第4話 新たな仲間

 昼休みとなり、明里は美月に呼ばれて再び屋上へと向かう。どうやらこの学校にいるというもう二人のユメクイと対面させてくれるらしい。


「お待たせしました。お伝えした通り、稲田さんをお連れしました」


「ほーん。そいつが例のねぇ・・・・・・」


 屋上に置かれた古びたベンチに二人の少女が座っており、その片方が立ち上がって品定めするように明里の全身を見る。その視線にたじろぎながらも、新入りなのだから自分から名乗り出たほうがいいだろうと自己紹介を行う。


「2年3組の稲田明里っす。えっと・・・ユメクイとして戦うことになったので宜しく」


「あたしは4組の三島乃愛(みしま のあ)。まさか隣のクラスに幸崎以外のユメクイがいたとはビックリだね」


 乃愛はショートヘアのよく似合うボーイッシュな少女だがどこか気だるげな雰囲気を醸し出しており、その点では明里に近しい性格なのかもしれない。 


「なんか頼りなさそうだけど、役に立つの?」


「そういう言い方、やめなさいよ」


 明里のことをあまり快く思っていないのか乃愛は腕を組んでそう言い放ち、それにイラ立った美月が眉をひそめて注意する。一方の明里はというと、特に気にしていないのか平然としていた。実力も見たことない新入りを信用しろというのが無理な話で、それは実戦で証明するしかないという冷静な思考が働いていたからだ。


「こっちは遊びでやってるんじゃないんだ。そういう覚悟があるのか聞きたかったの」


「なら最初からそう言いなさいよ・・・・・・ごめんなさい稲田さん。三島さんが失礼なことを」


 申し訳なさそうに美月が謝ってくるが、それに対して優しい笑顔で頷き乃愛と向き合う。


「アタシはナイトメアレヴナントに襲われたところを幸崎に助けてもらった。あんな恐怖体験はしたことがなかったし、だからこそ人を襲うナイトメアレヴナントを許せないと思ったんだ。このアタシに宿る力で奴らを退治できるというならやってみたいし、助けてくれた幸崎を手伝いたい。勿論遊びでないことは重々承知の上だよ」


「ならいいけどさ。まあなんだ・・・宜しく」


 覚悟はあると認めてくれたのか、乃愛は大人しく引き下がった。それを見た美月はホッとして残り一名の紹介に移る。


「あちらに座っているのは戸坂広奈(とさか ひろな)さんです。三島さんと同じ4組所属なんですよ」


 紹介された広奈はスッとベンチから立ち、とことこ歩いて明里の目の前に迫った。まるで小動物のような愛らしさのある少女で、明里は初対面ながらも庇護欲をそそられる。


「あの、戸坂です・・・・・・」


「戸坂ね。宜しく」


 明里は手を差し出し、少し躊躇いながらも広奈が握り返す。どうやら広奈は大人しい性格のようで人付き合いはあまり得意ではないらしい。


「アナタは優しい人ですね」


「そう思うか?」


「触れると分かるんです。理屈じゃなくて、感性で」


 それはユメクイとしての能力ではなく、広奈個人の感覚なのだろう。人を観察する力や、本質を見抜く力が優れている人間の一種だと言える。


「良かったです。三島さんのような捻くれ畜生人間ではなくて」


 大人しそうだが案外口が悪いようだ。


「おいおいそんなに褒めるなよ広奈。照れるじゃねぇか」


「おまけにアホですし」


「アホ言うな!」


 捻くれ畜生はよくて何故アホに怒るのか分からないが、この二人は割と仲が良いのだなと明里は思う。険悪ではなく、お互いをよく知っているからこそのやり取りだと直感したのだ。


「個性的なお二人ですが・・・上手くお付き合いしていただければ幸いです」


「悪い人じゃないってのは私にも分かるし、これから交流を深めていけば大丈夫さ」


「そう言っていただけて良かったです。お二人とも実力はあるので、今度の実戦でお互いの戦闘スタイルを把握し、ナイトメアレヴナントを倒す同志として頑張っていきましょうね」


