怒り爆発寸前
『やだぁ、蒼さんってばやらし~な~!』
そんな、元気なようで僅かに不快感を滲ませたやよいの声が、彼女が残した式神から響く。
その声に反応した蒼が机の上に隠していた式神を出してみれば、そこには偽蒼に体を触られるやよいの姿が映し出されているではないか。
『ふふふ……! よいではないか、よいではないか~! 君だって、少しは期待してるだろう?』
『え~、そんなことないですよ~! あたしってば、そんなにお尻の軽い女に見えます?』
『うん? ……いやぁ、そんな風には見えないさ。なにせ、こんなに大きな尻をしているんだからね!』
『ひゃぁんっ! ……もう、すけべだなぁ!!』
絶妙、といえば絶妙な塩梅のやり取り。
やよいは上手く相手をコントロールし、一定のライン引きをしつつ、相手に不快感を与えずに必要以上の接触を拒み続けている。
セクハラじみた発言や、軽く尻や胸を触られる程度の行為など、彼女にとっては大したものではないのかもしれない。
確かに、栞桜のような直情的な人間が同じような扱いを受けた方が、問題といえば問題になるだろう。
が、しかし……彼女が平気だからといって、周囲の人間全員がそれを受け入れられるわけではない。
同じ卓を囲む栞桜と涼音はあからさまに嫌な顔をしているし、映像越しに偽者の蒼からセクハラを受ける彼女を見る燈だって良い気分ではないのは当然の話だ。
だが、だが……その光景を目の当たりにして、誰よりも不機嫌になっている男が、その燈の隣にいた。
「………」
「そ、蒼……? だだだ、大丈夫、か……?」
「……大丈夫って、何がだい? ただ見てるだけの僕の何を心配してるのかな?」
静かにそう語る蒼だが……その表情からは、笑みが完全に消え去っていた。
先程までの会話の流れもあって、普段の平静さを保つ余裕がなくなっているのだろう。
べたべたとやよいの体を触り、時に尻や胸といった女性の大事な部分に手を伸ばしてはいやらしくそこを揉む自分の偽者に向ける彼の怒りは、燈ですらも若干怯える程に激しいものであった。
「……相手は全員揃ったみたいだし、そろそろ乗り込んでもいい頃合いだね。まずは店主に相談して、お客さんたちを退避させよう」
「あ、ああ、そうだな……」
「あ、じゃあ僕、話してきますね!!」
「あっ!? おま、正弘っ!?」
このいたたまれない空気を感じ取った正弘は、蒼の発言に我先にと席を立ち、この場から逃げていった。
自分に全てを押し付けた彼の背を見つめ、俺も一緒に連れて行ってくれよと突っ込みを入れる燈であったが……場の空気は、一層厳しい方向へと向かっている。
『ん~? どうにも不思議だなぁ。君のような子供がこんなにも危険な代物を持っているだなんて、信じられないよ』
『こら、蒼ちゃん! 嫌がる女の子の体をべたべたと触るもんじゃないわよ!』
『ふはは、栞桜は不思議なことを言うね。今や国士無双の英雄として称えられる僕がここまで懇意にしているんだ、彼女だって嬉しいに決まってるだろう? ねぇ?』
『う~ん……でもやっぱり、少しは遠慮してほしいかなって……きゃっ!?』
『蒼ちゃん! いい加減になさい!! 今の言葉が聞こえなかったの?』
『聞こえてたさ。最初にうん、と言ってただろう? つまりは僕にこうされることが嬉しいってことさ』
『もう、ちょっと……調子に乗りすぎですよ、蒼さん……!!』
やよいの肩を抱き、小さな体を抱え込むようにして逃げ場を塞いだ偽蒼が、もはや言い訳のしようがないくらいにがっしりと彼女の右胸を揉む。
我が物顔で彼女の体を弄り、堂々とセクハラを繰り返す彼に対しては栞桜も涼音も怒りを感じているようで、偽栞桜と偽やよいの両名はどんどん悪くなっていく雰囲気を感じ取り、仲間の無礼を止めようと声を上げているが――
『おうおう、そっちもおっぱじめたみたいだな! それじゃ、俺たちも楽しもうかね!!』
『お嬢ちゃん方、お酒は足りてる? 今晩は思いっきり酔って、この後の本番に備えないとねぇ』
『むっ……!?』
『うんっ……!!』
残る偽燈と偽涼音に関しては、この乱痴気騒ぎに乗っかって自らの欲望を叶えようとしている始末だ。
なみなみと杯に酒を注ぎ、栞桜と涼音を酔わせようとしつつ、偽蒼に倣うようにして栞桜と大きな胸とほっそりとした涼音の脚を撫で回す二人は、下品な笑みを浮かべていやらしい騒ぎを楽しんでいた。
『おお、でっけぇ乳だな……!! 重量も抜群で、揉み応えがあるぜ!』
『こっちの子はお肌がすべすべね……何を食べたらこんな風になるのかしら?』
『い、いい加減に、してくれます、でしょうか……? 流石に、そろそろ、看過出来なくなってきておりますですことよ……!?』
怒りのあまり口調が変になっている栞桜の様子にも何かを感じ取ることなく、むしろそれを笑い飛ばす偽燈。
おそらくはこうして強引に女を酔わせ、口説き、食い物にしてきたのであろうということを感じさせる慣れた手付きに女性陣が怒りを募らせる中、偽の蒼天武士団の男連中が、更に一歩踏み込んだセクハラを口にする。
『ねえ、もしかして君たち、あの連れの男たちに揉まれてここまで胸を育てたのかい? そういう関係の男がいるかくらい、教えてくれ給えよ』
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