第14話 強襲、融合ヨール

 ユメクイ達の猛攻で窮地に立たされたヨール。霊器による傷で腹部に穴が開き、このままではトドメを刺される瞬間も遠くはないだろう。だがここで諦める気はなく、思いついた秘策を実行するべく配下のナイトメアレヴナントを自身の近くに招集した。


「ええい・・・まったくやってくれたなユメクイどもめ・・・・・・」


「一体何をっ!?」


 月飛達が見ている前でヨールの体が眩く発光して周囲のナイトメアレヴナントを巻き込む。その光景に自爆攻撃でも仕掛けてくるのかと思った広奈がタナカさんを正面に構え、乃愛と月飛が盾の影に滑り込んだ。


「くるのか・・・?」


 しかし爆発など起こらず光は収束する。広奈はタナカさんからひょこっと顔を覗かせると視線の先に不気味な存在が現れた。


「あ、あれは!?」


 先ほどまでヨールが居た位置に巨大な化け物が佇立している。蜘蛛のようなふっくらした胴体に多脚が生えており、その胴に大型化されたヨールの上半身がドッキングされていた。


「・・・コロス・・・・・・」


「様子がおかしいな」


 人間サイズだった頃の理性など失っているようで、仮面の奥にある光の無い歪な複眼が月飛達を見下ろしている。


「融合体か。前のデカいイービルゴーストのようなものなのか?」


 美月と明里と共に戦った大型イービルゴーストも複数体が融合して誕生したタイプだ。それは通常のナイトメアレヴナントが見せる挙動ではなく、ソルシエールによって仕込まれた機能なのかもしれないと眼前の融合ヨールを見ながら思案するが、今はそんなことを考えている余裕はない。


「来るぞ!」


 融合ヨールの指先から魔弾が連射され、ユメクイ達めがけて勢いよく飛んでくる。軍艦が対空砲火を上げるが如くの狂気のような射撃にただ回避を行うしかなく、月飛ですら冷や汗をかくレベルであった。




「奥の手を使ったのですね・・・・・・」


 イズルは美月の斬撃を受け止めながらヨールの有様を視界の端で捉え、舌打ちしながら後退する。


「逃がしません!」


「巻き込まれるのはゴメンですので」


 もはやヨールにまともな思考力などなく、ただ全てを破壊するだけの狂戦士となってしまった。ああなっては同胞であるはずのナイトメアレヴナントだろうとかまわず攻撃に巻き込むので、ここに居てはイズルも危険に晒されるのだ。

 明里と美月の追撃を振り切り、イズルは生き残ったナイトメアレヴナントと暗黒へと姿を消した。




「チィ・・・やるな、あの化け物」


 魔弾が腕に掠めた乃愛は焦りを感じていた。

 指先の魔弾の威力はそれほど高くないものの、連射してくるので足を止めるわけにはいかない。もし足に直撃して機動力を削がれたらハチの巣にされてしまうだろう。


「広奈、無事か!?」


「はい、ただいつまで防げるか・・・・・・」


 タナカさんは鉄壁の防御力を誇るが無敵というわけではない。攻撃を受け続ければいつかは壊れるし、防御だけでなく回避も織り交ぜていく必要がある。


「周囲を囲い、射線を避けながら接近するぞ」


 月飛の指示を受けてユメクイ達は融合ヨールの周囲に展開し、大型イービルゴーストと戦った時のような包囲作戦を実行に移す。これなら敵は攻撃を分散せざるを得ず隙ができる可能性があり、誰か一人でも接近できれば勝機が生まれる。


「よし、行きます!」


 月飛達に合流した美月が融合ヨールの背後から突撃をかける。敵は乃愛への攻撃を行っていて今なら斬り込めると思ったのだが、


「!?」


 融合ヨールの首がグルっと周って背中側に向き、仮面の口部分から魔弾を照射してきた。


「危ない・・・!」


 もはやまともな生物とは思えないその挙動も恐ろしいが、口から放たれた魔弾の威力も脅威的だ。美月の近くに着弾した魔弾は地面を抉り爆煙が盛大に巻き上がる。

 

