第10話 協力者と放火犯
クリスマスも終わり、街はお正月ムード一色に染まっている。
いつも思うんだけど、キリストの誕生を祝ったり、神社で神様にお願い事したり、日本人って無宗教と言いながら宗教行事にお金を使うことは大好きだよね。
日本全国で開催されるお祭りも旧来の祭りではほぼ全てが、神社仏閣の主導で行われているし、神国日本と言う表現は、あながち間違いではないよね。
今日は斗真さんに朝から連絡をもらって東京に来ている。
誰もが一度は聞いたことのある様な有名ホテルの一室に招かれ、斗真さんがルームサービスで頼んでくれた一流ホテルのモーニングを楽しみながら質問を受けた。
「翔君昨日のベツレヘムの件ではとても助かったよ、日本の諜報機関は世界ではすごく低評価なんだが、今回の件で世界各国へ大きな貸しを作ることが出来たので、日本の外交戦略上でとても大きな成果になったよ。残念ながらベツレヘム以外の九箇所では死傷者も少なくない数が出てしまったが、それでも事前情報のお陰で最小限に食い止めることが出来たと思う。それと、以前の病院の件もSATとレンジャーを守ってくれたのは、翔君だよね? 各チームの隊長がア◯パンマンが助けてくれたって言ってたよ? 翔くんが居なかったら全滅の危険があったそうじゃないか?」
「あー、報告すると告げ口っぽくなって、隊長さん達が怒られちゃったりするかな? って思って言えませんでした」
「そうだとは思ったが、命を張って日本を守ろうとしてくれる人達を怒りたくは無いんだけど、判断ミスが続いて全滅の危険を負うなんて、何も言わなければ再び同じミスを起こすし、いつも翔君に助けてもらえるわけじゃないからね、ケジメはちゃんと付けないと」
「そうですねスイマセン。一応僕は一部始終を見ていたんですけど、危機感が薄いと言うのが全てですね。折角気づかれずに近寄れたのに、ヘリの爆音を響かせるとか、相手の武装状況もわかってないのに、窓から縄梯子での突入とか、あり得ないですね」
「ふむ、あの時の状況から察するに本人たちは認めないが、お互いが張り合って手柄を急いでしまったのだろうな。テロや海外組織の対応をするチームは一つの部署で集中して行わないと駄目だという事も、良く解ったよ、必ずしも彼らだけが悪いわけじゃなく、そういう感情を持って当然だと思わなかった、私の任命責任が一番大きいよ。反省してる」
「それと別に報告しておきたい事が一点あります。僕のこの世界での協力者というか、僕が異世界帰りの能力所持者ということを、教えた人物が二名いますので、斗真さんには報告しておこうと思いまして……まず担任の
「そうか、翔君がその二人を信用して秘密を教えたと言うのなら、私からは何も言う事はないが、二人の立ち位置はどう言う感じなのかな?」
「浅田さんは今までの経験上でテロ組織の情報などにも明るく、僕がこの見た目なので、外向きの交渉などに出ることは出来ないので、僕の代理人としての立ち位置で動いて貰う予定です。先生は私生活に置いて実情を知る人が全く居ない状況だと、気持ち的に詰まったりする事も出てくる事もあるから相談相手ですね」
「そうか、解ったよ。その二人は私の存在は知っているのかな?」
「はい、伝えてあります」
「それなら問題ないな、逆に私の方からその立場をそれぞれ利用させてもらう提案もあるかも知れないから、一度顔合わせをしておきたいな。今晩の予定はどうかな? 都合が良ければ私の方で都内でレストランを用意しておくが」
「二人に確認を取ってみますので、少々お待ちいただけますか?」と言って俺は美緒さんと綾子先生に連絡をした。
美緒さんは、当然のようにOKで綾子先生はOKなのだがなんだか反応が変だった。
なんか「ヒャッヒャイ」って返事が噛んでたし、どうしたのかな?
