「遅れてきた勇者たち:緑山高校 甲子園編 ED」 いわゆる『コクハラ』というやつですか?

「そう、ですか」

「お話ししたかったら、誰かを通じて話せばいいじゃん。いきなり告白とか、ハードルが高すぎるって」


 交際を迫られたら、こちらも構えないといけない。こちらの逃げ足を封じるようで嫌だ。そんな戦略を立てるような人とは、付き合ったとしても不安になる。


「告白ハラスメント、いわゆる『コクハラ』というやつですか?」

「そこまでは言わないけれどさ。相手の事情を察しないでいきなり好きとか言われても、どうやて受け答えすればいいか、わかんない」


 だからこっちも、問答無用で断ったのだ。ハラスメントがあるとすれば、告白自体ではなく、方法に問題があったのである。


「安心しました。優歌さんなりに、考えがあってのことでしたのね」

「うん。告白ってさ、ストレートに行けばいいってもんじゃないから」

「新幹線より速い球を投げても、女房役がいるとは限らないのですわね。『緑山高校』のようですわ」


 キャチャーとの信頼関係こそ、交際には必要なのだ。


 でも、不器用な人にはバッテリーを組むところからが大変なのかな?


「そう考えると、わたくしは随分と失礼をカマしたことになりますわ!」


 突然、唱子さんの顔から血の気が引く。


「どうしたの?」

「だってわたくし、優歌さんの都合も考えず、一方的に友人関係を迫りましたわ」

「いいじゃん、そんなの」

「そうですの?」


 だって、私たちには「マイナーなアニソンが好き」という共通点があったから。


 もちろん、それはきっかけに過ぎない。唱子さんと一緒に遊んで、悩んで、歌った日々は、私にとってもかけがえのないものになった。


「私は、唱子と友だちになれて、よかったと思ってるよ」

「ありがとうございます。優歌さん」


 唱子さんが、チョコレートを渡してくる。


「これは?」


 やけに手の込んだチョコだ。


「レコード型に固めた、チョコですわ。優歌さんにお渡ししたくて」

「ありがとう。大変だったでしょ?」

「エルマさんが手伝ってくれましたので」


 すごいな、唱子さんのお手伝いさんって。


「緑山高校で思い出しましたが、一年生の遠足を覚えてらして?」


 よく覚えている。空気を読まずに『遅れてきた勇者たち』を歌ったんだっけ。


「あの時からわたくし、ずっと優歌さんとお話ししたいと思っておりましたの。声をかけて、本当によかったですわっ」


 突然、唱子さんは泣き出してしまう。


 慌てて店を出て、唱子さんの涙を拭く。


「ごめんなさい、優歌さん」

「ううん。当時は、誰にも心を開けませんでしたから。優歌さんがいてくれたから、わたくしは世界が広がったのです。感謝しきれません」


 想像以上に、唱子さんの中で私の存在は大きかったみたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る