「DAYS of DASH:さくら荘のペットな彼女 ED」(優歌のフェイバリット・マイナーアニソン) その曲は、人によっては縁起が悪すぎますわ

 三年生の卒業式が行われた。


みね 亜津沙あずさ先輩、卒業おめでとうございます」


 私と唱子さんは在校生代表じゃない。けれど、アニ研の部長だっただけに恩を感じている。


「いいのに。バイト先でいつでも会えるじゃないか」


 私は今でも、峰先輩と同じ職場でバイトをしていた。


「でも、お祝いしたくて」

「わたくしもですわ。峰先輩には、優歌さんがお世話になっていますし」


 まるで親のような言い方だ。


 唱子さんが言うと、峰先輩が笑った。


「先輩、あのまま就職するんですね。進学するモノだとばかり」


 峰先輩はそのまま、職場のチーフになるらしい。


「せっかく内定ももらったし、活用しないと。私は大学で勉学に励むより、社会を見てみたかった。私にとって、進学はデメリットでしかないんだ」


 進学したところで、先輩はどうせバイト漬けになると言った。それなら、そのまま就職してしまいたいとのこと。


「今の時代、進学は社会人になってもできますわ。大人になって勉強はできますから」

「学歴が必要になったら、大学も考えてみるよ」


 たしかに、大学に行けばできることは増える。が、先輩にとって学校生活は窮屈でしかなかったらしい。


「今から、カラオケに行きませんか? 先輩の好きな歌って、知らなくて」

「ボクもいいかな。歌って欲しい曲があるんだ」


 三人で、カラオケボックスに入る。


「峰先輩、情感が籠もっていて素敵ですわ」


 あの唱子さんが、絶句していた。すっかり、先輩の中性ボイスのトリコになっている。


 私が「今日の日はさようなら」を選曲しようとした。

 

 だが、唱子さんが私の入力する手を止める。


「その曲は、人によっては縁起が悪すぎますわ」

「あ、そっか。世代によっては意味が違うね」


 私は、『さくら荘のペットな彼女』の最終回をイメージしていた。


 しかし、『エヴァンゲリオン新劇場版』の意味にもなる。危うく、劇場版屈指のトラウマシーンを想起させてしまうところだった。危ない危ない。


「じゃあ、この曲を歌ってもらえないかな?」


 峰先輩がリクエストしてきたのは、『DAYS of DASH』だった。『さくら荘』のEDだ。同じアニメでも、この曲は私も大好きである。ここ最近で一番好きな曲だった。


 不器用な女の子に送る等身大の応援歌を、歌ってみる。


 私が歌い終わると、峰先輩は涙ぐんでいた。


 先輩は先輩なりに、目指す道があるのだと思う。何をしようとしているかなんて、知らないけれど。


「ありがとう。少し勇気が湧いたよ。歌ってくれたお礼に、いいことを教えてあげよう」


 峰先輩が、選曲マシンをタップする。


「あ、『邪魔はさせない』が入ってる!」


 私たちがずっと追いかけ続けていた、『F』のED曲が、ようやくカラオケに入ったのだ。

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