第6話 お面と陸上とひったくり

 十一月も終盤に差し掛かかり、肌寒さを感じる季節になってきた。


 先週の銀行強盗の解決の時に使ったマスクがイマイチだったので、百均に新しいマスクを探しに行ったんだけど、ハロウィーンが終わったばかりで、いかにも売れ残りのホラーな感じのばっかりだったから、諦めて他で探す事にした。


 やっぱどうせならライダーな感じのお面とかの方が、ギャグっぽくって良いかも知れないな?

 

 流石に、ラテックス製のリアルな感じのやつとかは嫌だし、軽いノリで行きたいしな。


 お面と言えばやっぱりお祭りだよね! どっかお祭りやってるところはないかな?と、インターネットで調べてみたら、二十三日に三重の多度神社で流鏑馬やぶさめ祭りをやってるのを見つけた。


 早速、遊真、アンナ、香織の三人に連絡して、二十三日は四人でお祭り見物に行く事にした。

 朝から近鉄電車で桑名駅に行って、そこからはバスで多度大社に向かった。

 刈入れの終わった田んぼの風景が目立つ、のどかな場所だなぁ。


 でも最近は今まで田んぼだった所に、太陽光発電のソーラーパネルが大量に並ぶところも結構目立つよね、最初のうちは電気をすごい高額で買ってくれるって話だったのに、すぐ買取価格は安くなって、とても初期投資が回収できるとは思えないような状況だって話もよく聞く。


 うちの父さんも付けたがってたけど「母さんにそんなうまい話が転がってる訳無いじゃない」って言われて諦めた経緯があるんだけど、今は「あの時付けなくて良かったなぁ」って言ってる。


 肝心なお祭りは、甲冑姿の人が馬に手綱を使わずに乗って、弓を弾き矢で的を射るんだけど、すごい迫力が在って、四人で大いに盛り上がって見物した。


 俺も異世界では似たような事結構やってたけど、身体強化とか無しでこれが出来る人達って一体どれだけの練習をしてきたんだろうね。


 流鏑馬やぶさめを見終わったら、いよいよ俺にとってのメインイベントの、お面選びだぜ!


 お面屋さんを見つけて、早速選び始めるが、ピカ◯ュウとアン◯ンマンとド◯えもん以外は何のキャラクターなのかもあんまり解らないが、きっと最近のライダーな感じや戦隊物の感じのお面なんだろうな? ここで一つだけとか選んでそれを被って、なんかの事件を解決したりすると、香織ちゃん達に正体がバレる危険が有るから、手当り次第に十個ほど選んで買った。


 十個も買うなら一個おまけだってお面屋のおっちゃんが言ってくれたから、正義の味方アンパ◯マンを選んだ。

 勇気百倍を見せてやるぜ!


 アンナと香織にも無理やりプリ◯ュアのお面を買い与えて、頭につけさせたら、結構気に入ってはしゃいでた。 


 遊真には、何故か今だに人気があるらしい仮面◯イダー一号を選んだ。

 ちなみに仮面ラ〇ダー一号と二号ってお面だと、どうやって見分けるんだろうね?


 翌日は陸上部の助っ人で二百メートル走の種目に出る事になったけど、まぁ走るだけだからきっと大丈夫なはずだ。


 折角だから色々出たかったんだけど、一人一種目しか参加できないらしい、なんか謎ルールだよね?


 そして日曜日、朝からいつもの様に遊真達が一緒に来てくれた。

 

 名古屋市内の結構大きな競技場で開催されてるんだけど、出場選手がめっちゃ多い……

 この競技会は予選とか無くて全員一回だけ走って、そのタイムで全体の何位って感じで順位が出るんだって。


 参加する時間は三十秒足らずで、その為に開会式とか色々あってほぼ一日使うとか、ちょっと理不尽かも……


 でも最近の俺の噂を聞いてる陸上の顧問の先生も、なんか凄い期待してるからその期待には応えてあげるよ!


 そして俺の出番はお昼前にやっと回ってきた。


 アンナ達の応援を受けてスタートラインに並ぶ、クラウチングスタートはほとんど練習してないから、ちょっと苦手だけど、ここまで八組が走って最高タイムは23秒50のタイムが出てるな、昨日調べた中学生記録は21秒18で世界記録だと19秒19とか凄いな。


 一回だけしか走れないから、周りを見てペースを併せちゃうとタイム差で全然駄目って可能性もあるから、それなりに本気走りの方が良いかな?