 現在この街に存在するユメクイ全員が集っているわけで、このメンバーで強敵ナイトメアレヴナントと対峙していくことになる。明里は若干の不安を感じながらも、彼女達と共に戦っていくことを決意した。






「なあ千冬、この前の話だけどサ・・・・・・」


 学校からの帰り、明里は千冬といつものファーストフード店に寄り道していた。美月も誘おうかと思ったのだがクラス委員の仕事があると断られてしまい、その時の美月の物悲しい表情が心に残っていて、今度予定がなさそうな時にでもまた誘ってあげようと脳内メモに書いておく。


「この前の話?」


「ホラ、悪夢の中でお化けみたいなヤツに襲われるって話だよ」


「ああ、アレがどうしたの?」


「今なら信じられるなと思ったんだ」


 最初にナイトメアレヴナントに襲われた日、まさにこのファーストフード店で千冬から悪夢に関するウワサを聞いていた。あの時は都市伝説レベルの信憑性の無いウワサだと明里は信じなかったが、実際に体験した挙句に今ではユメクイとして当事者となってしまったのだ。 


「どういう心境の変化?あっ、まさか明里もお化けに襲われる悪夢を見たの?」


「まあそんなトコロかな」


「そうなの!?いいなあ、私も見てみたいなあ」


「んないいモンじゃないぞ。怖いんだから」


「明里が怖いっていうんだから相当なんだね。悪夢と言うくらいのものだし、確かに楽しいものではないよね」


 と言いつつもウワサへの関心が無くなったわけではないようだ。そんな千冬の反応を見ながら、ウワサの真実を知ってしまった自分は既に一般人とは違う世界に足を踏み入れてしまったのだなと実感する明里であった。






「さてと・・・・・・」


 その日の深夜、アニマシフトという幽体離脱の術を使い、明里は魂だけの存在となって東高山市の上空を飛んでいた。まだ不安定な飛行ではあるが先日よりは上達しており、ユメクイとしての彼女のセンスの良さが窺える。

 そうして移動した明里は目的地へと降下し、待ち合わせ相手の美月と合流した。


「待たせたな」


「いえ、私も今来たところです」


 ニパッと明るい笑顔で出迎えてくれた美月の傍に滞空して周囲を見渡す。三川公園と書かれた看板を街灯が照らしており、いつもなら活気のある公園であるのだが時間が遅いこともあって人気は無い。


「あの二人は?」


「もうすぐ来ると思います。待ってみましょう」


「おう」


 学校から帰った後に美月から連絡があり、今夜のパトロールは乃愛と広奈と合同で行うことになったのだ。普段は乃愛と広奈の二人はペアを組んで街の南側を担当していて、北側を担当する美月と巡回する機会は少ないらしい。


「四人もいればナイトメアレヴナントも怖くないな」


「確かに人数が多いほうが戦いは楽になりますね。でも油断は禁物ですよ。戦いでは予想外の危機に見舞われるものですから」


「そうだな。死ぬときは一瞬で死ぬのが戦いというものだものな」


 いくら歴戦の勇士だって戦場では簡単に命を落とすことがある。だから優位になっても決して慢心してはいけない。


「てかさ、普段は一人でパトロールしていたんだよな?」


「そうですよ」


「それで生き残ってきたんだから、幸崎って相当な腕前なんだな」


「いえ、そんな大したものではありません。私の姉のほうがよほど優れたユメクイです」


「へ~・・・って姉?」


 どうやら美月には姉がいるらしく、同じようにユメクイのようだ。


「はい。以前は私と姉で共に戦っていたのですが、この街が比較的平和になってからは激戦地を求めて隣の県に行ってしまったのです。そこで大学に通いながらユメクイの活動を精力的にしています」


