あの戦いの後、聖徒会は……


「脱走って……どういうことだよ!? 学校でなにがあったんだ!?」


「……説明すると長くなる。全ては一か月前、聖川会長たち大和国聖徒会のメンバーが鷺宮領から帰還せず、そのまま行方不明になったことから始まったんだ」


「!?!?!?」


 王毅が口にしたその情報に、燈が驚愕の形相を浮かべる。

 あの匡史が、タクトが、自分を陥れた生徒たち全員が、鷺宮領での一件の後、学校に帰還していないということを知って愕然とする燈へと、王毅は集団脱走事件の成り行きを語っていった。


「俺たちもある程度は鷺宮領で起きたことの報告を受けている。タクトの片腕が落とされ、大和国聖徒会が壊滅的な被害を受けたこともだ。だから、最初は意気消沈した会長たちは自分たちの惨めな姿を見せたくなくてわざと帰還を遅くしているんじゃないかと考えていたんだが……それにしたって帰りが遅過ぎた。これはおかしいと思い始めたのが、君たちが偽の蒼天武士団を捕縛した頃と同じタイミングだ」


「それで、お前たちはどうしたんだよ?」


「幕府の命を受け、俺は慎吾たちと一緒に鷺宮領から東平京へと続く道を辿り、会長たちの足取りを追い始めた。領主の玄白さんにも協力してもらって調査を進めた結果、とある森の中で争った形跡と血の跡を発見したんだ」


「……誰かに襲われたのか? 妖か、落ち武者狩りか?」


「わからない。ただ、幕府はこれを仲間割れだと判断したみたいだ。落ち目の大将と副将に見切りをつけた部下が、二人を襲って金目になる物を略奪した後に野に落ちた……失踪した生徒たちが所持している武神刀が現場に残されていなかったことから、妖に食われて死んだとは考えにくい。残るは落ち武者狩りの方だが、あの地域はそんなに治安も悪くないし、疲弊していたとはいえ大和国聖徒会もそんじょそこらの賊に負けるような腕はしていないはずだ」


「新しく聖徒会に入った面子は一度俺を裏切って、殺そうとしたっていう前科がある。今回も役に立たなくなった聖川と黒岩を裏切って、自分たちだけで好き勝手に生きる道を選んだ……そう、幕府は考えてるってわけか」


「……あるいは、全てが嫌になった聖川会長が乱心し、部下を引き連れて野盗に成り下がったという可能性もある。だが、まだそれらの仮説を確定させるだけの情報は出ていない。憶測でこれ以上語るのは止めておこう」


 王毅の意見に頷きながら、ここまでの話の重要事項を頭の中で纏める燈。

 およそ一か月前、自分たちと鷺宮領で邂逅した匡史たち大和国聖徒会の面々は、それから学校に帰還することはなかった。

 彼らが辿ったであろう道の途中では何者かが争った形跡があり、幕府はそれを大和国聖徒会が仲間割れした形跡だと考えている。


 しかし、まだここから生徒たちの集団脱走にどう繋がるのかがいまいち判らない燈は、視線で王毅へと話の続きを促した。


「話を戻そう。幕府に報告を行った俺たちは、続いて失踪した大和国聖徒会のメンバーを探す命令を受けた。もしも彼らが野盗になったとしたら、それは妖以上の驚異となる。彼らは皆、この世界の人々を軽く超えるだけの気力を持ち、その扱い方も習得している上に、武神刀まで持っているんだ」


「そんな奴らが好き勝手に暴れまわったら、とんでもない被害が出る……一刻も早く連れ戻さねえとヤバいな」


「ああ。さっき虎藤くんも言った通り、彼らには前科がある。再度罪を犯すことにも抵抗感はないはずだ」


「……ったく、幕府はどうしてそんな奴らを解放しちまったんだよ? 自分の立場を犠牲にしたお前の頑張りが全部無駄になっちまったじゃねえか」


「同感だよ。こういった事態を避けるための処罰だったはずなのに、それを幕府自ら無駄にした挙句、更に状況を悪化させてる。笑い話にもならない」


 珍しく、他者への悪態を口にした王毅の反応に小さく笑みを浮かべる燈。

 学校では清廉潔白なリーダーとして悪口など言わない彼が、自分の前で本音を吐露してくれたことが、彼からの信頼の証でもあると思えて、少しだけ嬉しかった。


「とにかく俺たちは失踪した大和国聖徒会のメンバーを探すため、ここ数週間彼らの足取りを追い続けた。だが……それが、結果として生徒たちの脱走を招いてしまったんだ」

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