 顧問の先生もビデオカメラ構えてガチで観戦してるぞ。


 そして二百メートル走はスタートした。

 やはりクラウチングスタートからのダッシュは、八人中七番目のスタートだったが、そこからの一気の追い上げで百メートル過ぎからは独走状態でフィニッシュした。


 問題のタイムは『19秒99』ウハッやっちまった。

 日本記録は確か二十秒切って無かった筈だ。

 スタジアム全体に、日本記録誕生のアナウンスが流れ、香織とアンナも抱き合って大喜びしてる。


 すぐに、市の陸連の人というのが顔を出して名刺を渡してきて、特別強化選手として何とか来年のオリンピックに間に合わせることもできるかも知れないとか言い出したが「折角声を掛けて頂いて申し訳ないんですが、俺は陸上が本業では無いのでスイマセン、強化選手の話は無しでお願いします」と断りを入れた。


 だがこのタイムを出した少年の名は、陸上関係者の間ではしっかりと刻みつけられ、陸上部顧問の坂上先生が撮影していたレース画像は、陸連に資料として提出され、その後定期的に自宅突撃を受ける事態に陥った。


 後にビデオを解析した日本陸連の分析では、後半百メートルのタイムは実に9秒70を記録していると言う事らしかった。


 そして、当然二百メートル走の部門では優勝して、表彰状を貰って遊真達と四人で打ち上げにバーガーショップに立ち寄った。


 一時間程駄弁だべって帰宅の途に着くと前方から「きゃああぁああ引ったくりー」という凄まじいと言っても過言ではない、叫び声が聞こえてバイクが二台並走してこちら方向に走ってきてる。


 バイク二台組の引ったくりみたいだ。

 俺は一台の前に立ちはだかり、ローリングソバットを決めた。

 当然ライダーは落車したが、もう一台はそのまま脇目もふらずに走り去る。


 ひでぇやつだなと思って、俺の目の前で主を亡くして倒れたバイクを起き上がらせ、エンジンを掛け追走する。

 公道だから無免許運転になっちゃうけどゴメンナサイ!


 伊達にモトクロスで鍛えているわけじゃないぞ、俺は全速でもう一人の犯人を追走し、一気に追い越した所で急ブレーキからアクセルターンを決めるとビビったもう一台も急ブレーキを掛け派手に転んだ。


 こりゃちょっと色々ツッコミどころ満載な展開で怒られちゃうかな? 警察はしょうが無いにしても父さんがヤバイ。

 無免許運転は日頃からやかましく絶対にするなと言われてるから、ちょっと気が重いぜ。


 取り敢えず奪い返したバッグはローマ字のHの文字が大きくあしらってある高そうなバッグだ。

 ヒィヒィ言いながら走ってきた四十代くらいの女性は、聞いてもないのに「今日のお店の売上金の二千万円を銀行の夜間金庫に入れようとした所を襲われたの」と、事細かに説明してくれた。


 一日で二千万円売るとか何の商売なんだ? と思ったけど、まぁ深入しても面倒事が増えるだけなのでバッグを渡した。


 その頃にようやく、警察が到着して俺は事情を聞かれることになる。

 遊真達が心配して付いてこようとしたが「やったのは俺一人だから、遊真達は帰って置いて、後で必ず連絡入れるから大丈夫だ」と言って、俺と被害者のご婦人、犯人二人がパトカーで連れて行かれた。


 犯人のヘルメットを取らせると被害者のご婦人が、「貴方だったの……」と呟いた。


 犯人はご婦人の会社の元従業員で、ご婦人は宝飾品のイベント販売会社の社長だった。

 日曜日のイベントは高い売上を誇る事を知っていての計画的な犯行だったみたいだ。


 まぁ俺もかなり手加減をしたソバット攻撃をしたのと、勝手に転んで擦り傷を作った程度の犯人にはしっかりとお説教してもらわなきゃな。


 警察署に着くとすぐに俺の親に連絡が行き両親が来た。

 被害者の社長さんがかなりのフォローを入れてくれたが、父さんはかなり怒ってるな……まぁ約束を破ったのは間違いないんだし、ここは甘んじて怒られよう。


 一応犯人逮捕のためのとっさの行動と言う事で、俺はお咎め無しにはなったが、くれぐれも免許を手にするまでは公道でバイクを乗ることが無いようにと念を押された。


 そして警察署を出ると当然のように父さんが俺を怒った。

「翔、話を聞いてたらお前はバイクに乗ったのに、ヘルメットを被らなかったで間違いないんだな?」


 ぇええ、そこなの?


「お前がもし転倒して頭を打ったりしたらどうするんだ? バイクを教えた俺は、お前がバイクで事故って怪我をしないように最大限の注意をはらう義務があるんだ。だから怒る。メット無しでは絶対に乗るなよ? 以上説教終わり」

「解った、父さんゴメンな。咄嗟に体が動いちゃって、追っかけるのを優先してしまったんだ」


「解ったならもういい、折角三人で外を歩いてるんだし飯食いに行こうぜ」

「貴方のツッコミどころ満載のお説教タイムは終わりかしら? 私は旦那さまと自慢の息子をますます大好きになりましたよ」


「俺も父さんと母さんが俺の父さんと母さんで良かったって改めて思ってるよ!」

「もう日が落ちてからはめっきり肌寒くなったな、今日はすき焼きに行こう!」


 父さんは奮発して、和牛の美味しいすき焼きを食べさせてくれる一流店に連れて行ってくれた。

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