ちんぽから漁船の臭いがするでおじゃる

山川 湖

第1話 ヒロシ

 浸し目蓋。三日月の埠頭から垂らした鬼神の陰茎が、外延、海の底に向けて延びる。しかし、半ばで腐って、千切れる。亀頭の弾頭が、ゆっくりと深海に沈んでいく。

 三日前のこと、異星より放射された猛毒粒子は光速で海に着火し、たちどころに地球の七割を汚染地帯へと変えた。『海には近づくなよ、カッター坊や』

 公害はあまねく魚のジェノサイド。海に浮かぶ深海魚のはらわたを見て、天命の記者たちは動き出した。

『うばばうばばうばば。地球全体が水炊きでおじゃる。出汁が出るのでおじゃる』



 海溝は安全だという。こんな状況においても、海溝は、安全だというのだ。

 不確かな情報だが、藁にもすがる思いで僕は走り出した。いつも行っていた港に向けて、全速力で駆けたのだ。

 走馬灯の秀樹。三日前までの僕は、最寄りの港から裸一貫、おちんぽ垂らして、海釣りオナニーの虜だった。ヘルミームで言うところの水圧オナニーってやつかな。

 亀頭に染みる塩の味。ピラニアの蠢く(少なからず僕がそう予期する)剣呑な挑戦。全てが僕を奮い立たせたのだ。終いには、当然、鉄射精。オラの精子でシャケも身籠る、なんて自己弁護的な話だけどさ、通りすがりのシャケにも、僕は生命のきざしを与えていたわけなんだよ。

 話が変わったのは、本当に三日前さ。僕の聖域が、宇宙人の奴らにもバレたのさ。元を正せば、僕は随分前から宇宙人に監視されてはいたんだよ。なんでも僕のDNAの中に組み込まれているコダック人の設計図を奴らは欲しがっているらしいんだよ。迷惑な話さ、僕はただコダックの末裔から生まれただけだというのに、夏には交感神経が不調になるし、冬には大雪みたいにちんぽが白くなる。オマケに宇宙人にもつけ狙われるってんだから。

 ともかく、宇宙人は僕を監視している間に、僕の習慣に意味を見いだしたのさ。そこからは鬼神の亀頭弾頭が地球に落下して、世界の終わりって話。

 でもさ、今は、海溝はまだ汚染されてないっていう噂でもちきりなんだよ。

 例えばだよ、水面にワームホールみたいなものがあって、その先は安全な海溝に繋がっている。そんな世界があったら、幸せなんじゃないってこと。要するに、まだ希望は捨てちゃいないって話。

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