「夜のとばりよ さようなら:私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 特殊ED」 こんなんでいいの?

 辺りを見回しながら、「ココも随分と変わったな」と物思いにふける。


「あそこの壁に絵を飾っているでしょ? あそこはカラオケステージだったんだぁ」


「カラオケなんてありましたの?」


 五〇〇円払うと、指名したメイドさんに歌ってもらえるサービスがあった。


 母は趣味でバンドのボーカルをやっていたので、よく呼ばれたという。

 母も母で、「歌の練習になるから」と、このバイト先を選んだ。

 収録しようにもスタジオが高い上に、バイト先なら金だってもらえる。

 客が聞きたい曲を調べられるのも、ポイントだった。


「亜美さんと、同じ価値観ですわね」

「まあ、亜美ちゃんはライブハウスの人だけど」

「それはともかく、今でも人気になりそうなお店なのに、どうして閉店なんて?」

「経営者が、ヒドいヤツでさ」


 いわゆる、「地下アイドル詐欺」を手がけていたのだ。

 デビューさせてやると偽って、そっち系のビデオに出させる。


 アイドル活動に対して、母はまったく興味なかった。

 歌はあくまで趣味だったから。


 だが、母の友人が引っかかりそうになったのである。


 父と警察に協力してもらい、母は悪漢を撃退したという。


「相手の顔面にマイクをドーンってやったり。もう大騒動だったんだって!」


「まるで、優歌さんのお話を聞いているみたいですわね」

 ウフフと、唱子さんは愉快そうに笑う。


「その経営者が逮捕されて、今の健全なお店になったの」

「ふむ。『夜のとばりよ さようなら』ですわね」


 ラーメンを食べ終わって、私はデザートを選ぶ。


「やはり、ご両親の血を受け継いでらっしゃるのね」

 さもうらやましそうに、唱子さんは微笑んだ。


「ハニトー頼むけど、食べる? 一人じゃ食べるの苦しいかも」

「食べます!」


 しばらくして、頼んだハニートーストが。

 球状のバニラアイスには、チョコレートが網目状に掛かっていた。


「さっきのお話を聞いた後だと、アイスがマイクみたいに見えてきましたわ!」

「アハハ! ホントだ!」


 ハニトーでお腹いっぱいになり、店を出ることに。


「今日は来てくれてありがとう。ごちそうするね」


 電子マネーが使えるので、ICカードで精算した。


「これですわ!」

 なぜか、唐突に唱子さんは手をパンと叩く。


 メイドカフェを堪能した後は、アニメグッズ売り場へ。


 買ったのは、キャラクターがプリントされたパスケースだ。

 ICカードがちょうど入るくらいの。

 私がメインヒロインで、唱子さんはサブヒロインを選んだ。

 お互いにお金を出し合う。


「こんなんでいいの?」

 ケースにカードを差し込みながら、私は唱子さんに尋ねる。


 ヘッドホンやコードレススピーカーなど、もっと高いモノを買おうと思っていたんだけど。


「はい。こんなんが、いいのですわ!」

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