第17話 Invite

 ククルス達が帰還した拠点というのはクイーンやイズルが拠点としている場所であり、言うならば居候状態なのだがいつかは乗っ取ってやろうと画策していた。その野望は隠しつつ、しかしナメられないよう横柄な態度は崩さない。


「どうでしたか?ユメクイ達と戦ったのでしょう?」


 イズルに背後から声をかけられたククルスは少し不愉快に思いながらも向き直って応対する。


「様子見をしてきました。まあ勝てる相手ですよ、あんなのは」


「そうですか。ならお手並みを拝見したいですね」


「いずれお見せしましょう。それより、イービルゴーストかモルトスクレットを譲っていただきたい。次のユメクイとの戦いで使いたいので」


「は?こちらとて数が少ないのですから自分達で用意したらいかがですか?そもそも勝手に居付いたのですから我らが協力する義務もありませんが」


 イズルとて必死にエネルギーを回収しているのだ。時にユメクイの妨害を受けつつも地道に人を襲っているわけで、それをよそ者に渡すほどイズルはお人好しではない。


「ていうかアナタ達はそれなりの数を温存していますよね?それを使えばいいではないですか」


「まあそうですね。仕方ありません、こちらでなんとかしますよ」


 立ち去るククルスに舌打ちしつつ、ユメクイ達にさっさと討伐されればいいとイズルは心の中で呪詛の言葉を呟いていた。






「アイツらに好き勝手されている現状に正直我慢ならないのですが?挙句に図々しいですし」


 相変わらずぐうたらで働く様子もないクイーンに愚痴をこぼすイズル。この苦労が報われる日が来るのかと疑問に思うが、このダメ上司の配下にいる内はただこき使われるだけなのだろうなと半ば諦めている。


「そうカリカリするな。その怒りのせいで室温が上がるではないか」


「上がるのは私のフラストレーションですよ」


「落ち着け落ち着け。あの二人組がユメクイの気を引いている内に魔結晶は配置できたのであろう?」


「そりゃあできましたよ。街を囲うように配置し、これで術式を展開するための準備は完了しました。ですが全くエネルギーが足りていません。これではアナタの言う計画とやらは実行に移せませんよ」


 クイーンは現状を打破して新たな支配体制を整えるための計画を思いついていた。それはイズルのようなソルシエールが配下に加わったことで現実味を帯び、それに興味を惹かれたからこそイズルも渋々ではあるが従っているのだ。


「あの二人組を囮にして、ユメクイ共がそちらに集中している隙にエネルギーを集めればいいではないか。それにヤツらも我らと同じようにエネルギーを集めるはずだし、頃合いを見て奪い取るのも手だ」


「それをアナタが?」


「いや、お前が」


「ですよね」


 支配者気取りなのはいいが、それにしても働かなすぎである。支持率の高いリーダーというのは自らも積極的に働くものではないだろうか。


「まったく、アナタの力は並みのナイトメアレヴナントよりも強力なのですから役に立てたらいかがですか?」


「ここぞという時に実力を発揮するのがカッコイイんじゃないか」


「そのここぞというタイミングを見誤らなければいいですけどね。力の使い加減をミスればそれは敗北に繋がりますよ」


「おいおい、我を誰だと思っているのだ?この我に失敗はない」


「さいですか・・・・・・」


 その自信は果たしてどこから来るのか知らないが、この上司はアテにはできないので自らでどうにかするしかない。

 ククルスとユメクイの戦いに乗じて漁夫の利を得る作戦を立てる必要があり、ひとまずククルス達のストーキングから開始するのであった。






「今回はソルシエールはいなかったな」


 乃愛が最後のナイトメアレヴナントを撃破したことで結界が崩れる。

 明里達は四人でナイトメアレヴナント狩りを行っており、これは街全体の防衛という観点では効率が悪くなる方法なのだが、ソルシエールという強敵がはびこっている現状では戦力分散は危険だ。各個撃破されて結果的に全滅という未来しか待っていない。


「どこかで人を襲っているかもしれません。パトロールを再開しましょう」


 美月の言葉に頷き、明里は再び夜の街へと飛び立つ。

 空から眺めると平穏そのものだが、こうしている間にも街のどこかでナイトメアレヴナントが人間の精神や生命エネルギーを回収しているかもしれなく、しかしユメクイの結界探知力も万能ではないので全てをカバーできるわけではない。


「ん?また結界か」


 先ほどの結界からすぐ近く、また新たな結界を発見した。今日だけでも三度目であり、敵の数に辟易しながらも明里は気合を入れ直す。






「明里~、なんかまたお疲れな様子だねぇ」


 千冬に頭上から声をかけられた明里は突っ伏していた机から起き上がる。

 先日は結果的に三つの結界を破壊し、その連続の戦闘のせいで疲れが抜けきっていなかった。いくら肉体的には睡眠状態にあっても精神は活動状態にあるのだ。そのために妙な気怠さに襲われて授業中も集中できなかった。


「ほらもうお昼休みの時間だよ」


「もうそんな時間か」


 見れば教室のクラスメイトはお弁当を用意して座席を移動しており、美月も明里の傍へと寄ってくる。


「体調が良くないのですか明里さん?保健室で休んだほうが・・・・・・」


「大丈夫だ。ゴメン、心配かけた?」


「そりゃあ明里さんのことですもの、いつでも気にかけています」


「それはありがたい」


 どうやら美月は問題ないようで、それはユメクイとしての経験の差からくるものであった。いくら激戦を生き残ったとはいえまだまだ明里はヒヨっこで、疲労コントロールもまだ不完全なのだ。