「激しい戦いがお好みなのか?」


「そのようです。戦闘狂ですね、言うならば」


「へ~・・・・・・」


「たまにこちらに帰ってきますから、その時になったら紹介します」


 そんな会話をしている中、明里は何者かの気配を感じて視線を上げる。上空から降りてきたのは乃愛と広奈で、彼女達も霊衣を纏って見慣れない姿となっていた。


「よう、来てやったぜ」


「お、お待たせしました」


 乃愛は黒いタンクトップにショートパンツというラフな格好で、広奈はファンタジーアニメにでも登場しそうな甲冑を纏っている。


「おいおい、稲田。アンタ・・・超ドエッチだな。人を欲情させようとしているとしか思えない霊衣だ」


「ひでぇことを言うな・・・・・・」


「だって、そんなアダルトゲームに出てきそうな改造制服の霊衣なんか着てりゃあそう思うっしょ」


「好きでこんなん着てるわけじゃないぞ。そういう三島だって露出が多いじゃんよ」


 事実、乃愛の胸元は大きく露出しているし、ショートパンツで太ももが露わになっている。とはいっても明里のほうが布面積は小さいが。


「あたしは健康的なエロさで、アンタのは卑猥なエロさっていう差がある」


「皆してアタシを痴女扱いするんだから・・・・・・」


 前に美月に痴女みたいな感じと言われたことを思い出して若干へコむ。なんとしても霊衣を変更する手段を探そうと、それこそ美月の姉にでも相談しようか真剣に考える。


「わたしは似合っていると思いますよ。個性的でステキだと」


「戸坂・・・なんてイイやつなんだ。世の中はまだ捨てたモンじゃないな」


 明里は広奈の頭を撫でてやり、嬉しいのか広奈はニコニコしていた。それを複雑そうな顔で美月が見ているが、明里は全く気がつかない。


「それじゃあパトロールとしゃれこもうぜ。最近ナイトメアレヴナントが増えてきたような気がするし、幸崎達との連携を深めておきたいからな」


「そうですね。稲田さんという新たな仲間もできたことですし、東高山を守るユメクイとして団結しなければ」


 四人は公園から飛び立ち、夜の街を空から眺める。そうしてナイトメアレヴナントによる結界が出現してないか確認するのだ。

 そうして暫くは平穏なパトロールが続いたのだが、ついに結界を探知し、ユメクイ達は臨戦態勢をとった。


「このマンションから結界の気配がしますね」


「悪霊どものお出ましか」


 乃愛は自信家なのか先陣を切ってマンションの一室に侵入し、三人がそれに続く。


「稲田、行けるか?ビビッてたりしてないか?」


「ビビッてなんかないさ。いつでも行けるよ」


「ならいいけどな。まっ、無理はすんなよ」


 広奈には捻くれ畜生人間などとあだ名されていたが、乃愛にもちゃんと人としての優しさはある。一応は新人である明里の心配をしており、素直な言い回しではないが気持ちはちゃんと明里に伝わっていた。


「では行きましょう」


 マンションの一室でうなされる女性へと近づき、その体内に発生している結界の中へと四人は入って行く。これで明里が結界に入るのは三回目であるが、寂れた廃村のような光景にも慣れてきた。


「さてと・・・・・・」


 広奈は空中に描いた魔法陣から朱色の巨大な盾を取り出し装備する。小柄な彼女の全身が隠れるほどで、その存在感に明里は目を惹かれる。


「それ、スゲーデカい盾だな」


「そうでしょう?タナカさんっていうんです」


「誰?」


「このコのことです」


 広奈は盾を目で示す。どうやらタナカさんというのはその盾の名前のようだ。


「でもなんでタナカさん?」


「タクティクス・ナイトレイド・カーマイン、略してタナカさんです」


「戦略的な夜襲の朱色・・・?」


 全く意味の分からない名称で、広奈のネーミングセンスはあまり無いということは分かった。


「敵の気配は近いぜ」


 乃愛は大きな斧を装備しており、それが彼女の霊器らしい。見たところ明里の大剣より攻撃力が高そうだが、その分扱いは難しいそうだ。


「皆さん、慎重に行きましょう」


 美月の言葉に頷き、明里も霊器を取り出して敵の姿を探す。

 再びの戦闘の時間が訪れようとしていた。


      -続く-






 

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