開始
電気の明かりだけを頼りに、大理石の廊下を進んでいる。足音をなるべく立てないようにしているのだが、どうしても早く逃げ出したいという恐怖で、気付いたら凄く廊下に反響している。
ゲームは始まった。
とにかく、逃げなければならない……。捕まったら、殺される……!
=====
見知らぬ室内。
窓は一切無く、薄暗く牢獄を連想させるような、カビ臭い空気。
私の隣に、一人の男子が。いや、どう見ても年上だ。
その男子も、この状況に気付いたらしく、あたり一面を見渡して困惑していた。
「オイオイ……、どこだよ、此処……っつーか、オマエ、誰?」
「……私は」
口を開いた途端、重い、教会のベルにような音が響く。
その次に、機械で合成された無感情の音声が脳内に刷り込まれる。
『
「……は」
突然の出来事に、思考回路が停止した。もちろん、私も。
『執行人は所定の位置につきなさい。ルールは前回と同様となります』
「なに、この放送……。執行人…? ルール…?」
「なんだよ……、何なんだよ? ついさっきまで、教会の中を散策してたのに……。まさか、俺も殺されるのか…?」
男子の方も理由は分からないようで、私はその部屋から追い出されるように付近の扉を開けた。私が出ていくこともつゆ知らず、ただ喚き散らしていた。愚者のように。その姿は、私の感情をかすかに高揚させてくれた。
部屋の外は更に薄暗い。まさに一寸先は闇の状態。
壁には、何か文字が書かれているようだったけど、やはり暗くて読めなかった。
目がやっと慣れてきて、歩き回って10分が経とうとしていた。
「……あれ、ここ、さっき通ったっけ……」
まあ、確かに迷うのも無理ないし、どこもかしこも同じような造りになっているからしょうがない。
……何か、奥から音がする。足音が……。
明らかに人の気配がする。シルエットさえも分からない。
「…嫌……、なに、来ないで……」
近づいてきているのに、脚がすくんで動かない。動けない。徐々に距離が縮まって、8m、7m、6m……、さっきの放送で言ってた“執行人”か、それとも、他の参加してる人たちか、だけど、決して良い未来が待ち受けている訳でもなさそうで……。
「……梨乃、さん?」
「なんで……私の名前を……、あれ、
床にへたり込んでしまった私の、恐怖にまみれた顔を覗き込むように見つめているのは、日本に住んでいた頃に世話になった精神科医兼児童相談所職員(ボランティアに近いのかな……)の、先生だった。
「やっぱり……! 梨乃さんじゃないか! よくここまで無事だった……!」
「無事って……、先生は何か知っているんですか」
「ああ、知っているとも。全てを……ね」
先生は、わずかに口元を歪ませると、手を差し出した。さっきの表情については、特に気にならなかった。
「まずは、向こうの方へ行こうか。いつまで床に座っているつもりだい? 汚れちゃうよ」
手を伸ばして、掴もうとして立ち上がった時に、先生の手首に、生々しい傷跡が残っていた。まるで……、何かで叩かれたみたいに。
先生はいつも長袖だ。空調だって効いているのに、半袖や腕まくりをしている場面を見たことがない。
「よし、じゃあ行こうか」
睦まじいように隣に並ぶ先生は、笑顔で満たされていた。
とても、幸福感が溢れ出してくるのが伝わってくる。
状況も把握していない中で、知り合いに会ったのは不幸中の幸いだ。とにかく、この人を頼ることにして、暗い建築物の中を進んでいった。
殺戮劇場 朝陽うさぎ @NAKAHARATYUYA
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