「Good Fine Everyday:フォーチュン・クエストL OP」 わたくしも、この家の子になりたいですわ

 あと数日で、年が明ける。


 今日から、唱子さんがウチに泊まるのだ。


 両親は、親戚の家で年を越すという。

 向こうのお祭りを手伝いに行くだけだから、ついてこなくていいとのこと。

 私に気を使ってくれたのだ。


「あなたが、唱子さんですか。お話は娘から聞いています。いやあ驚いたな」

「お嬢様には、よくしていただいております」

「ご丁寧に」


 ギターを肩に抱えた父が、唱子さんの美貌におっかなびっくりしている。夜が遅い父は、なかなか学校の行事に顔を出せないのだ。よって、今日が初顔合わせである。


「唱子さん、自分の家だと思っていいから、くつろいでいってね」

「お世話になりますわ。おばさま」


 私の母と唱子さんは、文化祭であいさつを済ませていた。


「何のおもてなしもしないで」

「いえいえ。お心遣いありがたくちょうだいいたします」


 母が「ちゃんとお世話するのよ」と、しつこく私に言ってくる。


「わかってるって。いっていらっしゃい」


 ミニバンに乗って、両親は田舎へ。


「散らかってるけど上がって」


「お邪魔致します。初めて人の家に入りましたわ」

 肺を拡張させながら、唱子さんはタタミの香りを吸い込んだ。


「フローリングでは味わえない、奥ゆかしさを感じますわ」


「にゃーん」

 我が家の家主と、唱子さんとの目が合う。


「あらら? どうなさったの、優歌さん? こんなに小さくなられて」

 白い豚ネコを、唱子さんは撫でた。


「それ、ウチのネコ」


「冗談ですわ。お名前はなんとおっしゃるの、ネコサマ」

 正座をして、唱子さんはネコを立たせる。


「パステル二世」

「変わったお名前ですわね?」

「フォーチュンクエストから取ったんだよ。母が独身の頃」

「そんな昔から飼ってらっしゃるの?」

「ううん。そいつの子ども。どこからか子どもをこさえてきたの」


 一世がこの子を産んですぐ死んでしまった。

 代替わりしたのである。

 三匹産んだが、他の子は欲しい人たちにあげて、一番母親の面影があるこの子だけを残した。


「おいくつですの?」

「えっと、一世が産んで、一〇年くらい?」


 デブネコは、当たり前のように唱子さんのヒザに鎮座した。


「ごろごろ」

 パステルは、すっかり唱子さんのヒザが気に入ったみたい。


「この子、めったに人に近づかないのに」

「そうですの? ちっとも怖くありませんわ」


 唱子さんはパステル二世に同意を求める。

 しかし、気まぐれな家主は寝息を立てていた。


「わたくしも、この家の子になりたいですわ」

「いやいや、そちらも、いいご家庭じゃないの。せっかく和解したのに」

「だって、あの家には優歌さんがいませんわ! 優歌さんがいれば、毎日楽しいGood Fine Everydayですわ!」

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