05.
『〈ガイア仮説〉と言えば、』アルマカンは頬を掻きつつ、『地球とその生態系を一つの生命体として捉える考えじゃったな』
「そうです。そこから解釈を拡げてみると、」中村はアルマカンの掌を示して、「生命ってのは〈生きている環境〉で息づくもの、って考え方に行き着きます」
『まだ話が霧の中じゃな』口を尖らせてアルマカン。『平穏があり得ん話と似姿の話は、そこと一体どう繋がる?』
「もうすぐですよ」中村は笑みを一つ見せて、「〈生命の環境自体が生きている〉ってのは、まぁ農業を見れば明らかでしょう。土が〈生きて〉いないと作物は育ちません」中村はそこで指を立てて、「で、本題です。環境が生きていれば、息もしますし飯だって食うわけです。さらにクシャミもすれば下痢に悩むことだってあります――これが〈想定外〉です」
『ここで繋がるのか?』アルマカンが腕組みしつつ首を傾げる。『つまり〈生きている環境〉の変調が〈想定外〉だと?』
「風邪をひくだけが〈想定外〉じゃありませんよ。つまずいてすっ転ぶかもしれないですし、交通事故で死にかけるかもしれないでしょう? あなた、こんな突発事態を全部想定できますか?」
『う~む……』アルマカンは難しい顔で、『想定できとればそなたを呼ぶこともあり得ん、か』
「そういうことです」中村は笑み一つ、「で、もう一つ」
『〈神の似姿〉?』
「ええ、」肯んじて中村。「この考え方でいけば、ガイアはヒトの上位存在ってことになります。〈神が最上位存在を似姿にする〉って話なら、ガイアや太陽系の姿を取る道理です」
『では、』頭を掻きつつアルマカン。『ヒトの姿でそなたの前に現れた理由は何だと思うね?』
「話が通じやすいからでしょう」即答。「見たこともない異形の言うことを素直に聞くほど、ヒトの頭ってのは柔らかいとは限りませんからね」
『まぁ、よかろう』感心半ばにアルマカン。『ではこの作り物の姿を押し通すことはないわけじゃ。ならばそなたの望む姿で接してやることもできるぞ?』
「そこは今の姿で」
『何じゃ、この口調が問題か?』アルマカンは冷やかすようにひとつ笑って、『ならばあるじゃろう、〈のじゃロリ〉という手が』
「いや、」中村は頭を掻いて苦笑い。「ロリっ娘に向かって突っ込むのも気が引けますから」
『突っ込むんかい?!』アルマカンが頭を抱え、足下からの煙に消えた。
「もしもーし?」中村が声を苦らせ――たところで。
煙が晴れた。幼い人影。ついでに頭上、狐耳。
『さぁどうじゃ!?』胸を反らせて巫女袴。『この姿なら、そなたも強くは出られまい!?』
「いや、やっぱり突っ込むんですけどね」
『突っ込むのか?!』アルマカンは涙目で、『こんないたいけなロリっ娘に!?』
「56億7千万も世界ポシャっといて言う科白ですか」
『いや~いじめるぅ』アルマカンが可愛らしく怯えてみせるが、
「で、失敗したいんでしたっけ?」突っ込む中村。
『……よろしく頼むのじゃ』アルマカンが頭を下げる。
『では、』のじゃロリなアルマカンが再び左の掌を掲げた。『まずは何より多様性を重んじればよいのだな?』
「そういうことです」中村が頷く。
アルマカンの掌に光が凝集、次第に輝きを増していく。
「今度は闇も?」促す中村。
『う、うむ』アルマカンが頷きを返す。
「今回はさっきほど眩しくなりませんね」眼を細めつつ中村。
『闇を除いておらんからな……どれ』アルマカンが胸元へ掌を引き寄せた。
「今度は何を?」中村が訊く。
『生命の有り様をだな、』胸先の輝きへ、アルマカンが左手を押し込む。『このように、決めて、やるの、じゃ』
「ほうほう、」興味深げに中村が覗き込む――と。
輝きが、弾けた――。
『ありゃりゃ』決まり悪そうにアルマカン。
「どうしました?」中村がアルマカンへ眼を向ける。
『溢れた』情けない顔でアルマカン。『情報が多様すぎて収まらん』
「えーと、」中村は額に指を当てつつ、「つまり、多様性の情報を全部遺伝子に書き込んだような?」
『決まっておろう』アルマカンは軽くむくれて、『そなた、多様であるほどよいと』
「あ、そういう方向へ行きましたか」中村はひとつ手を叩いて、「そりゃ収まり切るわけありませんよ」
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