第二回英雄召喚実験についての反省

 ……前回の記録は私情を全面に押し出し過ぎた、記録者としてはあるまじきものだったと猛省している。

 今回はそんなことにならないよう、冷静に事実のみを記すよう努力しようと思う。


 さて、第二回召喚実験における成果はほぼ皆無ではあるが、何一つとして得るものがなかったというわけでもない。

 少なくとも、数十名の話を聞けるを呼び寄せることが出来たことは、成果といえば成果だ。

 ……まあ、それも一生懸命にひり出した数少ない収獲であり、支払った代償に対しての成果としては最低限以下の代物なのではあるが。


 また少し私情が出てしまったが気を取り直して記録に戻ろう。

 五十名の異世界人たちのうち、既に環境の変化と医療器具の不足のために病が急激に進行して命を落としてしまった者が数名、精神錯乱を引き起こしてまともに会話が出来ない者も数名、そもそもが会話の出来る状態ではない人間も数名と、合計すると二十名近くの人間が本当に意味のない召喚者となっている。


 こう言ってはなんだが、死んでくれた者はまだよかった。その人物たちを養う費用や物資が必要ないからだ。

 食事や衣類は勿論のこと、病人ということで薬も必要となる彼らを生き長らえさせることは、普通の人間よりも手間がかかると言えるだろう。

 彼らから情報を収集したり、何らかの力を貸してもらえるのならまだしも、完全なるただ飯食らいである老人を十数名も養うことは完全に無駄な出費としか言いようがない。


 残酷で非情な物言いに聞こえるだろうが、これはこちら側の人間が誰しも考えていることだろう。

 無責任に人を呼び寄せた上にそんな無責任なことを言われては異世界人たちも堪ったものではないだろうが……全ては愚かな幕府のせいだと思って、諦めてほしい。


 ……話を戻そう。召喚した異世界人のうち、約半数は使い物にならない人間なわけだが、残りの半分からは有用な情報が引き出せるはずだ。

 なにせ、彼らは我々が異世界召喚の目的地と定めた日本に住まう人間なのだ。別の国で生き、軽くその話を聞いた程度の人間よりも詳細な情報を持っているに違いない。


 やることは第一回の反省の時と変わらない。基本の情報収集、これに尽きる。

 異世界人が住んでいた日本という国はどんな文化があるのか? 以前に聞いた話は本当なのか? それらを確かめた上で、第三回の召喚に備えての情報を集めたい。


 最優先すべきは、『健康な若者たちが集まる場所』についての情報だ。

 妖に対する戦力としては、肉体的な絶頂期を迎え、気力も充実し、将来性も十分にある若者こそが相応しいはず。

 加えて、大和国が国を挙げて英雄として祭り上げることになる人物だ、老人よりも若い人間がいいし、不細工よりも美形な人間である方がいい。


 男でも女でも構いはしないが、やはり男の方が安心感があるだろう。

 女性の方は戦力とならなくとも、高い気力を子孫が受け継いでくれる可能性がある。

 英雄同士が子を成せば、相乗効果で我々の想像を遥かに超える逸材が生まれるかもしれない。


 そういった諸々の考えを含めて、我々の目的は上記の通りのより相応しい場所の選定を行うための情報収集と決まった。

 前回と比べ、話を聞く人数が十倍程度に増えているが……これも大和国の未来のためだ、全力を尽くそう。


 問題はそこまで都合よくそんな地域が見つかるかどうかだが、こればっかりはあちらの世界に期待するしかない。

 ともかく、私は私のすべきことを成すだめだ。それが半分以上は幕府の尻拭いというのは気に食わないが、自分の仕事を全うするとしよう。

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