幕間の物語~偽蒼天武士団、現る!?~

偽者が現れた!?

「俺たちの偽者が出ただぁ!?」


「はい、そうなんです」


 桔梗邸の客間に燈の素っ頓狂な声な声が響く。

 一体全体どういうことだと言わんばかりの表情を浮かべ、熊ですらも竦み上がるのではないかと思わせるくらいの鋭い威圧感を放つ視線を向けられているのは、燈の後輩にして今は王毅軍の斥候役を任されている田中正弘だ。


 その彼が告げた衝撃的なニュースに燈が信じられないといった反応を見せる中、話し合いに同席していた蒼が言葉としてその詳細を正弘へと尋ねる。


「田中さん、それはどういうことでしょうか? 僕たち蒼天武士団の偽者とは、いったい……?」


「実は、ここ最近、蒼天武士団を名乗る連中が様々な悪事を働いているとの報告が神賀先輩の下に寄せられていたんです。適当なやり口で妖を討滅して、仕事内容に見合っていない高額な報酬を要求したり、食事や揚屋での代金を踏み倒したり、弱い立場の人々を脅して金を奪い取ったりと、やりたい放題しているみたいでして……」

 

「おいおいおい、なんだそりゃ? 典型的な小悪党じゃねえかよ?」


「はい。彼らを看過出来なかった神賀先輩が、僕を含めた数名を調査に向かわせた結果、やっぱり先輩たちとは何の関わりもない人間が蒼天武士団を名乗っているというところまでは掴めたのですが……そこで、奴らの足取りを見失ってしまったんです。幸い、東平京の人々も流石に何かがおかしいと思ったのか、連中と本物の蒼天武士団は関係のない組織だということはわかってくれたみたいですが……」


「んにゃろうめ、人様の名前を騙って好き勝手やりやがって……!!」


 正弘の口から語られた偽蒼天武士団の情報に怒りを露わにする燈。

 自分や親友の名前を騙って悪事を働くということは、自分たちだけでなく師匠たちの名も貶めるということだ。


 恩ある宗正たちの名に泥を塗りかねない偽の蒼天武士団の連中に燈が怒りを爆発させる中、同じく怒りを覚えながらも冷静さを保つ蒼が、正弘へと更なる質問を投げかけた。


「それで、その偽者たちが何処に消えたのかはまるでわかっていないのですか? 完全に消息不明になってしまったと?」


「いえ、完全に見失ったわけではありません。少なくとも、奴らはこの昇陽の近くにいるはずです。東で有名になり過ぎた連中は、間違いなく何処か別の土地へ移動すると考えた神賀先輩は、まず北への通路の警備を強化しました。昇陽を含む西方面は蒼天武士団のホームグラウンド、つまりはそちらの方の人々は先輩たちの名前も顔も知っている可能性が高い。逆に、本拠地から離れた地域では、奴らの詐欺行為がまかり通ってしまう可能性が高いはずですからね」


「なるほど……奴らの逃げ場を塞ぎつつ、詐欺行為がやりにくい地域へと誘導したってわけか。神賀くん、なかなか知恵者だね」


 今や国士無双の英雄と称えられるようになった蒼から自身の上官を褒められた正弘が嬉しそうにはにかむ。

 その様子から、彼が王毅といい関係性を築けていることを察した燈もまた、頼もしい後輩が頼れる友人を支えていることを喜ばしく思いつつ、正弘に状況の確認を行うような言葉を投げかけた。


「その口振りからすると、神賀の張った警戒網に偽蒼天武士団の連中は引っかかってねえってことだな? だから奴らはこっちに来てると踏めるわけだ」


「はい。そして、この昇陽にあまりにも近すぎる位置で活動すれば、流石にその噂が先輩たちの耳にも入って来るはずです。だから、奴らは昇陽からやや離れた、東平京と西大和国の境目くらいの位置にいるのではないかという推測までは出来ています」


「なんだよ。そこまでわかってるなら、全然相手の足取りを見失ってねえじゃねえか。俺らも協力するから、さっさとそいつらを取っ捕まえて今までの悪行を償わせてやろうぜ」


「僕たちとしても、自分たちの偽者の存在を許してはおけないしね。我々蒼天武士団も、偽者の捜索とその捕縛に協力させてもらうよ」


「ありがとうございます! 先輩たちが居れば、百人力ですよ!」


 燈たちの助力を取り付けた正弘が、憧れの先輩と共同戦線を張れることに無邪気に喜ぶ。

 燈もまた、頼りになる後輩と共に事件の調査に当たれることを心の中で喜びながらも、その他の大半は自分たちの名前を利用して悪事を働く偽者たちへの怒りで満ちていた。


「偽・蒼天武士団……いったい、どんな奴らなんだ?」


 自分でいうのもなんだが、結構な有名武士団となっている燈たちを騙れるような連中とはどんな人間なのだろうと思いつつ、蒼と共に仲間たちに以上の話を報告した燈は、こころを留守番として桔梗邸に残し、正弘たちが絞り込んだ地域へと調査に赴くのであった。

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