崩壊の序曲
初陣を終えた英雄たちは、段々とその名に相応しい実力と風格を身に付けつつある。
各軍団がそれぞれに鍛錬を重ね、連携を強め、より強く、多くの敵とも戦えるよう、戦術に磨きをかけているようだ。
これならば、民たちに彼らを英雄として紹介する日もそう遠くない……そう思っていたのだが、段々とおかしな雰囲気になってきた。
おかしな雰囲気とは、比喩表現ではない。本当に、言葉通りに、彼らの間に流れる空気がおかしくなっているのだ。
明らかに、仲間同士であるはずの彼らの関係性が悪化している。
誰も彼もが各軍団が功を競うどころか、同じ軍団内でも我こそが最強だと言わんばかりの勢いで争いを繰り返していた。
彼らは皆、まだ若く、野心や向上心に燃える者たちなのだから、ある程度の衝突は予想していたが……これは流石に予想外が過ぎる。
どうしてこうなったのか? と理由を探ってみれば、その原因はこれまた予想外なところに存在していた。
我々が英雄たちの団結と競争心を煽るために利用していたあの少年……初陣での彼の活躍が原因だったのである。
徒党を組み、集団で戦に臨んだ大半の若者たちよりも、たった一人で連携もなしに戦場に出た彼の方が戦功を挙げてしまった。
その活躍は幽仙さまが彼のために特別に用意した武神刀の力があってこそではあるが、結果として自分たちが出し抜かれた形になったことが、若者たちの不満を爆発させてしまったようだ。
無理に協調性を見せ、軍団として動かずとも、絶対的な個の力があればそれでいい。
あの少年の活躍は仲間たちの間にそんな考えを蔓延させ、それが今日の不和に繋がってしまったということだ。
彼が仲間たちの中で最も気力量が少ない人間であることも災いした。
ドンケツの彼でもあんな活躍が出来るというのなら、気力の量なんて関係ない。結局は武神刀の性能で強さが決まるんじゃないかという思考が広まってしまったのである。
幽仙さまは、あの少年を哀れんだ自分が余計な肩入れをしてしまったせいでこんな事態になるなんて……と、ひどく自分を責めておいでだった。
確かに幽仙さまが手を貸してしまったことが直接的な原因ではあるが、元々は我々があの少年を踏み台として利用していたことが原因なのであり、そういった若者同士の人間関係についての意識が浅はかだったことこそが根本的な問題だったのであろう。
このことについて、幽仙さまを責めることは出来ない。
我々は、英雄たちの人間関係について手出しをしなさ過ぎた。三十三名という召喚者たちの関係性について把握しようともせず、放置し過ぎてしまった。
状況の変化に過敏になったり、そういった精神的な未熟さも残る若者だからこそ、我々大人が補佐し、上手いこと導くべきだったのに、その役目を放棄してしまったことへのツケが、こういう形で回ってきてしまったということだろう。
彼らを導いていた存在である教師も、彼らの成長の妨げになると判断して引き離してしまったことも原因の一つだ。
いや、もうあの教師にも力を得た彼らを制御することなど出来なくなっているとは思う。だがそれでも、子供たちだけで軍という集団を回させようとしていた我々の判断は、間違いなく誤りだったということだけは判っている。
こういった不和はすぐに収まるものなのだろうか? 今から彼らの人間関係を取り持とうとすれば、修復することが出来るのだろうか?
もう遅過ぎるという感じが否めなくもないが、このまま放置し続けていくことは間違いなく悪手だ。
どうにかしたいところだが……我々は、この問題を打破することが出来るのだろうか?
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