くのいちたちの作戦会議

「虎藤燈、思っていたよりも手強い相手のようね。女の体に触れても一切の淀みを見せなかったあの澄んだ瞳……なかなか、やるわ」


「不意も打てたし、相手に違和感を感じさせない形での接触でもあったんだけどね。流石、大和国中の大名が欲しがる剣士ってことなのかしら?」


 桔梗の案内で離れへとやってきた紅頬の一同は、監視や盗聴の怖れがないかを確認した後に作戦会議を行っていた。

 先の一当てを難なくスルーされたことを悔しがる章姫は、(勘違いを含んではいるものの)燈のことを油断ならない相手として判定したようだ。


 ここでひとまず、くのいち集団紅頬のメンバーを確認しておこう。


 まずは一党のまとめ役を担っている章姫。

 闇に紛れるような黒髪と細めながらもメリハリが利いた体形が特徴的な少女だ。


 そんな彼女に相槌を打つのは、一同の代表として桔梗と話していたやや年上の女性。

 名前は夕紅ゆうべに。包容力のあるグラマラスな体系の持ち主で、おっとりとした雰囲気を醸し出しているが、腕利きの忍である。

 主に姿を明かしての潜入任務の際は長女として一同の前面に立つ他、普段は章姫の補助を行う副長としての仕事も引き受けている縁の下の力持ちだ。


「まさかと思うが……野郎、女に興味がないってことねえよな?」


「あり得ない可能性じゃあないかもね。そうだとしたら、私たちがここに来た意味なくない?」


 粗暴な口調で燈に男色の気があるのではないかと述べたのは、日に焼けた褐色の肌をした少女、飛鳥あすかだ。

 近接戦闘ならば仲間内でも随一の実力を誇り、純粋な筋力や俊敏性もずば抜けている戦闘担当のくのいち。

 だが、決して男の篭絡や調略としての房中術が扱えないというわけでもなく、刺さる相手には刺さるピンポイントシューターのような立ち位置の女性であった。


 飛鳥の言葉に同意しつつ、露骨に面倒くさそうな表情を浮かべている少女の名は清香きよか

 風貌や雰囲気は幼女そのもので、やよいと似通った風貌をしているが……胸部に大きな違いが存在している。

 その小柄な体格を活かしての隠密任務を得意とする他、幼女趣味を持つ男に対しては率先して調略を仕掛ける存在だ。


 そして最後、くのいちにしては珍しく目立つ金髪を靡かせる女性が、ここまでの仲間たちの話を纏めにかかる。


「虎藤燈に関しては先のやり取りは忘れましょう。男好きという可能性は否定出来ないけど、純粋に章姫の魅力が足りなかったって可能性も考えられるじゃない」


「それはどういう意味だ、咲姫さきひめ?」


「言葉通りの意味よ。胸を押し当てるなんて単純な方法じゃ、聞きしに勝る剣豪である虎藤燈の心を乱せるはずがないじゃない」


「……あれを私の本気と考えられても困るんだがな。まあ、押し当てられるだけの胸もないお前には、想像もつかない話なんだろうが」


「へぇ、言ってくれるじゃない? その駄肉がどれだけ役に立つのか、見せてもらおうじゃないの」


 章姫への敵愾心をむき出しにしている彼女の名前は咲姫。見ての通り、二人は犬猿の仲である。

 同い年の二人は、どちらが紅頬の首領として相応しいか、常々争いを繰り広げる関係だ。

 他の仲間たちはそのやり取りを時にうんざりと、時に微笑ましく眺め、いつもの光景だとスルーしている。


「はいはい! 章姫も咲姫もそこまで! ……章姫の魅力が足りないとは思わないけど、虎藤燈の好みとは外れてるって可能性は否めないわ。もっと多角的に、様々な方面から調略を仕掛けるべきだと私は思うけど、どうかしら?」


「ふんっ! ……異存はない。夕紅の言う通り、男には女の趣味というものがある。虎藤燈が私よりもそこのちんちくりんの方を好む物好きかもしれん以上、手を変えるのは自然なことだ」


「はっ! 自分だけじゃ手に余るって素直に言いなさいよ! まあ、いい機会だからこの辺でどっちが女としての魅力に優れているかを教えてやろうじゃない!」


 矛を収めているようでそうじゃない二人のやり取りに小さく溜息を吐く残りの三名は、そこから気を取り直してもう一つの目的を語る。


「虎藤燈にばかり気を取られてるけど、団長の蒼も標的だってことを忘れないでよ? そっちの方に関する情報も集めなくちゃ……」


「そうねえ……。なら、私はさっきのおじさまから話を聞いてこようかしら? あの様子なら、少し押せば簡単に情報を教えてくれそうだし」


 そう言いながら服の内側に手を突っ込んだ夕紅が、自分の乳抑えを外す。

 パサリと畳の上に放り投げられた下着の大きさと、服の下で存在を主張する柔らかな膨らみの強烈さに言葉を失う仲間を尻目に、妖艶な笑みを浮かべた彼女は視線で他の面々へと自分たちがどう行動するかを尋ねているようだ。


「……私たちは屋敷の構造を把握するために動きつつ、虎藤燈と蒼の居所を探ろう。機会があれば、仕掛けることを忘れるな」


「その二人以外にも屋敷に住んでる人間がどれだけいるかは気になるし、その辺のことも調べなきゃ駄目ね」


「んじゃ、標的が女に興味がない人間じゃないことを祈りつつ、動きましょうか! 一刻後には、ここに集まるってことで!」


「うしっ! ……ま、あいつらも若い男だ。男が好きじゃない限り、オレたち五人の中に好みの女はいるだろうさ。そいつが上手いことねんごろな関係になっちまえば……あとは、こっちのもんだ」


 飛鳥の言葉に頷き、笑みを浮かべ……一同が任務に対する自信のほどを伺わせる。


 名立たる剣士、武将、文官の篭絡など、山ほどこなしてきた。

 若く欲が有り余っている童貞を手玉に取ることなど、百戦錬磨の自分たちからすれば赤子の手をひねるようなものだ。


 まずは焦らず、情報収集から入る。

 燈と蒼の性格や女の好みを調べ上げ、その上で作戦を練り上げれば、任務に失敗することなどあり得ないのだから。


 たっぷりの自信と算段を胸に、くのいちたちは住処として与えられた離れを一斉に後にする。

 そうして、作戦の成就のために、それぞれが行動を開始するのであった。

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