「敵の動きが・・・変形している!?」


 融合ヨールの蜘蛛状の下半身が膨らみ、いくつかの窪みが出現した。そしてその窪みの中から円筒状の突起物がせりだしてユメクイ達に向く。

 

「キエルガイイ」


 円筒がカッと光ると周囲に向かって魔弾を一斉射し、ユメクイの接近を阻むように全方位攻撃を繰り出してきた。

 もはや全身火器とも言える存在となった融合ヨール。これでは近接戦主体のユメクイには対処するのは難しい。


「どうしましょう。どうやって倒したら・・・・・・」


 ビーストとも異なる強敵を前に美月は焦りを隠せない。こんな化け物は見たこともないし、対処方を考えようにも苛烈な射撃を回避するだけで精一杯だ。


「美月、アタシに考えがある」


「どういうんです?」


「アタシが大技でさ、アイツを攻撃する。たとえ倒せなくてもそれで敵を怯ませることができれば皆が近づけるはずだ」


 大型イービルゴーストとの戦いで思いついた戦法を試すつもりのようだ。だが大技使用時は無防備になってしまうとのことで前回は断念したのだ。


「ですがそれでは狙い撃ちにされますよ」


「広奈の助力があればいけるはず。タナカさんの後ろで技の発動準備をするのさ」


 明里は射線をくぐり抜けて広奈の近くに走り寄る。


「頼みがあるんだケドさ」


「どんなです?」


「アタシの大技発動まで敵の攻撃を防いでほしいんだ」


「無茶を言いますね。ですがやってみましょう」


 打つ手がない現状では試せる戦法を実行するほかにない。広奈は膝立ちになってタナカさんを構え、そのすぐ後ろで明里が大剣に自身のエネルギーを集中させる。


「もう少しだ、耐えてくれよ戸坂!」


 いくつもの魔弾がタナカさんに直撃して衝撃で広奈の小さな体が揺れているが必死になって持ちこたえていた。その広奈の頑張りを無駄にはできないし、絶対に仕留めてやるという強い決意が大剣を輝かせている。


「よし!いくぜ!」


「頼みます、稲田さん!」


 チャージが完了して大剣を頭上に振りかざす。広奈は巻き込まれないように咄嗟にタナカさんを引っ込めて後退した。


「くらえよ!夢幻斬りっ!!!!」


 迸る閃光が融合ヨールへと迫りゆく。その火力は空気すら振動させるほど強く、融合ヨールはそれに気がついて退避行動を取るが既に遅かった。

 光の刃によって左腕が吹き飛び、胴も半壊して足の数本も消滅する。血しぶきのように生命エネルギーが弾けて周囲に拡散され、血だまりのように地面の上にこびりつく。


「やったか!?」


 これだけのダメージを受ければ致命的だろう。勝ったと思った明里だが、なんと融合ヨールは再びカタチを変えて立ち上がった。


「やってない!?」

 

 巨大蜘蛛状だった融合ヨールは逆関節の二足歩行型へと変異し、失われた腕部は修復されている。ただしダメージを完全に回復できたわけでなく修復された部位は歪なカタチとなってそれが不気味さを増幅させていた。


「しかしとて!」


 魔弾による射撃が止んだ隙を見逃すユメクイ達ではない。月飛を筆頭に既に肉薄してそれぞれの霊器が融合ヨールを狙う。


「なんと!?」


 融合ヨールは逆関節をバネにするようにして大きく跳躍し、ユメクイ達の攻撃を回避。そして大技を放った直後で動けない明里の傍に地響きを轟かせながら着地した。


「シネ!」


 そして逆手に持った大型ナイフを明里めがけて振り下ろす。


「させません!」


 再び明里の前に立った広奈がタナカさんでナイフを受け流した。金属がぶつかる甲高い音が耳をつんざいて明里は眉をひそめるが、生命エネルギーが回復しきっていない現状ではこの巨大な敵に対抗する手段がない。


「このままではっ・・・!」


 再び融合ヨールが飛び上がり、今度はその巨体で押しつぶそうとしているようだ。魔弾や斬撃なら防御できるタナカさんでもさすがに大質量を活かしたプレス攻撃を防ぐのは厳しい。盾もそうだが広奈の足腰がもたないだろう。