「二人共OKでしたので、今晩楽しみにしていますね、何時にどこに伺えばいいでしょうか?」
「そうだね、折角だから翔君にフレンチの三ツ星レストランを体験してもらおうかな? テーブルマナーとかは大丈夫かな?」
「ええ、向こうで王族主催のパーティなんか結構出てましたので、大きく常識が違わないとかじゃ無かったら大丈夫だと思います」
「じゃぁ夜は楽しみにしておいてね。場所と時間は後でもう一度連絡するよ。あ、忘れる所だった。拠点の件候補地が三箇所ほどあるから、資料を見ておいてね」と言って資料を渡され、俺は一度家に戻った。
その後斗真さんからラインで連絡が入ったので、美緒と綾子先生にもラインを回し、五時には迎えに行くので、ドレスアップしてお願いと伝えておいた。
◇◆◇◆
家に戻って、斗真さんから預かった資料を眺めていると、アンナから電話が掛かってきた。
『翔君、あのね、初詣の予定とか入れてる?』
『いや、まだ何も決まってないよ』
『だったらさ、大晦日のカウントダウンから、初日の出まで一緒に過ごさないかな?』
『家の人は大丈夫なの? 俺は全然OKだけど、二人だけって事かな?』
『二人っきりは嫌かな? この間香織ちゃんの家に行ったでしょ? なんか差を付けられた気がして、挽回したいの』
『嫌じゃないよ、じゃぁさ前の日にまた何時にどこで待ち合わせとか連絡するね』と、伝えて電話を切った。
アンナも香織も凄い可愛いけど、斗真さんとの約束もあるし、二人きりで出掛けたりすると俺の理性との戦いになるよな……
◇◆◇◆
アンナとの電話を終えて、俺は美緒さんに電話をした。
『ねぇ美緒さん。俺さ三つ星レストランに着ていくような服持ってないから、今からチョット付き合って貰ってもいいかな? 何買ったら良いかわからないし』
『私のも一緒に買っていいかな? 私もカクテルドレスは持ってなかったからどうしようかな? って思ってたの』
『全然構わないですよ、俺の代理人でそう言う場に出ることも増えると思うし』
美緒に電話をしてから転移で迎えに行くと、思いっきり下着姿でメーク中の美緒が居た。
「ねぇ、俺の理性が吹っ飛ぶからその格好は辞めてほしいよな」
「あら? その気になったら全然構わないよ?」
「いやいや、俺は今は一応中学生らしい行動を心がけてるんだから、誘惑はしないでよね」
二人で栄のデパートに出掛けて、美緒のドレスと俺のスーツを買って、寒い時期だから、それに合わせたコートとかも買うと、二人で百万円ほどにもなったけど、まぁ必要な投資だと思おう。
美緒は、ワインレッドのカクテルドレスに上品なアクセサリーを付けた姿は、大人の女の雰囲気を出していてた。
「美緒、そんな格好するとすっごい、いい女っぽいよね!」と素直な感想を伝えた。
「あら、惚れてくれた?」
「俺の代理人で色々して貰う事が多いから、美緒のドレスなんかはもう何着か買っておいたらいいよ」
「嬉しい、愛してるよ!」
と言う感じで俺と美緒は、一度美緒のマンションに戻ってから着替えて、今度は綾子先生を迎えに行った。
実家暮らしの先生と、近所の公園で待ち合わせると、何時ものパンツスーツではなくて、スカートのスーツで色も綺麗な桜色のスーツで華やかさもある。
普段と違いメークもバッチリだから、美緒に負けず劣らず綺麗だ。
「先生もそんな格好すると滅茶苦茶綺麗ですね」と素直に伝えると……
「ショ、ションな事無いですよ」と、また噛んでた。
美緒が綾子先生を見て「ふーん」と言って見定めてる。
綾子先生も美緒を見て、自分の格好と比べて高級ブランドのドレスとコートを身に着けてることで、少し悔しそうな表情をした。
俺が綾子先生に服とかプレゼントすると今の付き合いじゃ変だよな。
なんか理由をつけて、プレゼントしたいけど、美緒と仲良くなってくれたら、一緒に経費だからとか言って買えるんだけどな。
「二人共、俺の能力はある程度理解してると思うけど、転移で東京に飛ぶから手を繋いでもらっていいかな?」
二人の手を繋いだまま霞が関の側の日比谷公園に転移をした。
斗真さんに連絡を入れると斗真さんも今から向かうと言う事だったから、俺達も三人でタクシーに乗って指定のフレンチレストランへと向かった。
地上百メートルを超える高層ビルの最上階に位置するそのレストランは、いかにもな雰囲気を醸し出し、案内された個室からは東京の夜景を一望できる。
出される料理もサービスも素晴らしく、異世界ではこれ程洗練された料理は無かったよなぁと、向こうの世界でのディナーを思い浮かべる。
俺以外の大人三人はワインも
羨ましいぜ……俺も飲みてぇよ。
俺は、なんか青いガラスの瓶に入った高級そうな水で今日は我慢だ。
料理も一段落つき、斗真さんが改めて挨拶する。
「今日は、翔君の協力者の顔合わせの会と言う事で、急な申し出にも関わらず集まってもらって、ありがとうございます」
「翔君の話では、私達協力者はお互いに今日が初めての顔合わせだという事ですね」
「雌熊先生は、私の息子の遊真もお世話になってる様ですし、よろしくお願いします。浅田さんは日本人では認識の薄いテロ組織に関しての、詳しい情報をお持ちだというお話を伺っております。書類の上でしか知らない私達では考え付けないようなアドバイスを期待して居ますよ。実際、翔君の存在はこの国の秘密兵器だと言っても過言ではありませんが、二十八歳の精神年齢に対して、十四歳の肉体での生活を強いられると、色々精神的に辛い部分もあると思いますので、フォローをよろしくお願いします」
