第2話 ドミニク・ミダス

 地球の海は、もう二度と元には戻らないらしい。商売道具だった大型漁船も、早々に解体が決まった。金属部品を別産業に横流しした方がだと、支配者は至極俗的な言葉で漁師を切り捨てた。『うばばうばばうばば。マシだと? ラーメンだけにニンニクでおじゃーる!ニンニン!』

「船長! 竜骨はどうしますか!?」

 船員から船大工に転職した仲間が、甲板から大声を上げた。波止場であぐらをかき、おにぎりを喰らう俺は、彼らにとってまだ船長と呼ぶに値する人物らしい。

「空賊にでも売っ払っちまえよ」

 空賊--三日前、突然に俺らの頭上を占領した飛空挺の数々。あらゆる国家を悩ませる卑近の星々。積極的なコンタクトも無いまま、宇宙人と仮定された、鉄の雲。

 冷めた気持ちで埠頭を歩いていると、沿岸から海にイチモツを垂らす少年を見つけた。海釣りオナニーに夢中なのは結構だが、カリ先は業火渦巻く毒蝮。水面にちんぽでもつけた日にゃ、真っ赤な亀頭は痩せこけたコオロギみてえになっちまうに違いない。老婆心から、俺は少年に忠告をすることにした。

 そうして一歩を踏み出した時、少年は周囲に張った磁場で俺の接近をすかさず察知して、極度に緊張した。早い話が、駿馬みてえなきりもみキノコが、たちどころに勃起したってわけだ。鋭利な餌食に、茄子ヤクザ。カートリッジをスライドするみてえに、カリ先はしっこと伸長して、一瞬間のうちに水面を貫いた。弾ける飛沫は、斑ら模様。そんなのはともかく、あーあ、終わっちまった、肉ピソカ、俺は少年の最期を見届けたのだ。

「んなこたねえ、黙ってみとけよ、昼芝居」

 少年は磁場を介して俺の耳に直接テレパシーを送ってきた。

 確かに、後々の状況を思えば、俺の考えは取り越し苦労と言えなくもなかった。

 少年のイチモツが遮断機のように上昇していく。カリ先は無傷どころか、新たな素材を海から連れてきた。

 カリ先にかかったワカメを手提げに、海中から巨大な漁船が現れた。その巨軀は、マストも破れ、甲板にも穴が空いて、もはや船としての役割を担っていなかった。遥か昔に海中に沈んだ漁船。伝説の座烏賊ざいかとの戦いの果てなのだ。おおーーーーーーーーん。

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