「Jing Ling:スプリガン テーマソング」 再アニメ化楽しみですわね

 年が明けて、私たち生徒にとって大きなイベントといえば、雪山登山である。


「ぜえぜえ。しんどいね」

「行きのバスが順調だったのが、救いでしたわ」


 連日の大雪でどうなることかと思っていたが、幸い登山時は三月並みの気温となった。

 おかげで雪山と聞いていた山は、チラチラ白い化粧をするに留まっている。


「優歌さん優歌さん。ここに、一枚のプレートがありますわ」

「……山の記念碑じゃん」


 唱子さんが差しているのは、岩に取り付けられた記念碑だ。


「こうでも言わないと、バテてしまいそうですわ」

「そうだね。もうだいぶ先頭からは離れちゃったね」

「頂上にラーメン屋さんがあるそうなので、それまでガマンですわ!」


 ラーメンが楽しみすぎて、お弁当を持ってきていないという。

 お店には、先生の許可さえもらえば入ってもいいらしい。


「いやいや何か食べよう。ガス欠になっちゃう」


 ハンガーノック寸前なのではなかろうか。


「すごい装備だね」

「はい。この日の為に払い下げのレーションを買いまして」

「期限切れのヤツだよね?」


 賞味期限の切れた自衛隊用レーションは、民間でも買えるらしい。品質の保証はしないが。


「海外用レーションだと、クソ甘ったるいジュースや、石のように硬いチョコバーもございまして」


 しかし、上限三〇〇を円オーバーしてしまった。仕方なく置いてきたという。


「山のお供で耐えますわ」

 唱子さんは、羊羹エナジーバーをかじる。


「スプリガンの話をしたので、『Jing Ling』が頭の中でリフレインしていますわ。再アニメ化楽しみですわね」


「あーっ、Netflixでやるんだよね!」

 いたたまれなくなった私は、唱子さんに激安チョコスナックを分けてあげた。


「この際、テーマソングも『Jing Ling』で、と思っていますが」

「夢が広がるねぇ」

「あ、みなさんもう集合していますわ!」


 ドンケツで、私たちはようやく頂上に到着する。


「ようやくラーメンにありつけますわ!」

「えっ、閉まってる!?」


 無情にも、店頭には「経営者法事のため、本日休業」の看板が。


「そんなぁ」と、唱子さんはガクリと肩を落とす。


 これが、田舎あるあるか。突然の閉店は、辺境の地ではよくあることだ。


「なんだか、オーパーツを目前であきらめないといけない状況ですわ」

「待って! うどん屋さんは営業してる! 行こうよ!」


 一杯が二五〇円という、田舎独特の優しい値段設定である。


「ここは豪勢に、天ぷらうどんとしますわ!」

 ハンガーノック寸前で食欲が限界突破した唱子さんは、さらにおいなりさんも追加した。

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