三人娘の勘違い会話
「うぬぉぉ……!? あ、あれが世間一般の常識だというのか……!? 世の女性とは、ああいった展開に憧れるものなのか……!?」
「まあ、栞桜ちゃんにはあんまり良さがわからないかもね。ああいうの、嫌いそうだし」
「素養がある者だからこそ、そのありがたみがわからないというやつ、ね……」
「うぬぬ……」
敗北した姿が映える素養なんて欲しくないという言葉を、栞桜がぎりぎりで飲み込んだ。
そこで彼女がその意見を述べてくれればこの混乱は収まったのではあるが、そうならなかった結果として彼女たちの会話はますます混沌を深めていく。
「それはそうと栞桜ちゃん? さっきの意見、どういう意味? 私が一番当て嵌まってないって、むしろ逆でしょ?」
「逆、逆か……? 私は自分の考えに自信が持てなくなってしまったから、もうなんとも言えん……」
「悔しいが、こころの方が私より上なのは認める。でも、栞桜の方が当て嵌まっているとは思う。死ぬほど悔しいけど」
「え……? 栞桜ちゃんってそうなの? 私より上手に(家事が)出来るの?」
「(性交が)じょ、上手だなんて、いうな! そんな、恥ずかしいことを言えるはずがないだろう!?」
「え? 別に恥ずかしがることじゃないでしょ。むしろ誇るべきことだと私は思うけど?」
「私としては、(胸が大きいことを)誇られたら、それはそれで腹が立つ。己の未熟さを突き付けられているようで……!!」
「あぁ……まあ、涼音ちゃんはしょうがないよ。気になるんだったら色々と(家事を)教えてあげようか? ちょっと経験を積めば、私くらいにはなれると思うけど……」
「むっ……!? わ、私も、こころみたい(な大きさの胸)に、なれる……!? そんな夢のようなお話が、あるだなんて……!!」
「待て待て待て! 急になにを言い出すんだ!? っていうかこころ、お前はどこでそんな(交わりの)経験を積んで……!?」
「え? どこでって、普段の生活で普通に積んでるんだけど……?」
「……まあ、(胸が大きくなる要因の一つが)生活習慣の一環というのは、確かかも」
「なああっ!? そ、そんな、まさか……!? わ、私が知らないだけで、そんなことが日常的に行われていただなんて……!? よ、世の中とは、かくも恐ろしいものなのか……!?」
「知らないって……栞桜ちゃんも普通に見てるはずだよ? 今日だって確か――」
「うわああっ!? わ、私は何も知らない! 見てない! そんな話、もうこれ以上聞きたくないっ!!」
……多少、補足を加えて判りやすくしてみたが、どうしてここまで絶妙に噛み合っていない会話がとんとん拍子に進むのかが甚だ疑問だ。
家事のことを話しているので平然としているこころと、そんな彼女の話す内容を淫らなことだと思い込んで愕然としているむっつりすけべの栞桜、そして胸が大きく出来るかもしれないと過去最大に瞳を輝かせている涼音の奇妙なやり取りは、綺麗に勘違いだけを深めながら着々と進んでいく。
「まあ、そろそろ話を戻すとしてさ。燈くんがえっちな本を持ってて、それを私たちが見つけちゃったってことはどっちにもバレちゃったんだし、それもアピールポイントに加えてもいいんだよね? だとしたら、明日からは一層気合を入れてご奉仕しちゃうぞ~!」
「んなっ……!?」
「ひぇ……?」
燈から家庭的な妻として見てもらえるように明日からの家事に気合を入れて取り組む、という意思表示をしたこころであったが、栞桜と涼音はその奉仕という言葉を曲解して受け取ったようだ。
栞桜は顔を真っ赤にして口を半開きにし、涼音は白目を剥いた驚きの表情を浮かべて硬直してしまっている。
「お、お前、奉仕だなんて、そんなことを開けっ広げに言って、恥ずかしくないのか……!?」
「こころ、恐ろしい子……!」
「え……? あ、ああ! 安心してよ! 燈くんだけえこひいきするつもりはないからさ! 栞桜ちゃんにも涼音ちゃんにも、全員平等にご奉仕するって!!」
「なあっ!? お、お、お、女同士で、そんなことを……!? そ、それは禁忌ではないのか……!?」
「こころ、恐ろしい子……っ!?」
話が、また怪しい方向に進行している。
純粋に燈だけを贔屓して家事炊事をするつもりはないというこころの言葉が、残りの二人の耳には百合的な意味に聞こえてしまっているようだ。
このままでは燈ではなく、こころに純潔を散らされてしまうかも……と、怯える栞桜と涼音。
そんな風に戦々恐々とする二人の姿を見つめていた蒼はなんだかよく判らないうちに混沌を極め始めている三人娘の雰囲気を察知して、隣の親友へとひそひそ声で話しかけた。
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