第4話 破壊女王グラム

「アナルの皺を見てみろよ。あの情報量、あの規格。レコードと完全に一致してやがる。菊の門とはよく言ったもんだ。ありゃ見るもんじゃねえ、聴くもんだ」

 --閉じアヌス銀河



 星の辺境。絶海の孤島に栄える一つの王国。

『右手がお留守だぜ!! 茶碗蒸し食って生き絶えるがいいノラ!!』

 王宮のブリーフィングルームには、多くの大臣が詰めかける。国の一大事につき、急きょ会議が開かれたの。

「先日の海水汚染につきまして......」

 主催の宰相が会議招集の経緯を端的に語る。

「しかるに、問題点としては次の二点。海水汚染によって、貿易が一時ストップしていること。そして、同時に起こった家畜の消失。二件に関係があるかは不明ですが、言えることは一つ......」

「食糧難か」

 王女の相槌に、宰相が「左様」と首肯する。

「人口約八千人に対して平等に割り当てるとすれば、もって一ヶ月。それまでに元に戻らなければ」

「竜の没する時か......」



 その国の紋章には、巨大なヴァギナより出ずる翼竜が描かれている。その姿は、国の神話に由来する。



「ところで、の方は進んでいるのか?」

 女王の問いに呼応し、情報局参謀が円卓の中央に【しるダコ】を置いた。それは、透明な蛸壷に入った生きた蛸による記述である。蛸の心身の現れが各センテンスに対応する、不確実性の高い書き言葉。技術者はすなわち、蛸の意思をコントロールし、その身体的駆動をある種の円環構造に導き、記述を永遠に保存することを目指す。非常に不確かな言語だが、彼ら王国の民にとって、元来、記述とはそれほど乱暴なものに違いなかった。むしろ、二次元の記述にこだわることで、立体的なコンテクストが失われることの方を恐れたのである。

「なるほど、ぴーや。解析は進んでるようだバ」

 蛸の動きから読み取れる限り、彼らは『出雲高き口唇』の話をしている。

 それは、一〇八年前より始まった一大プロジェクト。国民の遺伝子の中から、彼らの大祖先である(神話上、そうなっている)竜の設計図を見つけることを目的とした臀鰻ケツウナギ

 民の菊門を針でなぞり、重厚感ある音楽を奏でる。音楽は言語である。その雄大な音程の開きを伝説の吟遊詩人が解析し、竜の設計図を暴く。吟遊詩人は生まれながらにしてその運命を定められており、一世代に一人しか現れないとされる。現在、国には一人の吟遊詩人が生存しているのみである。

 竜の遺伝子が発見されれば、絶海の王国から飛び立つ手段を得る。王国は今まで以上にその伝説に躍起になっていた。

 しかし凶報。会議室に飛び込んだ侍従長は、王の顔を見るなり、述べた。

「空から降ってきた茶色い豚に激突し、詩人は仏になりました!!」

 遠く月夜。竜の面影は、未だ見えず。

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