「逃げろ、戸坂!」


「そうはいきません!」


 しかしそれを分かっていても仲間を置いてなどいけなかった。明里を背負うなりして回避する手段も思いついたものの、敵のスピードの方が速くとても間に合わない。

 広奈は明里を庇うように位置取るが、


「やらせるかよ!」


 融合ヨールが着地する前に捨て身の乃愛が突っ込んできた。そして斧をブン回し、空中で融合ヨールの修復されたばかりの腕を切断。融合ヨールの軌道が変わり、明里達の真上ではなくすぐ近くに落着する。


「助かりました」


「このくらい朝飯前よ!」


 広奈の感謝にドヤ顔でそう応える乃愛。しかしこれで勝ったわけではなく、すぐに融合ヨールは起き上がって怒りの咆哮を上げながら突進してくる。


「まだ動けるのかよ」


 乃愛がため息をつきながら斧を担ぎ上げて対峙し、突進を避けて力任せに振りあげた。

 

「妙に素早いヤツめ!」


 融合ヨールは斧の一撃をギリギリで回避しつつ口から魔弾を照射して反撃。掠めて乃愛はよろけるが直撃とはならずに済んだ。


「トドメるにも簡単にはいかねぇな・・・・・・」


「だからこそ皆さんの力を合わせるんです」

 

 追いついた美月と月飛も敵に斬りかかる。


「アタシも行くぜ!」


「もう体は大丈夫なのですか?」


「ああ!」


 大技を放った反動で一時的に戦闘力が落ちていた明里だが広奈達が時間を稼いでくれたおかげで復帰し、大剣を腰だめに構えて駆け出す。


「ここには五人のユメクイがいる。波状攻撃をしかけて敵に避ける隙を与えずに倒すぞ!」


 月飛の言葉に頷く明里達が再び融合ヨールを取り囲んだ。


「じゃあまずはあたしから!」


 一番槍で突っ込む乃愛の攻撃は空振りに終わるがそれでもかまわない。


「そこっ!」


 サイドステップで広奈と距離を取った融合ヨールの腰を美月の刀が裂く。致命的な一撃ではないものの動きを鈍らせるのには充分であった。


「叩き斬る!」


 追撃とばかりに月飛の薙刀が炸裂。残ったもう片方の腕部が斬り落とされて融合ヨールは大きく姿勢を崩した。


「キメるぜ!」


 仲間の奮戦に報いるべく明里も斬りかかろうとしたが、尚も抵抗を続ける融合ヨールの口が発光する。


「私が防ぎます!」


 悪あがきとばかりに撃たれた魔弾を明里と共に前進していた広奈がタナカさんで防御。立ち昇る爆煙をすり抜け、明里が突き出した大剣が融合ヨールの胸部を刺し貫く。


「逝っちゃえよ!」


 そのまま思いっきり大剣を上方に振り抜き、胸部だけでなく頭部すら真っ二つになってついに融合ヨールは絶命した。

 先ほどまで脅威そのものだった融合ヨールの体は生命エネルギーの消失で維持することが困難となって分解されるように崩れていく。その最期を見届けながら明里はその場にへたり込んだ。


「お疲れ様です」


「美月も」


「ふふ、また明里さんのカッコイイ姿を見れて疲れなんて吹っ飛んじゃいました」


 隣にぺたんと座る美月の笑顔が疲れた明里の心を癒していく。


「この結界に閉じ込められた者の魂はあたし達で保護してくるよ」


 広奈を引き連れていく乃愛の後ろ姿を見送った後、入れ替わるように月飛が膝をついて明里に視線を合わせてきた。


「明里君は私の想像以上に頼もしいということが分かったよ」


「褒めてくれるのは嬉しいですけど、アタシ一人じゃまだまだ・・・・・・」


「だがキミの力あっての勝利だった。度胸や勇気は間違いなく称賛に値する。キミなら美月を安心して任せられるよ」


 月飛は明里が美月のパートナーに相応しいか確かめようとしていたことを思い出す。そしてどうやら合格となったようだ。


「ですって明里さん。これからも私を宜しくお願いしますね」


「あ、ああ。任されよう」


 片目を閉じてサムズアップし、明里は月飛に認められた嬉しさと強敵を倒せた達成感に包まれていた。


        -続く-


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