「そういえば最近謎の病?にかかる人が増えているらしいんだよね」


「謎の病?」


「それがね、夜中寝ている時に急に苦しみだして朝になっても目を覚まさないんだって。かなり衰弱していて死にかけて、そういう患者が病院に運ばれることが多くなったって看護師である私のママが言っていたんだ。でも体は特に異常は無くて、それが何が原因なのか分からないんだって」


「そいつは・・・なんなんだろうな」


 千冬の言葉を聞いて明里は美月に目配せする。どうやら美月も同じ結論に至っているようだ。

 つまり、その千冬の言う謎の病で衰弱している人というのはナイトメアレヴナントに襲われてエネルギーを吸い取られた人達ということかもしれないという推測だ。


「明里もそうならないように生活習慣には気を付けなよ~」


「そうだな。胆に銘じておくよ」




「美月、あの話どう思う?」


 放課後、明里は美月と帰路に就いていた。そこで昼に千冬から聞いた話を切り出す。


「おそらくはナイトメアレヴナントの被害者なのでしょう。エネルギーを吸い取られると衰弱して生命活動自体が困難になりますから。でも時間が経てば一応は回復するので、そうなってしまったら待つしかありません」


「でも回復したらまた狙われることになるかもしれないんだよな」


「ギリギリまでエネルギーを吸い、殺さずに放置することが多いのはそのためです。我ら人間のエネルギーこそが食材であり、人間が絶滅してしまったらヤツらも生きていくことができなくなってしまいます」


 ナイトメアレヴナントのエネルギー源は人間であり、皆殺しにしてしまったら自分達そのものの存在が維持できなくなってしまう。それであえて完全には殺さず半殺し状態で放置し、回復したらまた襲うというやり方をしているのだ。

 賢いとも言えるが人間からしたらたまったものではない。


「ソルシエールが増えたことで敵の活動が活発になっているので被害者も増加しているのでしょうね。我々はこれを阻止しなければなりません」


「だな。けど明らかに人手不足だよなぁ」


「確かにそうですね。ただでさえ少ないのに、ユメクイに死者が出ればそれだけ厳しい戦いになってしまいますし・・・・・・」


 この街にいる四人のユメクイ、その一人でも欠ければ一気に不利になる。誰一人として決して失うわけにはいかない。


「美月は死なせないぜ。アタシが必ず守る」


「明里さん・・・もうあなたって人は」


 顔を真っ赤にしながら美月は明里に密着し、その手をギュっと握った。


「み、美月・・・?」


「こうしてると一人じゃないって思えるんです・・・迷惑でなければ、このまま・・・・・・」


「全然迷惑じゃないよ」


 月飛がこの街を出て以降、一人で活動することが多かった美月。今は明里という味方が隣にいて、その温もりを放したくはなかった。






「お姉ちゃん・・・いよいよ・・・やるんだね」


「ああ。それなりにエネルギーを集めるこができた。引き換えにイービルゴーストを結構な数失ったが・・・・・・」


 ナイトメアレヴナントの精製にもエネルギーが必要であまり失いたくはないが、ククルスの計画が成功すればそんな些細なことは気にしなくて済む。そのためイービルゴーストは追加生産はせず、回収したエネルギーは全て貯めこんである。


「だがまだ足りない。そこでユメクイを利用させてもらう。アイツらは潤沢で質のいいエネルギーを持っているからな」


「お姉ちゃん・・・天才・・・・・・」


「だろう?ユメクイを一掃しつつ、我らの役にも立ってもらう」


 イズル達に対する優位性を示すためにもそろそろケリをつけるタイミングだと判断したククルス。後は一大攻勢を仕掛けるだけだ。


「さあユメクイども・・・ここに来い」






「美月、アレはナイトメアレヴナントじゃないか?」


「そうですね。結界の外にいるのを見かけるのは珍しいですね」


 パトロール中、フワフワと空に浮遊する複数のナイトメアレヴナントを見つけて追跡する。ナイトメアレヴナントもユメクイ達に気がついた様子で逃走を開始した。


「アイツら逃げるだけか」


「ナイトメアレヴナントは結界内でしか実力を発揮できず、外では無力に近いですからね。しかもエネルギー回収の対象となる人間を依代にしないと結界を張れませんから、こういう空では敵に逃げ場などありません」


 ナイトメアレヴナントはそれ単体では結界を張れず、人間の内部でしか現状では結界を使えない。そのためナイトメアレヴナントは地上に向けて降下を開始し、結界の依代とする人間を探そうとするだろうが、その前に倒してしまえばよい。


「ちょこまかと!」


 明里は一体のナイトメアレヴナントを撃破したがまだ敵は残っており、それらは一目散に同じ方向へと飛んでいく。


「あたしに任せろ」


 乃愛が突撃して背後からナイトメアレヴナントを倒し、更にもう一体も叩きつぶす。一方的ではあるが戦とは無常なものなのだ。


「ナイトメアレヴナントの向かう方、結界の気配じゃないか?」


「そう思えますね。その結界に敵は逃げようとしていたのでしょうか」


 まるで誘われて、導かれるようであった。しかしそうであってもナイトメアレヴナントを見つけて放置はできないのだ。


「どちらにせよ倒すだけだ。だろ?」


「そうですね」


 乃愛に対して頷き、美月は浮遊していた最後の一体を討伐した。

 そして結界の場所へと降下していく。これが今までにない激闘の幕開けとは知らずに・・・・・・


  -続く-





















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