第18話 散る命の証

「ユメクイ達、やっと来たな」


 結界内部に閉じ込めた人間の魂からエネルギーを吸い取っていたククルスは、ユメクイの気配を探知して立ち上がる。

 今回の主目的はユメクイとの決着であり、そのためわざと結界が見つかるよう配下のナイトメアレヴナントを利用して誘導させたのだ。そしてその誘いに見事引っかかったユメクイ達が現れたのである。


「お姉ちゃん・・・・・・」


「ここでユメクイを排除し、ついでにエネルギー源として使う。我々姉妹の力でなんとしても勝つぞ」


「魔結晶の準備は万全・・・後は敵を捕らえてぶち込むだけだよ・・・・・・」


 ココルスが見上げるのは透明色の結晶体だ。約五メートルほどの大きさで、横幅も三メートル以上はあるだろうその結晶体こそが彼女達にとってのキーアイテムらしい。


「貯蔵用の魔結晶も繋いでおけ。すぐに必要になる」


「うん・・・分かったよお姉ちゃん・・・・・・」


 巨大な結晶体の近く、今度は人間サイズの結晶体を置いてケーブルを繋ぐ。内部にはこれまでに集めたエネルギーが満載されて淡い青色に輝いていた。


「ユメクイのエネルギーを吸収したらここに貯められたエネルギーと合わせて吸収し、我々は更なるパワーアップを果たせる。さすればこのエリアは完全に掌握できるだろう」


「そしていつかはこの世界をも・・・・・・」


「ああ。いずれな」


 ククルスはココルスとナイトメアレヴナント達を率い、ユメクイ達が侵入した方角へと進軍を開始した。勝利を果たし、ナイトメアレヴナント達の女王として君臨した自分の姿を夢想しながら・・・・・・






「敵が来るぞ!」


 先頭を行く乃愛がハンドサインと共に敵の接近を味方に知らせた。それを見て明里達は霊器を握り、敵の出方を窺いつつ慎重に前進していく。


「あれはソルシエール・・・この前見たヤツともう一体いるな」


 ナイトメアレヴナントの中でも異彩を放つ二人、ククルスとココルス。仮面を被っているので表情は分からないが、自信に満ち溢れていることはゆっくりと地面を踏みしめるように歩くその態度から伝わってくる。


「明里さん、アレは前に戦ったソルシエールですよね?」


「間違いない。お姉ちゃんがどうとか言っていたし、やはり姉妹のソルシエールなのか」


 二人組のソルシエールは姿形が似ており、差があるとすれば身長だ。姉であるククルスの方がココルスより少しだけ身長が高い。


「待っていたぞ、ユメクイ」


「あたし達にやられるのをか?」


「ほざいていられるのも今のうちだ。ここでケリをつけ、貴様達は我らの養分としてやろう」


「やれるものかよ!」


 乃愛が霊器を構えて突っ込むがソルシエール配下のナイトメアレヴナントが立ちはだかる。その数は多くはなく、普段ならばそれほど時間もかからず殲滅できるのだが、二体のソルシエールも同時に相手にしなければならいない現状では苦戦は免れられない。


「戦力ではこちらのほうが圧倒的だな」


 ククルスはユメクイが果敢に攻撃してくるのを冷静に分析し、確かに強敵達ではあるが自分達が負けるほどの相手ではないと得心する。

 そしてココルスと共に戦場に参加し、ククルスは明里へと襲い掛かった。


「妹のココルスが世話になったようだな」


「お前が例の姉か」


「私の名はククルス。覚えておいて損はないぞ」


「悪いが定期試験の勉強でアタシの脳内メモリーは満杯で、お前の名前なんて憶える余裕はないんだわ」


「ユメクイの記憶領域はポンコツなのか。まあいい。どうせここで死ぬのだから、憶える意味もないしなぁ!」


 ククルスは右腕を変形させ、そこから金属色に輝く鎖を展開した。その鎖の先にはスパイク付きの大きな球体がくっついており、言うならばチェーンメイスと呼ばれる武器だ。

 その凶悪なデザインとなった片腕をブンまわして明里に叩きつけてくる。


「危なっ!」


「チッ・・・!」


 明里はギリギリで回避し、チェーンメイスは地面に叩きつけられて土煙を巻き上げる。

 チェーンメイスは扱いづらい武器ではあるが、その質量を活かした一撃は強烈だ。剣などの武器では防御なんてできないし、それこそタナカさんのような盾でようやくだろう。そんな一撃をまともに喰らえばユメクイとて即死は免れられない。


