静観の方針

1か月近いお休みを頂いてしまい、申し訳ありませんでした。

本日より隔日投稿となりますが、和風ファンタジー世界~の投稿を再開させていただきます!


纏まったお休みが取れ次第、書き溜めを作って毎日投稿に戻させていただきますので、暫しお待ちください!


――――――――――――――――――――




「おお……っ! おぉ~~っ!!」


 グライドを疑っていると言い切った蒼の言葉に、前のめりになったやよいがきらきらと瞳を輝かせて歓喜の声を漏らした。

 何が彼女をここまで喜ばせているのか、という疑問を燈が抱く中、非常に上機嫌になったやよいがふんふんと頷きながら蒼へと言う。


「いや~、まさかあの蒼くんが人を疑うことを覚えるだなんて、感慨深いにゃ~! これもあたしが長い間お尻に敷き続けてあげたお陰だね!!」


「……否定したい気分と否定出来ない気持ちが半々になっててとても複雑だよ、僕は。取り合えず、話を続けていいかい?」


「もちろん! 続けて、続けて!!」


 割と真面目な話を茶化された蒼が苦笑とも呆れともいえない微妙な表情を浮かべながらやよいに問いかければ、にこにこの彼女は大喜びで彼へと話の続きを促してみせた。

 確かにやよいの言う通り、すっかり蒼も彼女の尻に敷かれるようになったなと、相性の良い二人の様子に少しだけ心を弾ませながら、燈もまた仲間たちと共に蒼の話に耳を傾ける。


「先に述べたように、これは完全に僕の勝手な想像であって、確証はなにもない。ただ、もしもグライドさんがなにかを企んでいるというのなら、ここから何か動きがあるはずだ」


「動きって……例えば?」


「集落で何か事件が起きた、とかかな。脱走者を抑え切れずに逃亡を許してしまったとか、妖の襲撃を受けてしまったとか、内容はなんだっていい。僕たちがその問題を解決するために動くような状況を整えるってことさ」


 回収した武神刀たちを見つめ、その不自然さが意味するところを考えながら蒼が言う。

 不自然なのは刀たちだけではなく、グライドの言動やあの集落の存在そのものといった部分にもおかしな点が存在している。


 何かが怪しい。単なる慈善家とは思えない、油断ならない空気を纏ったグライドへの不信感は、蒼だけでなく燈や他の蒼天武士団の面々も抱いているものだ。

 だが、そこから先に踏み込むための何かが、グライドへの不信を決定的にするための証拠が、今の自分たちは持ち合わせていない。

 だからこそ蒼は彼の出した条件を飲み、その誘いに乗ることで、グライドが何を企んでいるのかを知るための手掛かりを得ようとしているのだと、ここまでの説明で理解した仲間たちへと、彼は締めの言葉を口にした。


「……僕の心配が杞憂で終わって、何もなければそれでいいんだ。脱走した生徒たちの身柄を確保して、幕府が迎えを寄越すまでの間、何事も起きなければそれでいい。だが――」


「十中八九、何かが起こる。幽霊船やら脱走者やらで混乱してるこの土地で、事件が起きないはずがねえ。それがあの男の手によるものなのか、はたまたただの偶然なのかを見極めるための時間と手掛かりを見つけるために、この誘いに乗った……そういうことだろう?」


 要点をまとめた燈の言葉に頷き、肯定の意を示す蒼。

 グライドや彼が統括する集落、そして幽霊船に対して警戒を払いながら状況を静観するという方針を打ち出した彼に対して、反対意見を述べる者は現れなかった。


 武士団としての意見が一致したことと、ここからの動きに関しての意識も共有出来たことにひとまずの安堵を得た蒼は、話を終えて解散を宣言しようと思ったのだが……そこで、どうにも不審な動きをしている人物がいることに気が付く。


「……で? やよいさんはどうしてそんなにそわそわしているのかな?」


「ん? いや、お話が終わったら蒼くんにご褒美のお尻ど~んをしてあげようかと思ってさ! 人を疑えるようになった記念、的なやつ!」


「それ、ご褒美っていえるの!? っていうか、別に僕はそんなものを求めてはいないんだけど!?」


「でも嫌がってもないでしょ? 遠慮しないでよ! 蒼くん、なんだかんだであたしのお尻が大好きなんだからさ~!」


「遠慮なんてしてないんですが!? むしろ、そんな辱めを受けたくはないんだけど!! っていうか、真面目な話の最中にそういうの止めてくれないかな!?」


「だから話が終わってからしてあげようって言ってるじゃ~ん! 団長の威厳はしっかりと守る、副長の心得ですな!」


「この会話を聞かれてる時点で僕の威厳はぼろぼろだよ……」


 先程までの不穏な気配はどこへやら、普段通りのいちゃつきというか、夫婦漫才のようなやり取りを繰り広げ始めた蒼とやよいの姿に燈たちが楽し気な笑みを浮かべる。

 まあ、そもそも蒼に威厳というものがあったかどうかが怪しいのだが、ともかくこの可愛い副長に翻弄される団長の様子を見守っていた燈は、彼をからかうために口を開いた。


「もしかして俺ら、邪魔か? んじゃ、部屋に戻るから、やよいと思う存分楽しい時間を過ごせよ」


「一応、仕事の最中だってことは忘れないようにね。羽目を外し過ぎるの、よくない」


「一線は超えるなよ!? 絶対、絶対だからな!!」


「ちょっとぉ!? みんな、なんだか僕の不幸を楽しんでない!?」


「むっ!? こ~んなに可愛くてお尻もおっぱいも大きい女の子に構ってもらえてるのに、不幸だってぇ? これは聞き逃せませんにゃ~! 気が変わるまで、躾けてあげないと……!!」


 じりじりと距離を詰めるやよいと、そんな彼女から逃げるように後退していく蒼。

 桔梗邸でも行われているやり取りがこの永戸でも行われていることにほのぼのとした感情を抱いた燈たちは、黙って二人のあれやこれやを見守ることにした。


 まあ、蒼がやよいから逃げ切れる未来は見えないし、ほぼ確実にお尻ど~んされるんだろうなぁ……という平和(?)な考えを頭に浮かべ、様々な問題や不安定な情勢を抱えている自分たちの気分を明るくしてくれる光景に安堵した燈は、どったんばったんの騒動に発展していく二人のやり取りを眺めながら、この日常が変わらず続けばいいな、と考えていた。

 ……の、だが――


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