こころ

明日から数日間、投稿時間を午後の8時(20時)にします。

ちょっとこの内容を朝に投稿するのは怖い……。


あと♡使ったのに違和感あったらごめんなさい。


一応、公式連載の作品を読んで勉強したんで、この内容ならギリギリセーフだとは思いたいです。


―――――



 こころが言わんとしている決着の判断方法を理解した燈が息を飲む。

 まさか、本当に……そんな真似をするのかと、事ここに至っても未だに現実が受け止めきれていない彼の前で、振り返ったこころが恋敵たちへと尋ねた。


「一番最初、私でいいよね? まだ私だけちゃんとアピール出来てないし……」


 その問いかけに無言で涼音が頷く様を見て、こころもまた小さく頷いた。

 そうやって、もう片方の手で燈の右手を掴んだ彼女は、それを自分の脇腹へと運んでいく。


「……安心して。決着がつくまでは、燈くんの大事な所には触らないからさ。そういう刺激で反応させるのは、なしってことで」


「ん、うぉう……?」


 左手が、こころの柔らかい頬に触れる。

 彼女の小さい顔の、ほんのりと朱に染まったそこが恥ずかしそうに歪む様を目の当たりにする燈の頬もまた、気恥ずかしさに赤く染まっていた。


 もう片方の手は、頬よりも柔らかい彼女の脇腹に触れている。

 肋骨の辺りから、徐々に、徐々に、下へ……骨ばった硬さが消え、代わりに指に確かな弾力を感じさせる柔らかみと吸い付くような乙女の肌の感触が伝わってくることに、燈は全身の毛が逆立つような感覚を覚えていた。


(お、お、お、落ち着け、俺! 興奮すんな! 反応したら駄目だ!!)


 これは、こころが持ち掛けた勝負。燈が男として彼女たちの艶姿に興奮してしまったら敗北という、身も蓋もない決闘。

 正直、自分は得しかしていないとは思いもするが、ここで反応してしまえば中途半端な気持ちのままでこころたちを抱くという良いのだか悪いのだか判らない結末が待っている。


 それは……まだ、避けておきたい。

 しっかりと考え、自分なりに答えを出した上で、彼女たちの想いを受け止めたいと願う燈にとって、この勝負は決して負けられないものだ。


 こころたちの不満も判る。燈の不用意な返答がショックだったことも理解出来ている。

 だからこそ、一見ふざけているようであっても彼女たちの女としての誇りをかけたこの勝負から逃げるわけにはいかないのだと……本気を出したこころたちがどれだけ手強かろうとも、逃げるわけにはいかないのだと、そう覚悟を決めた燈が心に平静を取り戻すための深呼吸を行う。


 幸いと言っていいのかは判らないが、先の涼音の蹴り飛ばしの際に驚いたお陰で、精神的には委縮した状態だ。

 告白の連打で動揺した精神ならば、それを無にすることは難しかったかもしれないと、そう考えながら意識を鎮める燈が、ふぅと小さく息を吐く。


 まさか、宗正と行った修行がこんな場面でも役に立つなんて……と、培った技術の使い方が間違っていなくもない気分になりながらも、感情を無にする燈。

 しかして、そんな彼の想像を遥かに超えるようにして、こころは猛然とした攻めを見せ始めた。


「んっ、ちゅぅ……♡ はふ……っ♡」


「っっ……!?」


 親指が、温かい空間に囚われた。

 少しの湿り気と、露天風呂の空気よりも暖かい温度と、第二関節の辺りを僅かに締め付ける柔らかい何かの感触を覚えた燈の背筋が、ぴんと伸びる。


 ゆっくりと、嬲るように、その空間に囚われた燈の親指に、生々しい動きをする何かが這い回っている。

 指先を、爪を、指の腹を……丁寧に、丁寧に這うそれがこころの舌だと気が付いたのは、彼女がリップ音を立てて咥えた指に吸い付いた時だった。


「んっ♡ ふぅん……っ♡」


 悩まし気な吐息を漏らし、たどたどしさを見せながらも、懸命に燈の親指を舐るこころ。

 その様はまるで赤子がおしゃぶりを吸う姿のようで、未熟な可愛さの中に、女性としての色気を感じた燈の心がにわかにざわめきだす。


 ぷにゅりとした柔らかい唇が親指の根元を挟み、生暖かい舌がその全体を舐める。

 吸う、舌先で突く、丹念に、入念に、愛しさを伝えるように……燈を舐める。


 その行動が何を模しているかを判らない程、燈も初心ではない。

 愛する彼に奉仕するように、この後の本番ではこういうことをするよと言わんばかりに、唾液が溢れる口内で燈の太い親指を吸い舐めたこころが、ちらりと上目遣いで相手の反応を探るような眼差しを向ける。

 そうして、必死になって無になろうと瞳を閉じる燈の姿に僅かばかりの不快感を示した彼女は、咥えた親指の根元に軽く歯を立て、それを彼の肉へと食い込ませた。


「い゛っ……!?」


 少し強めの甘噛みが、燈の意識をびりびりと痺れさせる。

 じんわりと広がる甘い熱が指から全身へと広がり、心臓の鼓動が早まる中、薄く目を開けた彼は、自分を見つめるこころの表情がこれまで見たことがないくらいに艶やかであることに気が付き、息を飲んだ。