「逃げられると思うな!」


 ククルスは左腕をもチェーンメイスに変化させ、左右の腕による連続攻撃を繰り出す。


「これじゃあ近づくのも大変だな・・・広奈ならいけるか・・・?」


 広奈のタナカさんに頼れればとその姿を探すが、どうやら広奈は少し離れた場所でモルトスクレット達と交戦していて忙しいようだ。

 救援を頼むのは無理だと判断し、とにかくチェーンメイスを避けながら反撃のチャンスを窺うしかないとククルスに意識を集中させる。




「お前の相手は私だよ・・・・・・」


 苦戦している明里の援護をしたい美月であったが、ココルスに行く手を阻まれて相手をせざるを得ない状況だった。


「どいてください!」


 ココルスは以前の戦いで披露した分離攻撃を行い、腕や下半身を突撃させて美月を翻弄する。

 

「小賢しい技をっ!」


 広奈と乃愛は群がるナイトメアレヴナントの対処で精一杯だろうし、ここは美月でココルスを相手にするしかない。しかし体を分離することで疑似的に人員を増やすことのできるココルスと一人で戦うのは至難の業だ。現状では四対一となって四方から攻撃が飛んでくる。


「ですが・・・負けません!」


 身を捻って腕の突撃を避けながらココルスの本体である上半身へと駆けていった。




「数は減らせている。このまま全滅させてやる!」


 味方の苦戦を視界に捉えながら乃愛はイービルゴーストやモルトスクレット達に斬り込む。重い斧の一撃で二体を撃破し、更に近くの敵にも振り下ろす。

 ソルシエールを明里達が惹きつけてくれているおかげで乃愛達は順調に敵の数を減らすことができていた。これなら間もなく援護に向かうこともできるだろう。


「イービルゴースト達を倒したらあたしは幸崎の援護に向かう」


「分かりました。では私は稲田さんの助けに」

 

 そうして最後の一体のイービルゴーストを斬り裂き、通常のナイトメアレヴナントは殲滅された。

 しかし、次なる刺客が乃愛達に襲い掛かる。


「なんだっ!?ビーストタイプだと!?」


 空から降って来たのはビーストタイプだ。猟犬の如きしなやかなボディラインをしているが、獰猛な顔つきから強い殺気が伝わる。


「我々からのプレゼントさ」


 明里を相手にしつつ、ククルスは広奈達にそう叫ぶ。どうやらナイトメアレヴナント達の全滅を待って投入してきたらしい。

 ビーストタイプは主である者への忠誠心はあるものの、他のナイトメアレヴナントへの仲間意識は薄い。それこそ融合ヨールも似たような状態になっていたが、ナイトメアレヴナントの被害などおかまいなしに攻撃を行う。なのでイービルゴースト達に乃愛と広奈の体力を削らせて、トドメにゴーストタイプを投入したのだ。


「これはマズいな・・・・・・」


 乃愛の戦闘力ならばビーストタイプとも渡り合うことができるが、それは勝てるという保証のあるものではない。


「広奈!」


 タナカさんを担いだ広奈が乃愛の近くに滑り込み、ビーストの噛みつきを防御した。


「あたし達二人で一気に倒しちまおう」


「そうですね。長引かせるわけにはいきません」


 明里や美月がいつまで凌げるか分からないし、決着を早急に着ける必要がある。なにより広奈達の体力だって永遠にはもたないのだから。

 広奈はビーストの突進を避け、その背中に飛び乗った。そして斧を勢いよく叩きつける。


「効いている!」


 青白い血しぶきが斧を染める。それを振り払うように再び振り下ろされてダメージを与えた。

 だがこれはビーストの怒りに火をつける行為でもある。身を振るって広奈を落とし、足で踏みつけようとしてきた。


「やるじゃん・・・!」


 巨体が繰り出す踏みつけはタンクローリーさえスクラップにできそうな威力で、そんなものをまともに受けたら間違いなく死に繋がる。バックステップでその一撃を回避し、地面を踏みつけた足を斬る。

