「浸透圧シンフォニー:ささみさん@がんばらない ED」 メイドさんがお料理を作ってないってのは、本当だったんですわね

 私は、唱子さんをビル街の裏手まで連れて行く。


 あったのは、二階建てのメイドカフェだ。


「メイドさんのカフェなんて、初めて入りますわ!」

 ウキウキしながら、唱子さんは胸を躍らせている。


「アニメを意識したメニューなんてありますの?」


 看板に描かれているのは、おどろおどろしい色のドリンクや甘いパスタなどだ。

「人気アニメをイメージした料理」と言われなければ、絶対に箸を付けたくない。


 上がっていくと、「おかえりなさいませ」と声をかけられる。

 それだけで、唱子さんのボルテージが上がった。


「文化祭とは違って、またこれはこれで趣がありますわ!」


 唱子さんはお金持ちと言っても、メイドさんを雇っているわけではない。


「優歌さん優歌さんっ、『浸透圧シンフォニー』なんてメニューがありますわ!」


 向かいから、唱子さんが肩を叩いてくる。


 写真も何もないので、実態がわからない。だが、麺類コーナーにある。


「なんです、これ」

「とんこつラーメンです」 


 意外だった。まさか、メイドカフェでラーメンに出会うとは。


「浸透圧で時短調理した、やわらかーいチャーシューを使用致しました。それが『浸透圧』のいわれでして」


 丁寧に、メイドさんは受け答えしてくれる。 


「それ、二つ頼もうか。デザートは違うモノを頼んでシェアしようね」

「はい!」


 メイドさんにオーダーして、待つことにした。



「まあ、これが伝説のとんこつラーメン! さっそくいただきましょう」


 ヌーハラなんて、気にしない。二人してラーメンをすすった。


「チャーシューがすぐにほぐれておいしい!」


 いわゆるデカ盛り系が来たらどうしようと、後悔するところだ。

 しかし、女性でも食べられる量で値段も抑えられている。

 家庭料理の延長といった味だ。


 これくらいでちょうどいい。

 本格的にガッツリすぎると、デザートが食べられなくなるし。  


「ところで、どうしてここでランチを取ろうと? なんの迷いもなくは入りましたけれど?」



「ここね、両親の元バイト先」

「元、ですの?」

「うん。もう別のお店なんだよね」


 当初、ここは普通のメイドカフェだった。


「母がメイドさんで、父がキッチンスタッフ」


 当時母がやったことと言えば、市販のお菓子をパフェにブッ刺すくらいだったそうな。

 あるいは、レトルトの激辛カレーにコーヒー用の小分けミルクでハートを書いてあげるか。


「メイドさんがお料理を作ってないってのは、本当だったんですわね。まさにメイドさん@がんばらないですわね」


「うん。別の部門で、がんばってたんだよね」


「といいますと?」


 母は、この地に伝説を残している。

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