「はむ……♡ ん、ふぅ……♡ ちゅぅ……♡」


 徐々に慣れを見せるこころが指への吸い付きと舌の動きを激しくしていく。

 分泌される涎の量も増えているのか、彼女の口からは汚泥を掻き回すような音が響いており、それが官能的な響きを燈に感じさせていた。


 じわじわとせり上がってくる興奮に危機感を覚え、体を強張らせる燈であったが、意識を集中させなければいけないのは左手だけではない。

 こころの脇腹に触れている右手にもまた、彼女の攻めが迫っているのだから。


「ふぅ、ふぅ……っ♡」


 脇腹の肉を、その感触を、燈の手に馴染ませるように、こころが彼を導く。

 下へ、下へ……と燈の右手を導いていった彼女は、腰の近くまで運んだその手を、今度は腹の方へと持っていった。


「ぅぅ……!?」


 腹筋の硬さを感じさせない、柔らかい腹部。

 栞桜や涼音と違い、鍛錬を重ねていない普通の女の子であるこころのそこに触れる右手が、彼女自身の興奮と燈への信頼を感じ取っている。


 この柔らかく脆い部分に思い切り拳を叩き込めば、死すら招きかねない痛みが襲い掛かるだろう。

 それを理解しながら、男と女の腕力差、体格差を理解しながら、それでもこころは燈に腹部を触らせている。


 野生生物が強者に屈服する際、腹を見せるという話を聞いたことがある。

 今のこころは、それに近しい感情で動いているのだろう。

 信頼と、愛情と……燈にならば何をされても良いと、そんな自分の意志を彼に告げるために、こうして自分の弱い部分を触らせているのだ。


 そしてもう一つ、彼女が伝えたいこと、感じさせたいことがある。


 位置にして、丁度へその部分。その僅かに下。脚の付け根との中間にある、下腹部のほぼ中央部分。

 そこに、燈の右手を導いたこころは……ふわりと微笑むと、両手で彼の手を包み込み、そこに強く押し込ませた。


 まるで、のかを、燈に感じさせるかのように……。


「くぁ……っ!?」


 右手が、鼓動を感じた。

 脈動、興奮、生命の息吹。そんな表現が相応しい鼓動を感じ取った燈の右手が、僅かに震える。


 そこに心臓がないことは判っている。この鼓動が錯覚であることもだ。

 だが、だが……今、自分が触れているこころの下腹部の奥には、彼女にとって心臓と同じくらいに大事な器官があることも判っていた。


 かりっ、とこころが親指を甘噛みする。

 燈の視線を顔に向けさせ、自分と目と目を合わせるように誘導させた彼女は、上目遣いの視線で、紅潮させた頬で、蕩けたその笑みで……無言の主張を行う。


 今、燈が触れているその部分は、、と……。


 熱が昂って、鼓動が激しくなって、キーンと耳鳴りがしている。

 今、右手に感じている興奮が自分のものであるのか、それともこころのものであるのかの判断がつかない。


 彼女の言わんとしていることも、その行動が何を意味しているかも、全て、燈には理解出来ている。


 じんわりと足の爪先から昇ってくるような不思議な感覚に、燈が自分の意志とは関係なく反射的に右腕を震わせた瞬間、こころの口から甘い嬌声が響いた。


「んあ……っ♡」


 咥え込んでいた指を吐き出すように大きく口を開き、不意の刺激に堪え切れなかったように膝を折った彼女が、ぺたんとお尻を床につくようにして崩れ落ちる。

 彼女の唾液でふやけ、根元に赤い歯型を残している自身の左手の親指を見つめて固まっていた燈の目が、自分の前でしゃがみ込むこころの姿を映した。


「燈、くん……♡」


 包容力を感じさせる胸を震わせ、興奮による涙を浮かばせた瞳で燈を見上げ、両腕を大きく開いて、女の子座りの体勢を取るこころが、燈の名を呼ぶ。

 自分のことを抱き寄せて、抱き締めて、そして、好きにしてほしいと……そう、言葉ではなく行動で示した彼女の手を取るように腕を伸ばした燈であったが――


「……はい、そこまで。こころの、負け」


「あっ……!?」


 その行動を遮るように割って入った涼音によって、二人の勝負は中断されてしまった。

 びくんっ、と熱狂と興奮が去った思考でこれまでの自分たちの姿を振り返って恥ずかしがるこころに対して、目を細めた涼音が言う。


「燈よりも早く、あなたが興奮したら駄目でしょう? 腰砕けになって立てなくなっちゃったんだから、文句なしの敗北よね?」


「あ、ぅ……」


 一目で判る決着の様を指摘されたこころが小さく呻いて押し黙る。

 言い訳の出来ない状況と、まだ燈が反応を見せていないことを悟った彼女は、こくりと頷くと自分の敗北を認めた。


(あ、危なかった……!! 涼音が割り込んでなかったら、間違いなく流されちまってた……!!)


 そんな動揺を表には出さず、ぎりぎりの勝利に安堵する燈。

 彼の幸運は、肉体と精神の乖離が大きかったことだ。

 心の方はこころの苛烈なアピールと彼女自身の興奮を感じ取ったことで昂っていたのだが、あまりにも急速なその変化に肉体の方が付いていけなかったのである。


 あと少し、ほんの少しでも時間があれば、精神と肉体の興奮が合致していたかもしれない。

 本当に危ない所だったと、額に流れる汗を拭った燈が、深い溜息を吐こうとした時だった。


「じゃあ、次は私の番……よろしくね、燈」


「……はい?」


「勝負するのがこころだけとは、言ってない。と勝負する、と言ったはず」


 さも当然とばかりにそう言い放った涼音が、こころと代わって燈と相対する。

 友人同様に裸を隠すどころか、むしろそれを意識させるように見せびらかす態度を目の当たりにした燈の顔色がさあっと青ざめる中、それとは対照的に楽しそうに笑った涼音が攻勢に打って出た。

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