と、斗真さんが切り出すと、美緒さんが「私は翔君に命を救われたからね、翔君が表舞台に出れない場所とかでは、全て私が身代わりになる覚悟はとっくに出来上がってます」
綾子先生も「すごく特殊な状況ではあると思いますが、私も翔君を公私共に支えて行く事を、約束しますわ」と答えていた。
「あんまり難しく考えずに気軽に相談に乗ってくださいね、俺はあくまでも組織の一員じゃ無くて個人で自由に動ける立場を望みますから! 先生や斗真さんに聞いておきたい事が一つあったんですけど、俺ってスポーツとかしちゃうと、滅茶苦茶目立ってしまうじゃないですか? それってやっぱりあんまり良くないのかな?」
「隔絶した記録とかを残されちゃうと、スポーツ界が諦めて成長を停めてしまう可能性があるのは否めないけど、その辺りは翔君が調整してくれたら良いと思うよ、我慢をしすぎて、翔君がダークサイドに染まったりしたら、それこそ世界が崩壊しそうだしね、適度にこの世界を楽しめばいいと思う」
と、斗真さんが言ってくれた。
綾子先生も「出来ることは出来るでいいんじゃないかな?」って事だった。
少しワインが回って、ほんのり顔を染めて居たけど「翔君少し聞いてもいいかな?」って言ってきたので、「なんですか?」と返事をすると、「翔君って女性関係とかどうなってるの? 向こうでは経験豊富だったりするのかな?」と、何とも答えにくい質問をされた。
美緒さんが笑いながら「綾子先生って質問が中学生みたいだよね、なんか可愛いですよ。そんなの聞くこと事体が、違ってくれたら良いなぁ? って言う希望的観測入ってるよね」とからかうような感じで言った。
俺は「ご期待に添えない答えかも知れませんが、そうですね。向こうの世界では勇者でしたから、とても、もてましたし、女性関係は少なくない数を経験しています」
「そうなんだね、解ったわ。逆に私が相談とかするかも知れないわね」
「全然いいですよ。俺が答えれるような事なら、何でも構いませんから」
そこで斗真さんが「まぁ人目がある所じゃないなら、私としても翔君に禁欲生活を求めるのは酷だと思うし、だからと言って、見た目通りの中学生をそう言う対象にされると、もっと困るから、綾子先生や美緒さんは大人として扱ってあげてくださいね」と、言ってくれた。
その時なんか窓の外が明るくなったような気がして、外を見下ろすと新宿方面で大きな火事が起こってる様子が見て取れた。
「斗真さん、あそこ見て下さいかなり大規模な火事のようですが大丈夫ですか?」と聞いてみた。
斗真さんが、どこかへ電話を掛ける。
「翔君、済まないが少し頼まれてくれ。あそこは結構大きな複合ビルで十階層までが百貨店で、その上階のフロアからホテルになっている。ホテル部分の十二階層から一気に燃え広がり十三階層より上の階に滞在している人達が、避難できない状況になったそうだ。強風でヘリも近寄ることが出来ないし、三十階層までのフロアには、海外のVIP客等の滞在も確認されている。ホテル側のデータでは五百名の客とクルーが五十名は居るらしい」
「了解しました。救出するよりも消火するほうが簡単そうなので、内部の滞在者にできるだけ上階に上がるように指示を出して下さい」
俺は視認できているので、一気に現場のホテルの屋上に転移して下の階に向けて駆け下りる。煙が上がってきていたので風魔法で吹き飛ばしながら下がっていく。
火は既に十四階層まで上がってきていた。
氷結魔法を発動して一気にフロアごと凍りつかせて鎮火すると十三階層と火元である十二階層でも次々と氷結させて、完全に鎮火をさせた。
更に下に降りていくと、避難をして誰も居なくなったはずのフロアで人影がある。
このフロアには各種のブランドショップなどが入居しているフロアだ。
宝飾店や有名ブランドの腕時計等が並ぶショウケースを破壊して、中の商品を根こそぎ奪う火事場泥棒の集団だった。
俺は身体強化を全開にして、勇気百倍お面を身につけると、索敵で相手の人数を把握する。
六名だった。
全員が目出し帽を装着しているが、体格的にアジア人の体格だな、雷魔法を発動して、全員を痺れさせて拘束した後で、斗真さんに連絡を入れた。
「ミッションコンプリート」
すぐに転移で斗真さん達の所に戻り状況を説明する。
火事は放火であった事。
十四階層まで火が回っていたので、フロアごと凍りつかせて消化した事。
犯人グループを発見したので拘束して置いた事。
犯行目的は、ブランドショップの商品を強奪するために行った放火である事。
と、そこまで報告した時に、美緒が「アンパ◯マンなんだね」と言ってきた。
しまった、お面外し忘れてた……
斗真さんが「迅速な解決をありがとう。今回の報酬は五千万円で頼む」と伝えられた。
俺は「毎回ロッカーは危険だから、これからは美緒に渡すようにして下さい」と伝えた。
綾子先生が何故か張り合って「翔君、浅田さんは美緒って呼び捨てにしてるんですか? 私も学校以外じゃ綾子って呼んで下さい」って言ってきた。
ああ……先生も、もしかしてチョロイン系の人だったの?
でも多少の被害は在ったが、怪我人は出なかったので、まぁ良かったよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます