5mの間合い
山田
ダリアX
玄関に辿り着き錆びついた扉を開けると情報屋のマックスが言っていた通り『ダリアX』が部屋の真ん中で腰をかがめて立っていた。
ダリアXはロボットだった。
ダリアXの傍らには埃まみれの宝箱がポツンと置いてある。
私はそれを盗みに来たトレジャーハンターだった。
さて、幾つもの困難を乗り越えてようやくここまで辿り着いたのだ。
後は宝箱をちょいちょいと開けるだけだ。
ダリアXさえいえなければ――。
バッグに入れてあったリンゴをぽいっと部屋の中に投げ込んでみる。
リンゴは空中で真っ二つに分かれ床に落ちた。
ダリアXに切られたのだ。
奴はこの部屋への一切の侵入を許さない居合斬りマシンだった。
ダリアXの斬撃の間合いは実際の刃渡り以上の広さがあった。
メカニズムは不明だが斬撃が飛んでくるのだ。
その間合い5m――、この部屋いっぱいがダリアXの不可侵領域といったところだろう。
人間だって部屋に入れば真っ二つだ。
その証拠に私の足元には真新しい男の首が転がっている。
私の相棒だったジョンの首だ。
「ロボット三原則って知ってるか?」
そう言い残して奴は死んだ。
気さくで良い男だった。
ジョンのためにも私は宝箱を諦める訳にはいかなかった。
ダリアXが幾ら優れたロボットであったとしても人によって定められたプログラムに従い動作している以上、どこかに付け入る
初めにマシンガンでダリアXの破壊を試みたが全く駄目だった。
放った弾は全て切り捨てられた。
ダリアXに切れないものはない。
どんな速度でもどんな硬度でもダリアXの間合いに入れば必ず切られてしまう。
そうマックスは言っていた。
足元に転がったジョンの首とマシンガンの弾を見てその通りだなと納得した。
念のため、プラスチック爆薬も用意していたが宝箱ごと吹き飛ばしてしまえば意味がない。
八方塞がり――、ってほどではない。
人間様との知恵比べにロボットが勝つなんてまだまだ先の話だ。
バッグに詰め込んだカプセル式のボールをダリアXに1つずつと投げつけていく。
当然、ダリアXは見事な腕前で投げつけられたボールを次々と切っていった。
しかし、4つ目のボールは宙を回転し、そのまま自由落下した。
カンカンと音を立てボールは床を転がっていく。
ダリアXは切らなかった。
いや、切れなかったのだ。
「随分と早かったな」
ボールの中には強力な瞬間接着剤を入れてあった。
ダリアXの反応速度や刀の切れ味がどんなに優れていても刀と鞘がくっついてしまえば意味がない。
床に撒かれた接着剤を踏まないように部屋の中に入っていく。
ダリアXは刀を抜こうと
「お前が怪力だったらもう少し手こずったかもな」
皮肉が分からないダリアXに皮肉を言って宝箱に手を付けた。
実の所、宝箱の中身が何なのか知らなかった。
凄いお宝らしいって情報を聞いたのはジョンからだった。
何にせよダリアXのようなロボットが守っているお宝なら相当なものだろう。
しかし、宝箱を開けた瞬間、私の目に飛び込んで来たのは光り輝く宝石の類ではなかった。
そこにあったのは分厚い紙の束だった。
「これは……、何かの設計書か?」
ダリアXの設計書か!
そんな直感と共に私は紙を捲っていった。
しかし、ある瞬間、ピタリと手が止まった。
冷や汗が出て、唾を飲み込む。
設計書は確かにロボットの製造方法についてのものだった。
ただし、ダリアXのものではない。
そこにはコードネーム『ジョン』と書かれてあった。
「ありがとう」
その言葉に振り向くと片手に自分の首をもう片手に銃を持ったジョンが立っていた。
私はあまりのことに声も出せなかった。
「その設計書を処分したくてね。人間様ならロボットとの知恵比べに勝ってくれると思ったよ」
ジョンは私に銃を突き付けて
「ロボット三原則って知ってるか?」
と言った。
5mの間合い 山田 @user_ice
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