違和感の正体と幕府の目的


「違和感、って……何か、あったか?」


「……悪い。俺は聖川の奴に意識を向けっぱなしで、他の物に目をくれもしなかった。なんもわかんねえわ」


「私も、よく観察しましたけど……違和感は、感じなかったです。聖川先輩の周囲にいた人たちも立派で綺麗な装備をした、強そうな人たちでしたし……」


 燈も、栞桜も、こころも、蒼の言うこの軍の違和感というものにはまるで覚えがない。

 だが、匡史の周囲に控えていた武士たちも立派な装備をした精強そうな男たちだったなという感想をこころが口にした瞬間、涼音が何かに気が付いたような眼を見開き、呟きを漏らした。


「あっ……!?」


「涼音? なんか気付いたのか?」


「う、うん。確かに、言われてみたらおかしい、と、私も思う……」


「おかしいって、どこがだ? 俺には特に変な部分は見当たらねえんだが……」


「えっ、と……真新し、過ぎる。あの部隊の武士たちの装備は、傷一つない正真正銘の新品ばかり、だった。それが、おかしいの」


「はぁ? それのどこがおかしい? 大きな戦いに備えて装備を新調するすることなど、誰だってするだろうに」


「……あなた、頭にいく栄養が全部胸にいってるんじゃないの? この世界出身じゃない燈とこころが気付かないのは仕方がないけど、あなたはこの違和感に気が付くべきでしょうに」


「お前、私に対してだけ当たりが強くないか!? 喧嘩を売っているのなら、今すぐにでも買うぞ!?」


 非常に冷ややかな視線と、自身のコンプレックスを刺激する涼音の暴言に怒りを露わにする栞桜。

 そんな彼女たちの話に割って入ったやよいは、咳ばらいを一つするとヒントとしてある情報を仲間たちへと伝える。


「まあまあ、落ち着いてよ栞桜ちゃん。今、涼音ちゃんが言ったことに加えて、あの武士たちの年齢を情報として付け加えたら、何かおかしさに気付くんじゃない?」


「あの武士たちの年齢? って、言われてもなあ……」


「……そういや、若い奴ばっかりだった気がするな。だから何だって話だけど――」


「あ! ああああぁっ!?」


 これまでの情報を基に推理を深めようとしていた燈と栞桜は、突如として大声を上げたこころの反応に大いに驚いて彼女の方を見やる。

 自分が予想以上に大きな声を出してしまったことを恥ずかしがりながら、蒼たちが言う違和感に気が付いた彼女は、未だにそれに気付かない二人へと慌てた様子で解説を始めた。


「お、おかしいんだよ、確かに! あの人たちは若くて、装備も新品だった! ってことは、あの武士さんたちは戦の経験が無いか、浅い人たちばっかりなんじゃないかな!?」


「あいつらほとんど新兵、ってことか? ……あれ? ちょっと待てよ? 聖川の奴、総大将なんてやるのは初めてだよな? んな大役を担う奴を補佐する奴らも、戦に出るのが初めての奴らばっか……って、駄目じゃねえか!!」


「ま、待て! 新人指揮官を擁する軍隊が戦に出た例だなんてものは、古今東西山ほどあってだな……あっ……!?」


「気が付いた? これ、攻城戦なの。それも大和国にとって重要な拠点を取り戻す、大規模な戦なの。小国同士の小競り合いなんてものとは比較にならない程に大事な戦いに、新人指揮官と新人武将たちが中核となって臨むのよ」


「かんっぜんに……人選ミスじゃねえか!? おい、幕府は何を考えてるんだ!? 戦に勝つつもりはねえのか!? まともに戦うつもりなら、せめて経験豊富な武将を副官につけてやれってんだよ!」


「燈くんの仰る通りだね~……で? 蒼くん的には、その辺の幕府の考えについても想像がついてるんじゃないの?」


 呆れ笑いに近しい表情を浮かべたやよいが、蒼へと話を振る。

 自分の思考を読み切っているであろう彼女の突然の振りにも慌てずに対応しながら、蒼は幕府が考えているであろうことについて仲間たちへと話を始めた。


「うん、まあね……神賀くんの言ってることの半分は正しい。幕府は、この戦を通じて新たな英雄の誕生を大々的に宣伝するつもりだ。彼らは妖を甘く見てる。向こうの数が五百に対して、こちらはおそらく三千ほどの人員が集まるだろう。いくら鬼といえど、およそ六倍もの戦力差を覆せるはずがない。こちらには異世界から召喚した腕利きの英雄もついてるんだから、勝利は確定的だろうと考えているんだろうさ」


「んだよ、それ……? これが手ぇ抜いても勝てる戦だって、本気で幕府はそう思ってるのか!?」


「じゃなきゃ、こんな意味不明な人員の配備なんかしないよ。……それに、幕府はもうこの戦いを見ちゃいない。次の戦いに備えて動いているからこそ、経験不足の総大将に同じく若い武将たちをつけたんだ」


「……練兵、ということか? 鬼との戦を通じて、この戦に参加した将兵に経験を積ませようとしていると?」


「ほぼほぼ正解だよ、栞桜さん。ただ、ほんの少しだけ違う。幕府の狙いは、この戦を通じて精強な軍隊を作り上げること。新たなる英雄の長である聖川匡史を頂点に、周囲を若く勢いのある武将で固め、戦の中で活躍した野武士を登用することで人員を確保し……最終的に、それら全てを幕府軍として引き込む。学校側の兵力じゃない、幕府が抱える兵力としての『新生大和国聖徒会』を作り上げることこそが、幕府の真の目的なんだ」



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