六日目・答


「っ……!?」


 右手に触れる、柔らかく温かい感覚。

 少女らしさと刀を振る武士としての両方の色を持つ小さな手が己の手に重なったことに気が付いた蒼が、殺し切れなかった声を息遣いとして漏らす。


 小指から順番に折りたたまれていくその手を握り返すように、お互いが指と指の間に己の指を差し込むようにして握られていった二つの手は、数秒の後に硬い繋がりを持つようになっていた。


「………」


「………」


 無言。静寂の夜。

 風の音も、寝息の音すらも聞こえない部屋の中で、蒼とやよいは段々と穏やかになっていく自分たちの心臓の鼓動を感じていた。


 先程まで感じていた異様な緊張感が薄れ、段々とそれが安心感と心地良さに変わっていくことを感じる二人は、自分の想いが相手に伝わっていることを確信している。


 握り合ったこの手が証明しているもの。それは、お互いの意志。

 求めているし、受け入れる。声に出さずとも、差し出された手を握り返したその行動によって、蒼とやよいは文字通り通じ合うことが出来ていた。


(……そっか、明日か。明日、か……)


 ぎゅっと、想いを確かめ合うようにして蒼の手を握る左手に力を込めれば、彼もまた自分と同等の力を以てその手を握り返してくれる。

 彼の望みを、求めを、己の運命を……受け入れるか否かを迷っていたやよいは、己の下した決断によってその全てに対する迷いを振り払った。


 これでいい。それでいい。もうなにも、恐れる必要はない。

 彼が望むなら……自分は、彼に抱かれよう。それを、他ならぬ自分自身も望んでいるのだから。


 明日、全ての答えが出る。少なくとも、何も起きないなんてことはないだろう。

 だから今は、こうして互いの想いを確かめ合うのだ。


 君のことが大切だ。君をもっと、傍で感じていたい。

 そんな蒼の想いが繋いだ手から伝わってくるように思えるのは、きっと自分の勘違いなどではないだろう。


 今はいい、これでいい。焦る必要はないのだから。

 明日、自分たちがどうなろうとも……きっと、その全てを受け入れることが出来る。


(……おやすみ、蒼くん)


 声に出さず、心の中で蒼へと想いを送る。

 きっとこの想いがテレパシーのように蒼に伝わっているはずだと、そんな不可思議な確信を抱きながら、やよいが瞳を閉じる。


(おやすみ、やよいさん)


 微睡に身を任せる寸前、彼女が心で感じたのは、大好きな人からの優しく温かい想いだった。

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