 ここまではユメクイ側が攻撃を当てているが、しかし有効なダメージを与えられていない。それこそ頭部のような弱点に直撃させられればいいのだが、それ以外の部位に当てても致命傷とはなりづらいのだ。


「敵の動きが・・・?」


 直線的な攻撃では簡単に対処されると悟ったビーストは攻撃パターンを変えてきた。尻尾の先端に揺らめくエネルギーによる炎が眩く発光し、いくつもの火球が放たれたのだ。


「遠距離攻撃かよ!」


 それらはホーミングミサイルのように乃愛達を追尾してくる。霊器で破壊していくが同時にいくつもの火球が襲いくるので対処は難しい。


「なんて攻撃だよ!ったく!」


 しかも火球にユメクイの意識を向けさせ、ビースト自身も突っ込んできたのだ。


「マズッ・・・!」


 ビーストの突進をサイドステップで避けようとしたが、背後から近づいてきた火球に邪魔された。その火球を斧で叩き落とすも、次の瞬間、ビーストの前足の薙ぎ払いを受けて後方に吹き飛ばされてしまう。


「くっそ・・・・・・」


 全身に痛みを感じて呻いた。しかし地面に転がっているわけにもいかない。このままでは火球が降ってくるか、ビーストに踏みつぶされる。


「動けよ・・・!」


 必死になって上体を起こすが、立ち上がることはできない。その間に再びビーストは火球を放った。


「三島さん!」


 迫りくる火球に対して広奈が立ち向かい、乃愛の前に立ってタナカさんで全ての火球を防いだ。


「すまねぇ・・・・・・」


「こういう時はお互いさまです」


 ようやく立ち上がれた乃愛は痛みを忘れるように敵に集中する。


「火球で陽動してあたし達に近づいて噛み砕く気だな」


「厄介な作戦ですが、あのビーストが近づいた時こそチャンスです。噛まれる前に頭を破壊すればよいのですよ」


「だな。それっきゃねぇ」


 再び撃ち出される火球。だがもう乃愛達は狼狽えない。


「見切ってみせる!」


 ビーストは先ほどと同じ戦法で時間差で突っ込んできた。ならむしろ接近を待てばよい。


「来たなっ!」


 暴れるように周囲を囲う火球をすり抜け、乃愛は噛みつこうとしてきたビーストの頭部に向かって霊器を構える。

 これで渾身の一撃を叩きこめば勝てると思ったのだが、


「後ろにっ!」


 広奈の叫びで乃愛がハッとして振り返ると背後には火球が迫っていた。


「ならばさ!」


 乃愛は攻撃を中断して横に逸れる。すると火球はスレスレで乃愛を掠め、ビーストの顔面に直撃した。


「よっしゃ!」


 爆煙が巻き上がり、乃愛はしたり顔になったがすぐに眉をひそめる。


「まだ生きているか」


 頭部の一部を損壊しつつもビーストは生きていた。そして益々怒りを増幅させて口を開く。

 てっきり咆哮でも上げるものだと思ったが、そうではなく口から大きな火球を放ってきた。


「しまった・・・!」


 口から放たれた火球は乃愛の近くの地面に着弾し、爆散して散弾のように小さな火炎の塊をまき散らした。その火炎の塊が乃愛の腰を貫き、乃愛はその場に膝をつく。

 ビーストを目の前にして機動力を削がれるのは致命的で、勝利を確信したようにビーストの前腕の爪が突き出される。


「させません!」


 広奈がタナカさんで爪を受け止めて弾き、その一瞬で乃愛に手を伸ばしてハイレンヒールを行使する。これで傷はすぐに修復されるが、広奈自身のピンチを招く行為であった。

 ビーストの前腕が振るわれ、それを防御しようにも姿勢制御が間に合わない。そのため中途半端な防御となりタナカさんが弾かれてしまう。


「広奈っ!」


 乃愛が広奈を守ろうにも遅かった。

 もう片方の前腕が広奈に襲い掛かり、鋭い爪が小さな広奈の体を抉る。


「そんなっ・・・!」


 脇腹から青白い生命エネルギーが飛び散り、乃愛の眼前で広奈は力なくその場に崩れ落ちる。

 


 時が静止した・・・・・・



  -続く-












 




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