幕間の物語~お色気引き抜き大作戦~

くのいち集団・紅頬

第四章幕間の物語シリーズも三本目のこいつで最後です。

未熟な自分の練習に付き合わせてしまい、申し訳ありません。

勝手なお願いですが、あともう少しだけお付き合いください。


――――――――――



「蒼天武士団はまだ色よい返事をせんのか? 彼奴ら、相当に強かな奴らよのぉ……」


 とある国の、とある屋敷の広間。

 そこでは、屋敷の主である貴族の女性とその家臣とが会議を行っていた。


 やや老いが隠せていない、若作りをしている雰囲気が満載の女貴族が文句を垂れる中、彼女の片腕と思わしき地位に就いている男がいそいそと提案を口にする。


「これまで三度、我々は蒼天武士団に専属の武士団になるよう交渉を行ってきました。官職、領土、宝物と、様々な条件を提示してはいるものの、奴らは首を縦に振りません。おそらくは、何処の貴族や大名のお抱えになるつもりはないということでしょう。残念ですが、ここは引き抜きを諦めては――」


「ならん! 私が死ぬほど嫌いなことは、欲しいと思ったものを諦めることじゃ! わしは奴らが欲しい! 欲しいったら欲しい!!」


 既に初老に差し掛かっている年齢だというのに、まるでそこらの子供のように駄々をこねる主の姿に嘆息する家臣一同。

 決してこの領地の経営も上手くいっているわけではない今現在、莫大な恩賞を払って一つの武士団を手に入れられるだけの余裕が自分たちにはないことを理解しているのだが、肝心の領主がこの有様だから問題だ。


 切実に、領地経営に取り組み、数々の問題を解決すべく努力してほしい……と、決して口には出来ない思いを誰もが抱く中、そんなことを露にも思っていない領主はというと、ぽんと手を叩いて明暗を思いついたような表情を浮かべた。


「そうじゃ! 何も武士団一つを丸々抱える必要はない! 私が欲しいのは国士無双の英傑、蒼と百鬼斬りの紅龍こと虎藤燈のみ! ならば、その二人をその気にさせる策を講じれば良い! そもそも若くて美しい女子の剣士なぞ、見るだけで不快じゃからな。強く若く凛々しい男の剣士が私のために戦う様を見ることこそ、人生最大の楽しみじゃよ」


 ほほほ、と高笑いを上げながら、欲望と嫉妬が入り混じった言葉を口走る領主。

 またこいつの悪い癖が出たよ、と言わんばかりの表情を浮かべながらも、彼女にその顔を見られぬように深く首を垂れる家臣たちの背後から、鈴のなるような愛らしい声が響いた。


「ということは、また我々の出番、ということですね?」


「おお! その声は……戻ったか、章姫あきひめ!!」


「はい。章姫以下御庭番衆五名、揃って帰還致しました。それで、次なるご用命は?」


「うむ! これよりお主らは昇陽に向かい、仕立て屋の桔梗の邸宅を拠点としている蒼天武士団と接触せよ! そして、手練手管を用いて団長の蒼と虎藤燈を篭絡し、私の側近とするべく連れて帰ってくるのじゃ!」


「かしこまりました。ちなみに、蒼天武士団には他に何名かの女団員がいると聞いていますが、そちらはどうしますか?」


「そいつらは捨ておけ! 私が欲しているのは先に名を上げた二名のみ! 女の部下はお前たちだけで十分じゃ!!」


「では、そのように……ちなみに、方法の指定は?」


「特にない! すべてお前たちに任せよう! 金が入用ならば好きなだけ使え! 上手いこと二人を連れ帰ったら、褒美も望むままに与えるぞ!」


 後先考えない女領主の言葉に家臣は頭を抱え、章姫と呼ばれたくのいちは装束に隠れている口元をニヤリと歪めて笑う。

 また、余計な出費が増えると悲嘆する家臣たちには目もくれず、章姫は恭しく頭を下げると瞬き一つの間にその場から姿を消してみせた。


「……聞いていたな? 次の仕事だ、昇陽に向かうぞ」


「はいはい。ったく、あの婆さんは本当に人使いが荒いねえ……」


「金払いがいいからそこは大目にみようよ。この土地の領民たちがどうなろうと、私たちの知ったことじゃないしさ」


「うふふ……! そうそう。私たちは稼げるだけ稼いで、毎日楽しく生きていられればそれでいいの。そのためにも、お仕事お仕事!」


「で? なんだったかしら? 蒼天武士団の団長と虎藤なんちゃらって男を連れてくればいいのよね? 何か方法はある?」


「ああ、そのことなら問題ない。奴らには致命的な弱点があると調べはついているからな」


「へぇ……? 押しも押されぬ人気武士団の顔役二人の弱点か、そいつは興味があるな……それで? 何なんだよ、その弱点ってのは?」


 どこか野性味を感じさせる少女の質問に一拍置き、仲間たちからの視線を集めた章姫は、軽く息を吐いた後に燈と蒼の最大の弱点を述べる。


「その二人……とのことだ。それならそれで方法は幾らでもある。くのいち集団紅頬べにほほの恐ろしさを、奴らに思い知らせてやろうじゃないか」

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