「闘魂(ファイト)!ケモナーマスク:旗揚!けものみち OP」 場外乱闘する準備は、できていましてよ

 運命の時間はあっという間にやってくる。


 まさか、私にラブレターが届くとは。


「きっかけはなんだろ」と思っていたら、文化祭のスタッフだった。私の機転を利かせた動きに、見とれていたらしい。自分ではどうしようもなかったと。


 そんなんで、好きになられてもなぁ。


「唱子さん、ちょっと闘志剥き出し過ぎじゃない?」


 なぜか、唱子さんの方が緊張していた。

 逆に私は、リラックスしている。


「いいえ。ライバルとあっては、溢れる敵意を隠す術を知りませんわ」


 なに、対抗心燃やしているんだろ?


「今のわたくしは、『闘魂(ファイト)! ケモナーマスク』の心境ですわ。場外乱闘する準備は、できていましてよ」

「わかったから。落ち着こう」


 屋上の踊り場まで来て、私は唱子さんと立ち止まる。


「じゃあ、ここで待ってて」

「優歌さんが攻撃されることは」

「ないから。大丈夫」


 屋上にいた男子は、見たこともない生徒だった。私に気づくと、姿勢を正す。


「あの」



「ムリ」




 相手に物を言わせる余地も与えず、私は立ち去る。


「え、あ」

「だからムリ」


 振り返りもせず、私は歩き出した。


「優歌さん?」

「帰ろう」


 私は、唱子さんと手を繋ぐ。 


 もはや、唱子さんとの勝負なんて、とっくについていた。


 やはり私は、恋愛にはまったく向いていない。異性に好意を持たれても、特に心は揺らがなかった。


 もう、さっき告白してきた男子の顔も思い出せない。上級生か下級生かもわからなかった。


「唱子さん、ちょっと寄り道しよっか」


 待たせてしまったお詫びも兼ねて、私はカフェへと連れて行く。


 店に入り、私はホットチョコレートを二つ頼んだ。


「チョコレートなのに、スッキリしていて優しい味ですわ」

「そうなの。私もこの店、最近発見してさ。一緒に入りたいなーって思っていたんだ」


 付け合わせのマシュマロをフォークに刺して、ホットチョコに浸す。うん。マシュマロがイイ感じに溶けて、イイ感じ。 


「ゴメンね。バレンタインがこんなので」


 実は、唱子さんにあげるための友チョコを用意していない。唱子さんはモノを上げるより、こういうサービスの方が好きなんじゃと思ったのだ。


「いいえ。こんなのがいいですわ」


 よかった。唱子さんは満足してくれたみたいで。


「あの、優歌さんは、異性の方とはお付き合いになりませんの?」

「うーん」


 私は、「今はないかな」とだけ答えた。


「ひょっとしてさ、不安?」

「はい」


 唱子さんは、やはり心配しているみたいだ。私が、不機嫌になると誰にでもあんな態度を取るんじゃないかと。本音で語り合うと、拒絶するんじゃないかって。


「さっきの人が、論外ってだけだよ」

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