制されるようなら無視で良いんじゃないかな?」と、二人も言ってくれたので、俺も気が楽になった。
◇◆◇◆
昨日は久しぶりにお酒を口にする事も出来て、大満足だった。
綾子先生の話で思いついたけど、変装用の魔導具を作れば、大人なお店にも行くことが出来そうだな!
まぁ時間はあるし、ゆっくりと作ろう。
と思ってたら、斗真さんから電話があった。
「翔君、今大丈夫か?」
「あ、はい、大丈夫です。どうしましたか?」
「先日の病院で捕縛した、武装組織からの情報でその指導者に繋がる情報を手に入れたんだが、指示は半島国家内の地下要塞から直接出ている事が判明した」
「それをどう対処するんですか?」
「旧指導者の存在は世界的には確認されていない。表に出てきて騒ぎ出す前に排除したいと思うが、国外に攻撃行為を表立っては出来ないんだ、内密に排除を願いたい」
「それで完全に旧体制が排除されて民主的な新体制が、立ち上がる保証はあるのでしょうか?」
「うむ、そこが一番懸念されることだが、その場合中国、ロシアの干渉が予想される部分は、アメリカ任せになって、両国が干渉しない条件であれば復興へ向けた全面的な支援を公表して行いたいと思う」
「解りました。条件は?」
「地下要塞の完全破壊と、旧指導者層の殲滅で十億円だ。金額はとても低い事は解っているが、これで頼む」
「別に金額はそれで構いません。お受けします。今日中に形をつけます」
「頼むよ」
◇◆◇◆
俺は美緒に連絡を入れる。
「極秘ミッションだが来るか?」
「何処に行くのも付いて行くと言ったでしょ」
すぐに転移で美緒の部屋に飛ぶと、相変わらずの下着姿だった。
「美緒、絶対わざとだろ?」
「色々奮い立たせて上げようと思って、ご褒美タイムだよ!」
「まぁいい……すぐに出るから迷彩服で頼む。カメラもでかいのは的になる危険が高いから、出来るだけシンプルな装備でな」
美緒の着替えが終わって、すぐに半島国家へ飛んだ。
索敵を掛けると、地下要塞は二キロメートル四方の範囲で広がっており、階層も複数階ありそうだ。
人数的には、内部には三百名ほどの存在が確認できる。
指導者層以外の非戦闘員も存在するはずなので、丸ごと殲滅をする事は出来ない。
俺は一部分を破壊して、美緒と共に内部に転移で侵入した。
美緒は、動画で撮影している。
地下一階は武器庫が中心となっており、見張りの戦力は少ない。
「襲撃を想定してないようだな」
ここに居るのは一般兵は居ない筈だ。
将軍様の側近部隊だと思って間違いないだろう。
装備している武器も、旧型のAK47では無くAvtomat Special'nyj Val通称AS VALを装備している事からも明らかだ、一般的にはロシア国外には流出していないはずの装備が、ここに存在する事の意味も大きい。
一応、装備品は総て押収しておこう。
隠密を発動したまま近づき、意識を奪い装備を回収することを繰り返し、地下一階層の探索を終えた。
恐らくこの階層より下にある武器類は、小型銃火器しか存在しないはずだ。
地下二階層に降りると居住層のようだ。
ここには非戦闘員も多く存在するが、見極めが付かないので、美緒に相談した。
「支配者層以外の非戦闘員の見分けは付くか?」
明らかに性接待要員であろう女性達も多く存在しており「彼女たちはそう言う人達ね、後は料理人以外は全員支配者層と見て間違いないわ」と美緒が言い切った。
俺は、その人達だけを一度結界で取り囲み、地上に転移させた。
この後、要塞は爆破する予定なので、爆破の影響が無さそうな場所まで移動させて再び要塞内部に戻る。
地下三階層に降りると、どうやらここが高級指導者層の居住区と作戦指示などを行うオペレーションルームのようだ。
流石にこの段階になると、異変に気づき厳戒態勢に入っていた。
これ以上救出すべき対象が無い事を確認すると、俺は要塞を極大殲滅魔法で焼き尽くした。
一度要塞内部を氷結魔法で熱を取り、更に索敵を発動すると、まだ反応があった。
地下三階層から下に向けて、核シェルターを用意していたようだ。
十名程の反応が残る地下四階層の核シェルターに触れてアイテムボックスに収納すると、中身の生物反応だけが取り残された。
テレビでも見かけたことのある相貌の人物も存在する。
ほぼ間違いないだろう。
俺は全員の意識を奪って地上に戻る。
要塞の場所を土属性魔法で完全に埋め立て、更に重力を操り圧縮して終了させた。
どんな綺麗事を言っても、俺がやったことはただの人殺しだ。
しかし、彼らは明確な意思を持って、日本人を無差別に攻撃してきたのだ。
それに対しての報いは、当然受けてもらう。
この国の次の指導者が、どう言う国を作っていくかは解らないが、善意の人であることを願うばかりだ。
俺は、斗真さんに連絡をした。
「ミッションコンプリート」
美緒とともに部屋に戻ると、美緒は俺の頭を優しく包み込むようにしてくれ、俺は美緒の胸に顔を埋めた。
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